とっておきの秘策は奇抜な奇策
【建国1225年1月27日】
今日は大会前最後の練習日だ。
明日私たちは転移で会場に行き、その3日後に大会が始まるのだ。
その前に、私が仕上げた装備や秘策の最終確認をしなければいけない。
「よし、準備体操OK」
『Voooll?』
今私がいるのは、異次元空間『ディメンションルーム』の海洋実験室だ。
ここは広さが····· 何キロだっけ?
まぁ確か数十kmはあったので走るのには丁度いい感じになっている。
「クトゥさんは見てて、多分危険な事をやるけど気にしないでいいからね?」
『Volll·····』
なんか親戚のおじちゃんみたいだけど本当はヤベェ神·····なのかな?まぁヤバいお方のクトゥさんが見守るなか、私はある実験をしようとしていた。
◇
皆様は『バシリスク』という生き物をご存知だろうか?
いや『バジリスク』は神話生物で今回はこっちじゃない。
バシリスクは中央アメリカの熱帯雨林に生息する爬虫綱有鱗目トカゲ亜目イグアナ科バシリスク属の爬虫類の事で、そんなに大きくないトカゲみたいなヤツだ。
このパッとしない一見普通のトカゲは、とある理由で日本のテレビでも定期的に出るほどものすごく有名だ。
コイツはなんと水面を走る事が可能なのだ。
仕組みは結構複雑なので簡単に説明すると、こいつの足の表面積はクソでかいので沈みにくい上に足が沈むより早く走る事が出来て体も軽いから可能なのだ。
人間がやろうとすると時速約110kmで特殊な踏み込み方をして走れば沈まずに走れる計算·····らしいのだが、机上の空論なのでこんなの人間には無理だ。
これをやるなら、体重を軽くするか足の面積を増やして高速で動かすか·····
どっちにせよ人間には不可能だ。
◇
「しかーーーーしっ!!」
『Vololl!?!?』
「私なら時速110kmで足を振り下ろせるっ!」
人の足を振り下ろす速度の最大値は時速50kmくらいと言われている。
んで、私の素の速度はせいぜい40kmが限界だろう。
だったら『須臾』で時間の流れる速度を遅くしてやれば、私は他の人に比べて〇倍で動く事になるのだ。
そんで私は普段は液体や大気に対しては『須臾』の効果を及ばないように上手く設定しているのだが、水の上を走るなら『須臾』の効果を水に対して適用させれば良い。
そんで、私が足を振り下ろす速度を時速20kmと仮定したら必要な遅延倍率は『6分の1』、傍から見れば私が6倍の速度で動く事になる訳だ。
「よし『須臾』発動!倍率6分の1!!」
『V o l l o v?』
魔法を発動すると時の流れが遅くなり、クトゥさんの喋る速度も遅くなった。
とりあえずクトゥさんに防御結界を張って、私は地面を思い切り踏みつけると·····
ド シ ュ ッ !
「おうっ!?」
足を振り下ろした地点にゆっくりとクレーターが作られ、砂が爆散して行く。
さすが推定時速120kmの蹴りだ、威力が半端ない。
「これなら行ける!レディー····· ゴー!!」
私はクラウチングスタートで駆け出すと、そのまま海面へと足を踏み出し·····
「がぼばばぼっ!?がぼばっ!?あばばばばばっ!」
普通に溺れた。
◇
「へっ····· へっ!へぷちんっ!!」
『Volrvol·····』
「おい今『変なクシャミだな』って言ったな?」
『Vol·····』
「どうしてもこのクシャミが治んないんだからあんまバカにしないでよ·····」
理論上は海の上を走れるはずなのに海の中に落っこちた私は、砂浜で焚き火をして体を温めていた。
流石に寒かったわ·····
「でも何で落ちたんだろ·····」
私はさっきの様子を録画していたので再生して原因を探り始めた。
が、すぐに原因が判明した。
「あーそういう事?踵から着水してるから抵抗が減って沈む····· なるほど!なら水面に対して垂直に足を振り下ろせばいいのか!!ちょっと行ってくる!!」
タタタタッ
バッシャーン!!
ぽーんっ
ヒュー·····
\バシャーンッ!!/
ひぎゃぁぁぁあ!!!?
