不治の病 不死の病
姉貴が誓約書にサインを書き終わったタイミングを見計らって、私は姉貴に話しかけた。
「じゃあそろそろ始めるよ」
「えっ早くない?大丈夫なん?」
「大丈夫、もう内臓も作り終わったからいつでもしゅじゅちゅ·····できるよ」
「そう·····了解」
しれっと噛んだけど気にしない、だってひゅじゅ·····手術って言いにくいし。
「よし、じゃあいいよー!」
『了解っ!』
私は恥ずかしさを誤魔化すように扉の向こうで待機していた私に呼びかけると、向こうから2番目の私が手術用のベッドと共に出てきた。
「おっ?おおお?また増えた?というか聞きそびれたんだけど、さっき『ソフィたんの死体を使って〜』みたいな事言ってたけどどういうこと?」
「言ってなかったっけ?私は一日に3回まで死ねる能力があって、その時残った綺麗な体は保管してあるんだよ、そこにいる私も元は私の死体で、魔法で蘇生して魂を並列接続して一時的に動かしてる感じだよ」
「へぇ····· すっご、というか最低でも4回は死んでるって事だよね?」
「えっと、何回死んだっけ····· 100は行ってないと思うけど····· うん、忘れた、まぁ今は何回死んだかはあんまり関係ないよ、それより姉貴の治療をしよう」
「へーい」
「それじゃ、そのベッドに寝転がって」
「えー?重病人なんだからお姫様抱っこで乗っけてよ〜」
「·····浮遊」
姉貴がまたウザ絡みしてきたから、浮遊魔法でベッドに乗っけてやった。
そしてそのまま私3人がかりで移動式ベッドを押して手術室に運び込んでしまった。
◇
手術室の中には巨大な魔法陣と、その上に既に2つのベッドが置いてあって、布に包まれてはいるが、蘇生済みの私が2人入っている。
片方は先程完成した姉貴の内臓に合わせて肉体改造した私の素体、もう片方は姉貴の治療の成功の鍵を握るもうひとつのカギだ。
「じゃあ姉貴、早速麻酔·····的な魔法を掛けるね、次目覚めたらきっと元気になってるはずだから」
「はいはい、じゃあ頑張ってね賢人」
「頑張るねー、それじゃおやすみ姉貴」
私は姉貴にとある魔法を掛けると、姉貴は途端に意識を失ってしまった。
「頑張るのは姉貴の方だろ····· 手術はあっという間に終わらせるから、少しだけ待っててね」
だが姉貴にその言葉は届かない。
姉貴はもう死んでいるのだから。
正確には死んでないのだけれど、私が姉貴にかけた魔法は死属性魔法の『魂魄乖離』、対象の魂を肉体から引き離して殺してしまう魔法だ。
これにより姉貴は肉体から魂が抜け出てしまい、向こうの世界では死んだと言える状態になってしまったのだ。
だがそれだけでは終わらない。
私は魂を統括する存在の『神』の力と権限を使い、姉貴の魂を操ると隣に寝ていた『魂の器』へと姉貴の魂を案内してその中に入れた。
すると姉貴の魂は、ナマイキにも魂の器にドカッと居座ると心地よさそうに安定した。
どうやら姉貴は魂になっても姉貴だったようだ。
「·····普通の人間にしては姉貴の魂めちゃくちゃ強いんだよな、魔族並みなのは流石としか言いようがないね」
「メインの私、魂の移行と保管は問題なく完了したよ、封印・保護処置も万全だよ」
「あっ了解、ありがとう」
13番目の私が作業の完了を報告してきた。
そう、13番目の私が言った通り、姉貴の魂は一旦別の場所に保管してあるのだ。
保管場所は、以前私が作成した『魂の器』、私自身の魂の器を改造し、一時的にそこに魂を保管して魂が消えないようにする特殊な素体だ。
本来はなかよし組の誰かが死んじゃったりした時を想定して作ったものだけど、姉貴だって私の大切な家族な事に変わりはない。
だから今回は念には念をという事で『魂の器』を使うことにしたのだ。
「じゃあ全員集合」
『『了解っ!』』
「これより姉貴、藤石 穂乃花の癌治療及び内臓の変換作業を行います、内臓は私たちでさえあまり手を出した事の無い部分だから、細心の注意を払って作業を進める事とします!世界最強の賢者として、必ず姉貴の体を治すぞっ!」
『『おーっ!』』
◇
まず最初にやるべき事は、姉貴の肉体の時間を極限まで遅らせる事と、姉貴の肉体にほかの魂が入らないよう厳重に隔離する事だ。
理由としては、内臓を置き換えるほんの一瞬の間だけ内臓が無くなるため、その隙を無くす必要があるのだ。
姉貴の空っぽになった魂の器に関しては、この部屋自体が隔離空間であり、更に下に描いた魔法陣の効果で何重にも隔離し、姉貴の体にも強固な結界を張ってるから大丈夫だ。
あとは内臓を入れ替えた後に適合するかも確認して、ダメだったらその時は何とかするつもりだ。
