未熟とは未来ある者の証
次元の壁が砕けその先が見えた時、そこにいたのは黒髪の私、アズラエルだった。
「アズ、首尾は?」
「上々」
私が訪ねると私は変なポーズをとってそう答えた。
うん、足払いをしてすっ転がしたいけど今はそんな時間はない。
「じゃあお願い」
「まかせて!みなさーん!こっちでーす!!」
アズがそういうと、彼女の周囲に光る小さな星のようなものが大量に出てきた。
「じゃああとはお願いね、私」
「任された!」
私はその星たちを受け止めると、神様の奇跡を使った。
きらめく星々がこの空間に満ちた私の神属性魔力と創世魔法を集め始め、どんどん大きくなり形を作って行く。
そして魔力が十分に貯まると、創世魔法の力で本来あるべき姿へと、魂が記憶していた形を変えた。
「はい今から5分間ね、好きなだけ話して、ちゃんと別れを言うんだよ」
「パパ、ママ、みんな·····ッ!!」
「まさか·····テュイエルか·····!?」
「うん!パパっ!パパぁっ!!」
そう言うと、チェルは父親らしきエルフの男性と、顔立ちがよく似た銀髪のエルフの女性の元へと走って行ってしまった。
そして二人に抱き着き、わんわん泣き始めてしまった。
更にその様子を見た他のエルフの老若男女全員が駆け付け、チェルに話しかけたりし始めた。
さてと、私もちょいと仕事しますかね。
◇
「ガイア様、いるんでしょ?」
「あちゃ~、バレてた?」
そういうと、次元の割れた縁からひょこっと見慣れたクソ女神が顔を出してきた。
「そりゃもちろん、こんな危険な事やってて監視に来ないわけないでしょう?」
「まぁね、にしても、結構頑張ったんじゃない?」
「めっちゃ頑張りましたよ?時を戻すより大変でしたからね?」
そう、チェルの家族や村のみんなを一時的にだが魂を死後の世界から連れてくるのは容易な事ではない。
もし魂がまだ現世に居るのであれば楽だったんだけど、すでに魂の浄化の待機をしててこっちにきてたから、それを見つけてきて次元の境界付近まで崩壊しないよう保護しながら運んできて、さらに次元がぶち抜かれる時の影響も対策したりでかなり大変だった。
不幸中の幸いだったのは、どっかの国が戦争を始めて結構な人数が死んでこっちに魂が来て混雑してたおかげで浄化施設がキャパオーバーしてたから、このエルフたちがまだ魂を浄化できてなかった事だろう。
あとどっかの天使が搬入を面倒くさがって一気に沢山入れたせいで洗濯機が詰まって故障して1台修理中なんだとか。
「キミがこのエルフちゃん一人にここまで入れ込むなんて珍しいねぇ」
「まぁ、そういう気分だったんですよ」
「そうなの?」
「そうですよ?」
「またまたぁ」
「·····ちっ、情がわいちゃったんですよ、あんまりにも可哀そうで」
「そりゃ一族全員目の前で食われちゃったんだもんねぇ」
「アレはさすがに私でも耐えきれないですよ」
「でもでも、また同じような子を見かけたら魂を呼び戻して別れを告げさせてあげたりするのん?この世界じゃこういう子はごまんといるよ?」
「知ってますよ、でもこの子は私に縋ってきた、だから助けてあげただけです」
「そう?死者に会えるって知ったら人が殺到しちゃうよ?」
「奇跡は安売りしない派なので断りますよ」
「わお、商売人だねぇ」
はぁ、めんどっち。
さっさと本題でも行くかな、タイムリミットは刻一刻と近づいてるし。
「ガイア様、この人たちを現世に連れ戻す方法ってあります?」
「あるけど世界が崩壊するよん?」
「嘘ですね?癖出てますよ」
「えっ、癖なんてあったっけ?どんなんだっけなぁ」
思考読まれるから言わんぞ。
「ちっ、まあいいや、連れ戻す方法はないよ、一度逝った魂はもう現世には帰れない、たとえ戻せたとしても魂が崩壊して転生の権利さえ失っちゃうね」
「·····ですよね」
「キミなら、本当に大切に想う相手であれば、その命を再び紡ぐ儀式を、生命の在り方に叛逆する禁断の儀式を成功させられるかもしれないね」
「もしフィーロ君が死んだら、世界が壊れようと絶対に呼び戻しますよ」
「ほら~言うと思った~」
「·····あの人たちは、もう浄化されるしかないんですよね」
「そうだよ、ちょっと洗濯機が混雑しててできないけど、近いうちにきれいな魂になって現世へ生まれ変わると思うよ」
