私たちの新しい家
「「「おおおおおー!!!」」」
私たち新入生トリオは馬車の窓から身を乗り出し、魔法学園都市『マグウェル』の景色を眺めていた。
ここはかなり昔、噂によると1000年近く前から存在する伝統ある街で、それ故に建物も歴史のある物が多くあり、これぞファンタジーと言うべき街が広がっていた。
ちなみに、前世のイギリスにある某魔法学校とその町とは見た目が結構違い、普通の近代ヨーロッパな感じの街で、魔法学校はあんな禍々しい形はしておらず普通の屋敷を巨大化したような建物だ。
そんな町の中を馬車は進み、これから私たちが9年間暮らす寮に到着した。
◇
私たちが暮らす予定の寮は男女混合の寮、正確にはクラス別に割り振られているので、私たちは隣合った部屋を割り振られていた。
「ええと、私たちの寮はB寮の2階だね、荷物は部屋の前に運搬してくれたみたいだから、荷物を運び込んで街に行こ!」
「「賛成!」」
私を先頭に3人でB寮に突撃して中に入ると、いかにも寮母さんらしい叔母ちゃんの管理人さんが出迎えてくれた。
「アンタ達がフィーロ、ソフィ、アルムね?いらっしゃい!私の寮へようこそ!私がこの寮の管理人『ドーミ』よ、アンタらがフシ町から来たっていう問題児3人組ね?」
「「問題児はソフィだけですっ!」」
「えっ!?みんな酷いっ!!」
どうやら昼間に私がゴブリンに突撃した件がもう伝わっていたようだ。
むう····· 私の手柄をドラゴンに奪われて、しかも責任を全部押し付けられた気がしてなんか悔しい·····
「はっはっは!案外愉快な子たちじゃないか、ほら部屋の鍵はコレよ、出掛ける時と部屋の中に居る時はちゃんと鍵を閉めなさいね、荷物は扉の前に置いてあるから、各自部屋に入れなさいね、この寮の詳しいルールは部屋の中にルールが書かれた紙があるから確認するのよ?」
「「「はーい!ありがとうございます!これからよろしくお願いしますっ!!」」」
私たちは寮母さんにお礼を言って鍵を受け取ると、我先にと自分たちの部屋へ突撃して行った。
◇
2階に到着するとすぐに私たちに割り振られた部屋の場所がわかった。
何せ、長い廊下の奥だけど角部屋じゃない微妙な位置に、見覚えのある荷物が山積みになっているのだから見間違いをする訳が無い。
推定私たちの部屋まで3人で突撃すると、部屋の位置関係が判明した。
·····というか、移動1日目の馬車の中で寝た時の配置と一緒でアルムちゃんが右、私が真ん中、フィーロ君が左という順番だ。
「じゃ、荷物を運び込んで着替えたら、6時に私の部屋に集まって街探索の作戦会議をしよう!」
「おー!」
「えっ!?お、女の子の部屋に入るのは····· うぅ、わかったよ····· ソフィちゃんの部屋だね·····」
とりあえずは荷物の搬入があるので、全員の荷物整理がひと段落ついたら私の部屋に集合して、今日の街探索の予定を決めることにした。
◇
とりあえず着替え類が入った袋を持って、私に割り振られた部屋の鍵を開けて中に入ってみた。
するとそこには·····
「おおおっ!!·····狭っ」
これから私が最長で9年間暮らす部屋は、マジで狭い寮らしい部屋だった。
部屋の形は縦長で、ソファ兼ベッドが1つ、机が1つに椅子が1つ、棚が1つにクローゼットが1つ、照明の魔道具が1つ、そして洗濯物を干すための狭いベランダが窓の外にあるという簡素な作りだ。
トイレは共用のが外にあって、そこにある洗面所と洗い場で服を洗い、お風呂は街の中にある銭湯に入るか部屋で濡れタオルで拭く、食事は平日は1日2回 6時30分〜と19時30分〜で、外食をするときは事前申請が必要だ。
あと、外出する際も簡単な申請が必要だ。
ちなみに今日は外食の予定なので、寮の食堂も気になるけどさっき両方申請しておいた。
くぴゅう
不意に、私のお腹から可愛らしい腹の虫の鳴き声が聞こえてきた。
こんなオシャレな街でご飯を食べられるなんて考えたらすごくお腹が空いてきてしまったらしく、私の腹の虫も元気いっぱいのようだ。
「さーて!本気だしますかっ!!」
早くご飯を食べたいので、荷物の搬入と整理を一気に進めちゃおう。
◇
「·····狭いっ!!」
荷物の整理をしていて分かったのだが、やはりこの部屋、くそ狭い。
特に『星々の杖 ラズワルド・ロッド』がクソほど邪魔だ、だって成長を見越して作ったもんだから私の身長より大きいし。
·····インベントリに仕舞えばいいじゃないかって?
