告白
【建国1227年7月23日 19時23分】
「いやー美味しかったね、フィーロ君はどうだった?量はちょっと少なめだったから満足できた?」
「味が凄く良かったから気にならないかな」
「あっ確かに、ああいうのって量が少ない方がちゃんと味わえるからいいのかな····· 参考にしよっと!」
「·····みんななら『少ない!』って文句言ってくるんじゃない?」
「·····たしかに、んふふふふっ」
「あははっ、やっぱりそう思うよね?」
ディナーを食べてレストランから出た私たちは、宿に帰る前にルーラル島の夜景スポットへと散歩しに向かっていた。
目的地はルーラル島の最も高い位置にある展望台で、夜景と夕日がダブルで見れるという名所だ。
·····だけど、この展望台は景色がいいと言うだけで有名な訳じゃない。
ここはデートスポットの終着点
·····恋人の聖地なのだ。
「おっ、とうちゃーくっ!」
「着いた·····」
ここは展望台と言っても特に何かがある訳じゃなくて、標高100m程度の山の上を切り開いた広場と、島の西側に突き出た展望デッキがあるくらいだ。
強いていえば、2人掛けのベンチがやたら多いくらいだ。
そんな恋人の聖地を横切り、私は展望デッキに走っていくと、柵に寄りかかって景色を眺め始めた。
「うわぁ····· 綺麗·····」
「だね·····」
展望デッキからの景色はまさに絶景といった感じで、日が沈むギリギリで美しい夕焼け色に染められていた。
そして東の空を見ると、だんだんと夜の帳が降りてきて星が瞬き初めていた。
「「·····」」
私たちは特に何を話す訳でも無く、太陽が水平線の向こうに沈む美しい景色をじっと眺めていた。
こう見ると、やっぱり太陽って大きいんだなぁ·····
「太陽って不思議だよね」
「うん」
「確か、燃えてる火の玉なんだっけ?」
「うーん····· 木が燃えるとか魔法とかとはちょっと違うけど、物凄い高温のエネルギーの塊だよ」
「へぇ····· ところでどんな仕組みで燃えてるの?」
「·····禁断の力だよ、人が手を出しちゃいけないモノ」
「·····危ないんだ」
「まぁね、でも毒も使い方によっては薬になるみたいに、人の役には立つよ?」
「ソフィちゃんはそれを使う気はある?」
「できれば使いたくないってのが本音だよ、こんなのに頼らなくても、この世界だったら大丈夫だから·····」
『核』
それは人類が手を出してはいけない禁断の領域にあるモノ。
私のいた世界では、核や放射線によって少なくない人が命を失った。
特に私の前世の生まれ故郷の日本では、核の力によって亡くなった人が沢山いる。
『核兵器』
それは絶大な威力を持つ以上に、放射能により土地を汚染する最悪の力を持つ穢らわしい兵器だ。
この世界には魔法という素晴らしい力があるのだから、この恐ろしい力を使わないで欲しいというのが私の本音だ。
だが核は強い、魔法に匹敵する程に強い。
私なら核攻撃ができる魔法だって創れる。
だけど、美しいこの世界を汚したくないから、私は絶対にその存在を知らせる事はないだろう。
そして、核兵器が出来ないように、私たちは頑張らなきゃいけないんだ。
「あっ、もう日が沈んじゃう·····」
「うん、太陽の移動ってこう見ると結構早いんだね」
「ぶっちゃけあんまり太陽を直接見るのはオススメしないよ、有害な光が含まれてるからね」
「·····ちょっとなら大丈夫?」
「夕日を5分見るくらいならね」
「じゃあもうちょっと見てよっか」
「うん」
真っ赤な夕日は海と空の境界線で歪み、お饅頭のような形になって少しずつ小さくなって行く。
夕日は好きだ。
前世の頃から、私は太陽が好きだった。
あんまりいい思い出の無い前世の学校生活の頃の私でさえ、太陽は私の事を照らしてくれた。
悪い記憶ばかりで下ばっかり向いてた社会人生活をする私でさえ、太陽は変わらず照らしてくれていた。