「もうちょっと早く知ってたら、あの人たちも助けられたのかもしれないんだよね·····」
「現世に魂があれば生き返らせることもできるからねぇ」
そう、復活魔法は現世に魂がないと不可能で、なおかつ傷ついてない新鮮な状態で、肉体および魂に器がきれいな状態じゃないと不可能だ。
この人たちはずいぶん前に肉体がワイバーンに食われ、魂が現世を彷徨い、そして安息の地へとやってきた。
だから、もう私の力でも生き返らせることはできない。
魂を留めて死者に会えるようにする事もたった5分しかできない。
エルフは長い時間感覚を持っているというが、300年という月日をたった5分でまとめ、300年間ずっと一緒に居た家族と、知り合いたちと、別れを告げるなんて無理だ。
本当はもっと伸ばしてあげたい、でも、私が本気でやってできる限界はたった5分だった。
神様になって無限大の力を持つと思い込んでしまうほどの能力を得ても、できないことはあるんだ。
私は弱い、体も心も神様としての力も、何もかも非力だ。
できるのは、こうしてたった5分間だけの奇跡と救済を起こす事だけだ。
「はぁ····· 私もまだまだ未熟だなぁ·····」
「未熟ってことは、まだまだ成長の余地があるってことよ?ソフィちゃんのおっぱいみたいに」
「未熟って言うなし、これからボインボインのバルンバルンになるんだもん!」
「豆乳を飲むといいらしいよん?」
「嘘は·····ついてない!?」
「だって嘘か本当か知らないんだもん」
「あぁ、そういう·····でも僅かな可能性にもすがるのが人間ってもんだから試してみますよ」
「おーそりゃありがてぇ、私も気になってたんだけど生憎大きさには満足してたからね!さてと、未熟な後輩ちゃんに先輩の力でも見せてあげようかなっと、残り時間は?」
「あぇっ、あっ!あと1分半しかない!?」
「まぁ見てなよ」
ガイア様はそういうと周囲に神の力を解き放ち、私でさえ理解するのが難しい術式を次々と発動していった。
何やらブツブツ言っているが、まるで歌のような不思議な言語、多分神様の言葉を使っているのだろう。
そして魔法が完成したのか、ガイア様からものすごい光と圧が発生し、50人ほどいるエルフの集団とチェル、そして私を包み込んでしまった。
「はい完了っと、30分延期しといたよ、·····まぁこれ以上はサービス対象外かな?」
「いともたやすく·····でもありがとうございます」
どうやらあの一瞬でこの次元が混ざり合う空間の維持をしてしまったらしい。
というか、空間の維持の権限をガイア様にあっさりと横取りされた。
あー、やっぱりまだ私は未熟なんだなぁ·····
でも、今回はガイア様がいてよかった、30分でも短いけど、しっかり別れは告げられるだろう。
「いいってことよ、でも必ず豆乳育乳法の結果は報告してね?」
「はーい」
「んじゃソフィちゃんも行ってきな、このままじゃあの子向こう側に行っちゃいそうよん?」
「えっ、それはヤバいわ、ちょっといってきます!」
「へいへい~、いってら~」
私はチェルとエルフたちの元へ走って向かった。
·····が、ちょっとだけ足を止め、ガイア様の方に振り返った。
「·····ガイア様、あとで訓練とかお願いできませんか?私、強くなりたいんで」
「おっ!いいよん、ただし!神様が対価ナシで動くと思わないでね?」
「はいはい、向こうでなんかゲームでも買ってきますよ」
「よっしゃ引き受けた!んじゃいってこい!時は金なり、時間は待ってくれないぞ!」
「はいっ!じゃあいってきます!」
今度こそ私はチェルの元へ、いつか私の娘となる少女の元へと向かって走っていった。
『強くなる』
そう心に決め、想いを豆乳の力で大きく育つはずの未熟な胸に秘めながら。
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「ほんと、私ってまだまだだなぁ····· 誰も悲しませないように、強くならなくちゃ」
名前:So·····ガイア
ひと言コメント
「おっとちょっと漏れた····· やっぱ力使いすぎると漏れるなぁ····· ん?あっ!いや!粗相じゃないからね!?私の正体の方だからね!?神様はトイレに行かないんだからね!?
·····焦ったぁ、マジで漏れかけたわ·····あっ!やべ切ってなかった!今のナシ!忘れてええええっ!!」




