エルフのジレンマ
ガイア様が残り時間を延長してくれたお陰で、私もチェルの家族と会話する時間が出来た。
だが時間は有限、ここで別れを告げたらもう二度と会うことは出来ないのだ。
だから私は走ってチェルの家族の元へと向かった。
·····なんて挨拶すればいいんだろ?まあいいや!ええい!そんなこと考えてる時間も惜しいわ!!
「あっ!ママだ!」
「チェル、私と話すのは後でいくらでもできるから、今は村のみんなと話をしてきな、·····別れの挨拶はした方がいいからね」
「うん·····ママ、またあとでね」
「はいはい、さっさと行ってきな、時間はほんのちょっとしかないから急ぐんだよ!」
「うん!」
私はチェルを村の人々の元へ送り出し、先ほどまでチェルが会話していたチェルと顔が似ている母親らしきエルフに話しかけた。
事前情報によると、この人がチェルの母親で村の代表的な、みんなのお母さん的な人だったそうだ。
ちなみに名目上のトップである父親はチェルにつかまってるから来ていない。
「こんにちは、皆さんがチェルの家族ですか?」
「そうです、それにスェイゥルュゥ村の皆は家族みたいなものでしたから·····」
·····会話が続かないわ、なんて言えばいいかわからん。
「話は娘から聞いております、テュイェルを助けていただきありがとうございます」
「いえいえ、困っている人がいたら助けるのが冒険者ですから」
「·····その割にはテュイェルを無視し続けていたみたいですけど」
「うぐっ、それは····· 私の所には結構そういう感じの怪しい人が来るので同じパターンだと思いまして·····」
実際、私の元にはしょっちゅう結婚してくれだの嫁に来いだの養子になれなどという、力や財産目当ての奴らが老若男女問わずやってくる。
チェルもそのうちの一人だと思ってたから追い払ってたのだ。
「力ある者は狙われる····· 人間の国でも同じなのですね」
「まぁ、はい·····」
「貴女は強いのですね、スェイゥルュゥ村の皆が総出で挑んでも勝てなかったワイバーンを圧倒したと聞きました、我々一族の恨みを晴らしていただき、感謝いたします」
「たまたま私の活動拠点近くに来ていたので倒しただけですが·····」
「それでも、恨みを晴らし、わが一族の娘を助けていただいた事に変わりはありません、何度感謝しても感謝しきれません·····本当にありがとうございます」
「どういたしまして、それで、皆様に提案なのですが·····」
「なんでしょうか?」
よし、交渉モードに心を切り替えるか。
社会人の交渉能力よ!戻って来い!サボんな!
来た来た、やるぞー!!
「今、私はこの子にママと呼ばれて懐かれています、まだ結婚はしていませんが彼氏もいて、同じくパパと呼ばれています。そこでなのですが、この子を私たちの元で預かってもよろしいでしょうか?」
「もちろんです、エルフは元々ヒトが好きな生き物ですが、この子は少し甘えん坊すぎるところがありましたので·····それにまだまだ子供ですから、頼る相手がいなければ生きていけないと思います、また、エルフが他者に、それも人間·····?にここまで懐くというのは相当珍しい事です、この子も我々と他種族の寿命の差を知っているのですが、それを無視してまで貴女に縋ったこの子の判断を私たちは覆すことはできません。なので、私たちの事を切り捨てられ、独り立ちできるようになるまで、どうかこの子をよろしくお願いいたします」
「·····わかりました、お任せください」
エルフはこの世界でも村単位で孤立した集落を作り、エルフ以外の人間と深く関わろうとしない孤高の種族だと思われている。
だが実際は『エルフのジレンマ』なんていう諺ができるくらい人が大好きで、森で迷い人を見かけると必ず助けるくらい優しいのだ。
しかし、その長い寿命故に多種族と共に同じ時代を生きることができず、愛した多種族の人は必ず自分より先に死んでしまう。
エルフは一夫一妻制を好む、正確には心に決めた相手と永遠に寄り添い続ける一途な性格の者が多い。