そして違う世界にやって来ても、太陽は変わらず私の事を照らしてくれている。
·····こっちの世界に来てからは、あの太陽が元々居た世界もこっちの世界も照らしているんじゃないか、きっとあの想像を絶するエネルギーを持つ中心核の中なら、日本に繋がっているんじゃないかと思って、よく家や寮から眺めていた。
·····私は、まだ前世の事を切り離せていない。
帰れるなら、一度でいいから帰りたい。
前世の父さんと母さんに、謝りたい、そして伝えたい。
『私は異世界で元気に暮らしています』
と、たった一言だけでも·····
「ソフィちゃん、大丈夫?」
「うぇっ?あれ····· あははっ、ごめん、なんか感傷に浸っちゃって·····」
なんかわかんないけど、いつのまにか泣いてたみたいだ。
·····大事な事を忘れてた。
父さんと母さんに伝えたいこと。
私は、この世界で大切な友達が沢山できた。
好きな人もできた。
そして、この世界で『ソフィ・シュティン』という1人の少女として生きていく覚悟を決めた事を。
「あっ····· 完全に沈む·····」
「ほんとだ·····」
そして今日1日デートを見守ってくれていた太陽は水平線の彼方へ緑色の光をちょっぴりと残し帰ってしまい、あっという間に夜の帳によって閉幕してしまい辺りはどんどん夕焼け色から暗闇へと変わってきた。
·····そろそろいいかな。
「フィーロく」
「ソフィちゃん、ちょっといい?」
·····んっ?
「いいよ、どうしたの?」
「ふうぅ·····」
私が覚悟を決めた瞬間、タイミング悪くフィーロ君が話しかけて来て、私の瞳をじっと見つめてきた。
私でさえ見た事のない、真剣な目で。
「ソフィちゃん」
「·····っっ!」
とくんっ
私は胸の奥で『もしかして』という淡い甘い期待を抱き、激しく高鳴る鼓動のせいで声が出なかった。
この状況
このタイミング
この1日の事
それを思い返すと、そうとしか考えられない。
「僕はっ!ソフィちゃんの事がっ!」
「大好きだっ!」
「ずっとずっと昔から、出会った時からずっとソフィちゃんの事が好きだったんだ、·····でも、なかなか言えなくて、もう卒業間近になっちゃった」
「卒業したら、僕たちはきっと別々の道に歩んで、会えなくなるかもしれない····· 僕はそんなの嫌だ····· 一生ずっと一緒に居たいんだ!!時々抱きつかれたり、イタズラされたり、仕返ししたりしたいんだ!!」
「だからっ!僕と!付き合ってください!」
この時の私は衝撃が凄すぎて語彙力が完全に無くなって、息をするのもままならないくらい驚いていた。
いや、思考が完全に停止していたのだろう。
何せ、好きな人から逆に告白されたのだから。
·····それに、私も全く同じことを考えた。
卒業しても、フィーロ君と離れたくない。
どうすればずっと一緒に居れるのか、どうしたら今の関係を····· いや、もっと進んだ関係になれるのか。
その答えは、フィーロ君の彼女になる以外考えられない。
·····けど。
だけど。
私にはみんなに隠していたこと、いつか言わなきゃいけなかったこと、彼と男女の関係になる上で絶対に伝えなければいけない事がある。
「·····フィーロ君、私はね、みんなに隠してた事があるの」
「·····」
「それを聞いて、もう一度だけ考え直して欲しいな」
「·····わかった」
これを伝えなくちゃ、俺は私になれないから。
「私の隠していたことは、私の昔、私の正体、私の本当の姿について····· 本当は誰にも言いたくない、忘れたい、でも忘れられない、切っても切り離せない事だから·····」
「でも私は逃げない、フィーロ君に私の全部を受け入れて欲しいから、私の全てを君に打ち明ける」
「聞いて、私の好きな人、私の過去を·····」
私は、隠したかった誰にも知られたくない過去を、彼に打ち明ける決意をした。
「フィーロ君、私は·····」




