生と死と万物を紡ぐ神の力
チェルの発狂が収まったところで、私はチェルへと語りかけた。
「さてとチェル、改めて聞くけど君はどうしたいの?」
「·····パパとママと一緒にいたい」
「たとえそれが種族さえも違う同い年の偽りのママでも?」
チェルは無言で小さく頷いた。
「OK、本物じゃないってわかってるならいい、でも私たちはエルフとは寿命が大きく違う人間だよ?エルフの年齢から考えるとすぐに死んじゃってまた一人になるよ?」
「·····やだ、だから村に伝わる秘術をつかう」
「えっ、なにそれ」
「寿命を延ばす薬·····」
そういうと、チェルは机の上に小さな液体の入った瓶を置いた。
気になったから鑑定してみると、精霊系統の魔力が籠った世界樹の樹液などの成分が検出された。
ふんふん?あー、マジかこれ、エリクサーじゃん。
異世界に来たら探したいアイテムランキングに入ってたアイテムだわ。
まさかエルフが作れるとは思ってなかったわ。
「·····製薬方法はしってるの?」
「しってる、だからたくさん作るから飲んで····· チェルとずっと一緒にいて·····」
大体この子の気持ちがわかってきた。
エリクサーのレシピは私の情報網でさえ手に入れられなかった、エルフの村の中でもかなり重要なレシピなのだろう。
まぁアカシックレコードを使ったら一発でわかるんだけど、自分の力で探してこそ価値が生まれる代物だから見なかったのだ。
だがエリクサーの話はどうでもいい。
この子はそんな貴重な代物を出してまで私と一緒に居たいと言っているのだ。
「そこまでして家族と一緒に居たいのかぁ·····」
「うん·····」
ぶっちゃけ今の私の心境を明かすなら、ちゃんと手続きをして養子にしてもいいかなと思ってる。
この子は訳ありだけど、それなら私だって一緒だ。
あんな辛い目にあったら、私だって気が狂うと思うし、自死を選ばなかったこの子の精神力は並外れて高い程だったもの。
故に、私はこの子の記憶を見た時に『守ってあげなきゃ』と感じてしまった。
「前の家族を捨てて、私たちの家族になる覚悟はあるの?」
「·····ない、パパとママは私のパパとママだから」
「そんなんじゃいつまでたっても私たちと家族になれないよ?」
「だって!」
「·····はぁ、ちょっと来て」
「何するのママ!離してよ!!」
「じゃあ離すよ?」
「やだ!離さないでっ!」
「んじゃついてきて」
「·····わかった」
「よしよし、いい子····· チェル、この先で見るものは秘密だよ、そして、心を強く保って、じゃないと引き込まれるから」
「うん·····ママと一緒ならどこでも行く」
私はチェルを連れ、ディメンションルームへと入っていった。
◇
私たちが来たのは、何もない真っ白な空間だった。
·····三次元世界の住人にとってはね。
ここは私の神域というか、神界に極限まで近づけたぎりぎり三次元に属せる、三次元世界の住人が存在できるギリギリの高度の場所だ。
故に四次元世界の存在、神である私の目には、全く違う景色が見えていた。
私の目の前には、美しい川が見えていた。
「ここは神界、天国やあの世と呼ばれる一つ上の次元に極限まで近づけた世界だよ」
「どういうこと?」
「遍く生命は死ぬと魂をきれいにするため、神界にやってくる」
「細菌、虫、動物、魔物、人間、そのすべてに差別はなくこの世界へやってきて、向こうへと渡る」
そういうと、私は『創世魔法』を用いて私の見えている世界を三次元世界へと描写した。
「きれい·····」
「あの川の向こうは死後の世界、四次元世界だよ」
「えっ?村の近くの湖でしょ?」
「チェルにはそう見えるのか·····」
私の三次元世界を創る魔法『創世魔法』で満たされたこの次元の狭間は、ある映画のセリフを借りるなら『マイナス宇宙』、人の記憶と想像によって現れる世界だ。
「さてと、準備は整った、あとは·····」
私はインベントリからソフィアの槍を取り出すと、投擲姿勢をとった。
「チェル、ここから先は心を強く保って、向こうに引きずり込まれると戻れないから」
「·····どういうこと?」
「本当のパパとママをあの世から呼び戻す、たった5分間の、私ができる、君の新たなママから贈る、細やかな神様の奇跡だよ」
槍の矛先は四次元世界の彼岸へと向いている。
目の前に見える川は、ただの私の空想に過ぎない。
本当はあの川は次元の境目、三次元と四次元の境界線なのだ。
壁を超えることができるのは四次元的存在、神か魂だけだ。
「この槍はシンセイとテンセイを司る知恵の槍、そして前へ進むための、過去と決別するための、新たな未来を紡ぐ槍」
だが、このソフィアの槍ならばその壁を超える架け橋を創ることができる。
過去と決別し、未来へ進むために、この槍は禁忌と奇跡を起こすことができる力を持つ。
「チェル、もし君が私と家族になりたいのなら、この先で過去と、君の家族と別れを告げるんだ、未来へ進むということは現実を受け入れることだ」
「きっと、めちゃくちゃ辛い、絶対に帰れなくなるくらいには辛い」
「·····でも、君が戻りたくない、家族の元から離れなくてもいいというなら、戻らなくてもいい、家族と一緒に死ねるのも場合によっちゃいい事だからね」
「死と共に未来へ歩むか、過去と共に生きるか、最後に選ぶのは君自身だよ」
「·····わかった、ママ、ありがとう」
「どういたしまして、じゃあガイア様、5分間だけこの世の全ての理に叛逆させてもらいます」
『どうぞ~』
事前にガイア様に魂を呼び戻す許可は得ている。
そして私は槍に、私の神属性魔力と偽りの我が子を想う母としての気持ちをありったけ込め、ソフィアの槍を貫通投擲形状へと変化させた。
あとはこの槍を彼岸へと投げるだけだ。
「準備はいい?」
「いいよ、ママ、お願い」
「了解·····まったく、作者の趣味に付き合わされるこっちの身にもなってほしい、なっ!!」
私はきれいなフォームで槍を投げると、ソフィアの槍は次元の壁にぶつかり、激しい光を放った。
パキュンッ
そして槍によって次元を隔てる壁が貫かれ、私たちがいる空間が、三次元と四次元、生と死の二つの次元が混ざり合う混沌が渦巻く空間へと変化した。
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「·····別れは悲しい事だけど、避けては通れない、ううん、避けて通ったら前へは進めないから、進みたいのならちゃんと別れを言わないとね」
名前:テュイェル・スェイゥルュゥ
ひと言コメント
「パパ····· ママ····· みんな·····」