故に愛した相手が死ぬと、新たな相手を探すのではなく、一生未亡人のままか相手を追って自分も死んでしまうか、寂しすぎて後を追ってしまうくらい一途なのだ。
また、エルフの夫婦は寿命が近付くと、共に森の一部になるため体を魔法で樹木に変化させるという特殊な逝き方を望んだりもするほどだ。
しかもクールな印象のあるエルフだが、実際はかなり甘えん坊な人が多く、エルフのカップルが街に現れると周囲の糖度が指数関数的に上昇するなんて言われるほど甘えん坊な人が多いのだ。
それは老若男女かかわらず全員がそうで、家族や同じ村の人々が大好きで、狭いコミュニティなので全員が家族みたいな感じになっている事が大半だ。
ちなみに人間大好きで何人もの人間と交際するエルフはエルフの間でビッチとか結構ひどい呼ばれ方をするらしい。
そりゃエルフの感覚では数年単位で恋人をとっかえひっかえしてたら·····ねぇ。
あとエルフは前にも言った通り、物覚えが人間の時間感覚だとめっちゃ悪いし、普段は挙動もめっちゃ遅い、めっちゃのんびり動く·····のだけど、逃げ足だけはすばしっこいしビビりな種族だ。
このあたりでもうお気づきかもしれないが、クールな森の狩人という印象がもたれがちなエルフは、この世界では『物覚えが悪いポンコツビビりですぐ逃げたがる一途な甘えん坊』なのだ。
·····まぁ、ビビりすぎて森に迷い込んだ知らない人をめっちゃ警戒して近付いたり冷たく対応するから『クールで他社と関わるのを嫌う』なんて言われてしまう、まさにヤマアラシのジレンマを体現したみたいな種族でもあるんだけどね。
他種族が大好きだけど、ともに寄り添い続けることができない。
他人を見送る覚悟、自分は麗しい見た目のまま、周囲の者は年を取り死んでいくのを見届ける覚悟を決めるのはそう簡単な事ではない。
私でさえ、神様になって寿命がなくなった後、この問題に悩んで今も考えているくらい辛いことだ。
だが、この子はそんなジレンマを克服してまで私たちと共に生きることを望んだ。
その望みを抱くという事は、並大抵の者では不可能なほど辛く悲しい望みだ。
だからこそ、この子の願いを、覚悟を、私も、本当の家族も、否定をすることはできない。
「私はまだ15歳、訳あって精神年齢は少し高いですが、それでもこの子の半分も生きていない若造です、それに、まだ子供も育てたことがなくて、何をすればいいかわかりません·····でも、この子のことを守ることならできます、まだ力も弱く、未熟ですが新たな神として、この子を守ると皆様に誓います」
「·····わかりました、神様、我々の大切な娘をどうかよろしくお願いします」
「もちろんです····· あぁ、もうすぐ時間だ·····」
ふと気が付くと、残り時間はたった7分ほどにまでなってしまっていた。
だが、私が話している間にもチェルは泣きながら村の皆に、大切な家族たちに別れを告げていけているようだ。
それもあと数人で終わりそうで何とか一安心だ。
「·····チェルのお母さん、心残りはありませんか?」
「そうねぇ·····あの子の成長した姿は見てみたかったかしらね、私に似てるから、きっと立派な子になると思うわ····· そうね、あとは私たちの遺品を森に埋葬してくれないかしら?エルフは森に還る事を望む種族ですので·····」
「それでいいんですか?」
「·····いえ、できることならこの子に遺品を渡してあげてください、私たちが生きていた証拠を、この子に家族がいたことを証明できる記録を、残してあげてください」
「·····わかりました、S級冒険者ソフィ・シュテインがその依頼を引き受けましょう、お代はチェルの親権でどうですか?」
「はい、よろしくお願いいたします、ソフィ様」
私はチェルの家族からの依頼を最優先リストに入れ、帰ったら必ずすぐにやることを誓った。
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「っ····· 必ず、チェルを立派なエルフにしてみせる」