·····いや、先に調べておくか。
「内臓の適合検査を最初に行い、異常が無いか確認せよ」
「了解、サンプル採取します····· 完了、続いてチェック開始····· 異常なし、アカシックレコードの予測によると適合率99.9%」
「わかった、·····じゃあ作業を始めるよ」
『『了解っ!』』
さてここからが本番だ。
まず姉貴の肉体と内臓を作り替えたドナーとなる私の素体が居る空間内に私の魔力を流し込み、魔結晶になるギリギリというかなり高密度な状態にする。
更に2人にも魔力を同密度で浸透させておく。
そしてここで今回のキモとなる魔法を発動する。
「『崩壊』」
崩壊魔法が2人に掛かった瞬間、2人の肉体がボヤけ、まるでモザイクを掛けられたような見た目になった。
今やったのは、2人の肉体の境界線を崩壊魔法で軽く崩壊させ、どっちがどっちかあやふやな状態にしてしまったのだ。
今回の目的は内臓をすり替える事。
つまり自身の体の形状を体が覚えていると拒絶反応を起こしやすいのたが、自分の体とその他空間の境界線を分からなくしてやると『あれ?自分の体ってどんなんだっけ?』って感じで体が形状を忘れてしまうのだ。
そこで一瞬の間に2人の99.9%同じ構成になった内臓を入れ替えると、肉体がボヤけていて内臓が入れ替わった事に気が付かず、境界線を元に戻しても『あ〜そうそうこんな感じだったわぁ·····』ってなって元通りになるのだ。
分かりやすく例えるなら、10年前に無くしてもう大まかな形くらいしか覚えてないモノが見つかったら、別の物でも形が99.9%同じだったら気が付かないようなもんだ。
ちなみに既にゴブリンで人体?実験をして、この方法で内臓を入れ替える事ができるのは証明出来てるから大丈夫だ。
相変わらずゴブリンは便利よ、そこら辺を際どい格好でほっつき歩いてたらすぐ出てくるし、弱いから魔法で簡単に捕まえられるし、すぐ繁殖して増えるから使いたい放題だ。
っと、ゴブリンの話はどうでもいいんだ、それより姉貴の体をなんとかしなければ。
「患者の肉体が崩壊を始めましたっ!崩壊率88.61%ですっ!これ以上は危険です!」
「よし、等価交換開始っ!作業時間はこれより0.000000001秒以内とする!時間遅延開始っ!」
「時間遅延開始、遅延倍率10億分の1で須臾を発動せよ!」
「合点承知之助でぃっ!『須臾』っ!10億分の1で発動っ!!」
「時空間の歪み確認しました、遅延倍率9億9999万9971分の1、概ね目標値です」
「時間遅延完了、続いてアカシックレコードのクロック数を強制的に上昇させよ」
「了解!アカシックレコードに強制魔力注入開始っ!演算速度、最高値へと上昇中っ!」
「最高値になる間に並行して作業を行う!結界内の魔力密度を上昇させ治癒魔力を混ぜよ」
「結界内魔力密度更に上昇!魔力の一部を治癒魔力に変換っ!」
「姉貴と私の境界線、崩壊します!」
「肉体に対してアンチ崩壊魔法を発動、内臓のみ魔力になるまで完全に崩壊させよ!」
「言われなくてもっ!·····来ました!内臓が消滅っ!2人の内臓が完全に魔力へと置換されました!」
「アカシックレコードフル稼働っ!魔力崩壊した内臓のみをかき集め分離せよっ!」
「もうやってますっ!共に現在収集率47.3%っ!」
「あと何秒掛かる?」
「もう終わりますっ!いや終わりました!元内臓の魔力、集まりました!」
「では次っ!元私の内臓を姉貴の肉体に搬入せよ!私のは後回しでもいいっ!隔離しておけっ!」
「りょーかいっ!新規内臓魔力移動開始、新規内臓魔力、腹腔内に入りましたっ!」
「わかった、では始めよう、内臓再接続開始っ!治癒魔力を励起させよ!みんな全身全霊を出せっ!」
『『はいっ!』』
「元内臓の魔力に対して創世魔法及びアンチ崩壊魔法システムを発動!内臓優先で肉体を再構築せよ!」
「了解、アンチ崩壊魔法システム起動」
「アンチ崩壊魔法陣起動を確認っ!アンチ崩壊魔法発動します!」
「発動を確認!魔力操作でアンチ崩壊魔法を内臓に収束っ!肉体と崩壊率が同等の値になるまで続行っ!」
「輪郭確認っ!内臓の形状が復元されていきます!やべっ、内臓の向きが逆だ、このままじゃ南斗〇星の帝王になっちゃいます!!」
「·····姉貴なら喜びそうだけど、、今ならまだ間に合う、反転して元に戻せっ!」
「反転開始!·····完了!完璧に戻りました!」
「わかった、では姉貴の内臓の残存部分との接続開始、完璧に元通りにせよ」
「はい!·····えっと、ボヤけててよく分からんっ!」
「アカシックレコードに任せて繋げろっ!」