冷たいぃぃぃぃっ!!
踏み込みが強すぎて吹っ飛んで海に落ちたわ·····
さ、寒い·····
「何で····· どうして····· ズビッ·····」
あっ、泣いてる訳じゃなくて寒くて鼻水が垂れてきただけだよっ☆
「スピードが足りない·····圧倒的に足りない·····」
再チャレンジでは垂直に足を振り下ろせていたし、確かに普通にやるよりかは抵抗を感じで歩けるような気はした。
でも全力でやってもかなり沈んだし、これを30km以上やるのは体力的にも無理だ。
というかバシリスクも数m〜十数mしか走れないらしいし。
「必要な条件····· 水に沈むより早く、なおかつ私は普通に走るくらいなら30kmは平気だからそれにあった倍率にすること····· フォームが普通に走る感じで沈まない遅延倍率·····」
脳内でめちゃくちゃ大量の計算式を構築して砂浜に木の枝でアウトプットして行く。
すると周囲の砂は一瞬で計算式で埋まってしまった。
「ううううーーーー····· わからん!!!」
もう魔法の力で水面に立ってやろうか?
確か『絶淵の奈落姫』を使えば水面にだって立てたはずだし走れた気がする。
温泉と川でしかやった事ないけど。
でもそれじゃロマンが無いというか、そっちも良いけど私は物理法則を使ってちゃんと水面を走ってみたいのだ!!
「確か理論上可能な時速110kmくらいだと次の足を出す前にスネあたりまで沈んでたんだよなぁ····· 走りにくかったし、まだ速度が足りないかな」
でも適切な速度を見つけるのは大変だ。
その度に海に落ちてガタガタ震えてたんじゃ大変すぎるし、最悪風邪をひいて出場できないかもそしれない。
「まぁ関係ないや、とりあえず沈むより早く次の1歩を踏み出せば良いだけだ!!」
「いくよ!『須臾』倍率変更!100万分の1ッ!」
周囲の時が止まっているかのように静まり返った。
この世界ではやろうと思えば光を超えた速度で動く事が出来るほど時が遅くなっている。
光に勝てて水に負ける訳が無いのだ。
「せーのっ!!」
たたたたっ
カツンッ
コツンッ
カコンッ
「おおぉぉおぉおっ!?沈まない!!」
流石に時の流れが100万分の1の世界では水に沈むようなことは無かった。
むしろコンクリートの上かと勘違いするほど硬く感じる。
もちろん私はそこら中を自由に歩き回る事ができるし、思い切り踏んづけても問題なさそうだ。
だけどこれじゃ早すぎる。
私が求めているのはこれじゃないのだ。
「少しずつ早く····· 早く·····」
私は時の流れを少しづつ早くして行くと、段々と足が水の中に沈むようになってきた。
そして倍率が100分の1になってきた辺りでガッツリ水に沈むようになってきたので、その場で足踏みをすると丁度想像していたくらいの感じで水の上に立つことが出来て、足を止めればズズズッと沈むくらいの速度になった。
「この速度で私が走ると普通は時速14kmくらいだから100倍すると····· 1400kmか、でも水面をパシャパシャと足踏みするのはダサい、ピョンピョン走りたい·····」
それから私はかっこよく走れるように色々な調整を行った。
◇
再び私は砂浜に立っていた。
「もう抜かりはない、走ってみせる!!」
「『須臾』発動!!倍率100分の1ッ!!」
再び時が流れる速度が遅くなったのを確認した私はクラウチングスタートの姿勢を取った。
「よーーい····· ドンッ!!」
ズダァァアアンッ!!
足を踏み込むと私の体はグングン加速し、海面に差し掛かる時には相当な速度になっていた。
そして足がとうとう海面に触れると·····
「うおおおおっ!!?走れてる!!私走れてる!!」
私は海の上をまるで飛ぶように高速でカッコよく走る事に成功した。
·····海面は爆弾が爆発したみたいな事になってるけど、まぁよし!!
名前:ソフィ・シュティン
年齢:12歳
ひと言コメント
「うーん····· 須臾使うのはズルいよなぁ····· やっぱりここはあの方法で挑むかな·····!!」