だってこんなカッコイイ杖毎日眺めてたいじゃん?
そのせいで、私の部屋は圧倒的にスペース不足だ。
「·····こうなったら奥の手、まぁ元からやる気だったけど、やっちゃいますか!」
私は壁に立て掛けたラズワルドを手に持ち、魔法の準備を始める。
今回使うのは、以前から時々使っていた空間魔法『ディメンション・ルーム』の魔改造版だ。
といっても、内部空間は今回はあまり関係ない。
目的は『ディメンション・ルーム』への入口の偽装と入口の固定と隠し場所の選定だ。
といっても場所は決まっている。
ベッドの上だ。
正確にはベッドがくっついている壁に入り口を作るつもりだ。
女の子のベッドは聖域、例え使わないとしてもここを乗り越えて壁に触ろうとする人は滅多に居ないしバレにくいだろう。
という訳で·····
『ディメンション・ルーム:ゲート作成!』
私が指定した地点に寸分の狂いもなく真っ黒なゲートが開いた。
ゲートの中に頭を突っ込むと、私が以前から学校生活用に改造していたマイルームが広がっているのを確認出来たので、頭を引っ込め次の作業に移る。
『魔法改造』
まずはゲートを色変更で透明にして、通れる人物を私だけに設定して、ようやく私の部屋が完成した。
「完成っ!私の夢のマイルーム!!」
作成時間は1時間30分、もうすぐ午後6時なのでなる早で外に行きたいが、最後に私がやりたかった事をやってからにしよう。
私が『ディメンションルーム』の入口をベッドの上にしたもう1つ理由、それは·····
「んはぁ····· こうするとベッドが広くなって良い·····」
向こうの入口にこっそり買い貯めておいたり自作した、クッションを敷き詰め、上半身だけ『ディメンションルーム』に入れることでのびのび眠れるのだ。
ふっふっふ、これで私は最強だ。
何せ、ディメンションルームの広さは無制限。
しかも見た目を変更したり、部屋を作ったりしているので、めちゃくちゃ広い普通の部屋っぽくなっているのだ。
しかも、ここには広いお風呂やフワフワのベッドやフカフカのソファがある。
しかも!!なんと畳も完備!!
い草の優しい香りを堪能しながらゴロゴロ出来る最高の空間ッ!!
これ以上の部屋があるだろうか?いや無いいいいぃぃぃぃいいっ!?!?!?
自分の部屋の出来に満足していると、突然何者かによって足を掴まれマイルームの外に引っ張り出されてしまった。
「んひゃあっ!?何事っ!?」
「ほら!やっぱり上半身あったじゃん!!」
「ほんとだ····· どうなってるんだろ?」
「「ねぇソフィちゃん?どういう事か説明して?」」
「アッハイ·····」
やっべ、時間見てなかった、いつの間にか集合時間の6時になってたわ。
早速2人にバレちゃったっ☆
もうっ!私ったらうっかりさんっ☆
◇
結局現場を見られては言い逃れは出来ないので、私はある程度の情報を白状した。
「·····つまり、ソフィちゃんは、もう魔法を使える、それも全属性と時空と複合魔法もってこと?」
「僕たちが昼間に見たドラゴンのブレスもソフィちゃんのせいだったってこと?」
「·····うん」
「あんな魔法を使えるなんて····· 凄い·····」
「それよりも、さっきの壁に刺さってたのは何の魔法なの?ワタシすっごく気になるんだけど·····」
うぐぐ·····
女の子の秘密の部屋に入ろうだなんて·····
「はぁ、仕方ない、特別だよ?」
『ディメンションルーム』のフィルターにアルムちゃんとフィーロ君を追加して、私はベッドの上に立ち上がり2人を手招きする。
「はい、来ていいよ、その代わり!私の秘密は絶対に他の人に言わないでね?私は普通の魔法がちょっと上手な女の子、はい復唱、もしバラしたらその時は·····」
「「はいっ!!ソフィちゃんは普通の女の子ですっ!!」」
2人は昼間の私の魔法が記憶に鮮烈に残っているからか、壊れたオモチャのように首を縦に振って肯定した。
「んじゃ、私の秘密の部屋『ディメンションルーム』へようこそ····· コチラの壁からお入り下さい」
そう言うと、まるで私は鏡の国の案内人のように何の変哲もない壁に入り、体を半分だけ出て2人に手招きをした。
名前:ソフィ・シュテイン
年齢:6才
ひと言コメント
「どうしよっかな····· 入った所をみんなで集まれるリビングにして、今ある私の部屋は別の部屋にしてドアを付けて鍵も掛けて····· うーんうーん·····」