「はいぃっ!えっと、えっと!」
「馬鹿野郎っ!ここをこうすればいいんだ!リーダーを怒らせんな!校長直伝のゲンコツを食らわされるぞ!」
「ひっ、が、頑張ります!」
「そこ、何ふざけてんの?暇だからって遊びすぎ!!」
「·····ごめん調子乗っちゃった!形状崩壊率68.8%ですが元通りです!」
「了解。他に異常は?」
「ありません、完璧です!」
「了解、アンチ崩壊魔法最高出力っ!元に戻せっ!」
『『了解っ!』』
「復元率42%、58%、71%、89%!一旦停止せよ!最終確認を行うっ!」
「最終確認開始、アナライズ発動!」
「アカシックレコードにてデータ解析開始····· 完了!内臓及び肉体の拒絶反応ありません!復元に関しても99.9999%を維持しています!」
「ではこのまま再構築を続けよ!」
「了解!もうすぐに終わりますよっ!」
「肉体が再構築されました!検査開始っ!·····結果出ました!完全に元通りです!」
「よくやった!内臓の稼働状況は?」
「はい、ええと·····問題ありません、がん細胞及び腫瘍部、更に内臓に対する拒絶反応などもありません」
「よし、切除した姉貴の内臓と私の肉体は適当に治しておけばいい、後でがん細胞の実験材料とするためインベントリ内に隔離保管せよ」
「はーい、んじゃ治しときますねー」
「じゃあお願いするわ」
「これにて癌治療作業を完了とする、·····みんな、お疲れ様、ありがとうね」
『『どういたしまして!』』
「後は私たちに任せてよ、リーダーは休んでて」
「うんうん、ちょっと休みなよー、気を張って疲れてるのくらい私自身なんだからわかるんだよ!」
「·····ありがとう、あとはお願い」
◇
「っはぁ····· 疲れた」
「お疲れ様ですリーダー、お茶を淹れたのでどうぞ」
「あぁ、ありがと·····」
なんとか姉貴の治療を終えた私は、手術室の端っこにあるイスに座って休憩していた。
視線の先には、私自身が11人がかりでドナーとなった私の再生と、肉体の正常化が終わった姉貴の肉体の検査を行っている。
ガンが完治した姉貴の体は、まだ魂が入っていないがちゃんと生きていて、呼吸をしているのか胸が上下に動いていた。
ちなみに魂の器は勝手に姉貴が操作してるのか手足が動き始めてたから強制的に拘束してる。
なにやってんのアイツ····· あの調子だったらほっといても勝手に治ってたかもな·····
「はぅ····· お茶が美味しい·····」
「そりゃ日本で買ってきたお茶だしね、美味しいに決まってるよ」
「だよねぇ····· ありがと13番····· そうだ、13番、名前欲しくない?いつまでも番号呼びなのもアレだし、今回みんなすごく活躍してくれたから名前付けようと思うんだ」
「おおっ?いいの?番号呼びも結構気に入ってたんだけど」
「そうなの?」
「でも名前貰えるなら欲しいなぁ·····」
「OK、まぁもう決めてるんだけどね」
「えっ?なになに?」
自立行動が出来る特殊個体の13番、そしてほかの私たち、彼女たちにはいつかちゃんと名前を付けようと思っていた。
今回みんなは頑張ってくれたし、ささやかなプレゼントだけど名前をあげるとしよう。
「13番、君の名前は『アズラエル』だ」
「おー天使の名前だ、確か死と魂を司る天使だっね?いいね、よし!今日から私はアズラエル!アズって呼んでねっ!」
「うんうん、じゃあ早速だけど姉貴の魂を肉体に戻す作業手伝って?」
「はいはい合点承知、魂のことならアズにゃんに任せんしゃいっ!」
「いやその呼び方危ないからやめて?というか魂の扱いは本体の私の方が上手だからね?」
「そりゃそうだけどさ·····いいじゃん名前的に気分で言ってみただけだし」
「まぁそうだよね〜、んじゃ早速やろっか!もちろん慎重に万全に安全にやるよ!」
「おー!」
最初と最後の私は、なかよく魂が分離している姉貴の元へと向かっていった。
不治の病と言われたガンが、不死の病に侵された私よって完治した。
今日ほど、この不死の力に感謝した日は無いだろう。
名前:ソフィ・シュテイン
ひと言コメント
「みんなお疲れ様、ありがとうね私たち····· そして姉貴·····いや姉ちゃん、よく頑張ったな、俺、姉ちゃんがガンだって知ってから、めちゃくちゃ心配してたんだぞ····· ほんと、治ってよかった····· いつ再発しても、必ず私が治してあげるから、ずっと元気で居てよ·····」
名前:アズラエル(13番目の私)
ひと言コメント
「名前だ名前だひゃっほいひゃっほいっ!·····やべっ、本体がシリアスムードだ、引っ込んでよっと」




