魔法学校への旅路 2日目後半
結局あの後は特に何も起きず、私の杖『ラズワルド・ロッド』の出番が来ることも無く、お昼になり、昼ごはんも食べ終わり、もう数時間もすれば魔法学校に到着する所までやってきた。
「暇だなぁ、なんか起きないかなぁ·····」
「んー、私は何も無い方が平和で良いと思うけどな」
「だよねぇ·····」
「まぁ暇なのは俺も分かるぞ、この道は整備されてるとはいえ、2日の旅で1度も魔物が出てこないのは珍しいな、ラッキーだったと思いな」
「へぇい·····」
◇
それから1時間後、ようやく私が待ち望んだ展開が訪れた。
「ん?おい!アレってゴブリンじゃないか?」
「ゴブリンっ!?」
ゴブリンってあの緑色の醜悪な見た目のちっこい繁殖力がやたら強い、専門に狩る人も居るっていうアイツかな?
気になったので小窓から覗こうとしたが、冒険者さんに止められてしまった。
「嬢ちゃんたちは隠れとけ、流石に5匹程度じゃ俺たちなら楽勝な雑魚だがよ、アイツらは嬢ちゃんの天敵だ、それだけは覚えておけ」
「うん、わかった」
まぁ、『千里眼』で見るけどね!!
遠視の魔改造魔法『千里眼』で周囲を見渡すと、遠くの森のあたりに緑色の動く物体が見えた。
アレがゴブリンだろう、私が予想した通りな見た目をしていた。
数は見た限りだと5体で、私たちの居る馬車列を見つけて騒ぎながらこちらへ向かってきている。
対するこちらは冒険者2名、ある程度戦える乗客5名、一応戦える御者4名、そして戦力外の魔法学校入学生は2名
そして、戦力になる魔法学校の入学生が、ここに1名。
◇
『千里眼』で戦いの様子を見ていると、あの冒険者たちが意外と強いという事がわかった。
戦士の方は長めの片手剣に盾で堅実にゴブリンを相手取って倒しており、女性の魔法使いは水魔法でゴブリンの顔に水を纏わせて窒息死させていた。
ほう?中々やるじゃない。
水魔法の凶悪な使い方を即断で使えるのは練度の高い魔法使いの証拠だ、たぶん。
そして千里眼を更に上空に飛ばし俯瞰で見てみると、戦闘の配置が分かってきた。
まずゴブリン隊と戦っているのは冒険者たち、そして逃がしたゴブリンを食い止めるため、乗客たちが武器を持って馬車の周りを囲って、馬車の戦えない人を守るという構図になっているようだ。
·····ん?あっ、森の奥から追加で3匹ほどゴブリンが走ってきた。
戦闘の音を聞きつけたかな?
というか、馬車の防衛薄くない?
戦闘してる反対側がガラ空きだよ?
念の為ガラ空きの方を『千里眼』で見てみると·····
「あっ、ヤバい」
私の目には、草陰をコソコソと隠れながら馬車を回り込んでコチラに近付く、他のより一回り大きいゴブリンがしっかりと見えていた。
たぶん強個体で知能もちょっと高いのだろう。
このままでは、ヤバい展開になる。
私は『ラズワルド・ロッド』を掴み、馬車の扉を蹴りあけ·····
\バァンッ!!/
「バトルの時間じゃゴルァ!!」
戦闘が繰り広げられる外に飛び出した。
◇
「すぅ····· 『ラズワルド・ロッド』出力上昇、魔法増幅機能及び魔力伝搬機能正常、行くよゴブリン共」
私が馬車から飛び出し『ラズワルド・ロッド』の真の力の起動を開始する。
すると私の匂いを嗅ぎつけたのか、一回り大きいゴブリン、『ゴブリンリーダー』が顔を出してきた。
「ギャッギャギャッ!」
そして『良い獲物を見つけた』と言わんばかりの顔でコチラに走ってきた。
うわぁ·····
ああいう視線ってこんなに気持ち悪いんだ·····
「ちょっと!ソフィちゃん危ないよっ!殺されちゃうよっ!」
私はフィーロ君の静止も聞かず、魔法の発動に集中し始めた。
「発動魔法を『マジックバレット』に設定、魔力充填120%、魔法圧縮開始、ターゲットスコープオープン、目標『ゴブリンリーダー』にロックオン、誤差修正完了」
私の足元に魔法陣が展開され、途轍もない量の魔力が無属性魔法『マジックバレット』を構築する魔導回路へと流入し、私の莫大な魔力を圧縮する事で実体を伴う強力な魔力の弾丸が形成された。
そして『ラズワルド・ロッド』を弓を構えるが如く持ち、魔導式ホログラム表示された照準器でゴブリンに狙いを定め、軸線をゴブリンリーダーにロックオンした。
「照準固定、ラズワルドロッドの魔法ベクトル強制加速システム起動·····」
『ゲギャギャーッ!!』
「ん?マズい!子供がゴブリンリーダーに狙われてる!」
「あの距離じゃ間に合わん!嬢ちゃん逃げろ!」
魔法発動まで5、4、3、2、1·····
「発射ァァァアアアッ!!!」
瞬間
激しい光と轟音が周囲を包み込んだ。
ッッガァァァアアアアアアァァァァアアアンッ!!
通常の1万2000倍もの魔力が込められ·····
否、魔力を過剰なまでに込めすぎた影響で空間が歪むほど圧縮された『マジックバレット』は、アホほど注ぎ込まれた魔力の力をフルに使い、更に杖の加速システムにより初速が既に音速を超え、ソニックブームが発生し辺りに爆音を響かせ、余剰魔力を光に変換される魔法発光現象を伴いながらゴブリンリーダー目掛けて飛翔し·····
◇
ひ、ひえぇ·····
あの超強化『マジックバレット』を放った瞬間、ゴブリンリーダーが消滅した。
爆発四散とかではない、文字通り消滅したのだ。
というか、ゴブリンリーダーどころではない。
地面を抉りながら、遠くに見える森をブチ抜き、岩を粉砕し、その先にある山さえも穿ってもマジックバレットは止まることなく遥か彼方まで飛んで行った。
私の目の前には、ゴブリンリーダーが爆散した僅かな痕跡と、遠くまで続く見事な一直線の道のみが広がっていた。
コレはヤバいな、私の想定ではマジックバレットでゴブリンリーダーの頭を吹き飛ばす程度の威力だったのだが、某宇宙戦艦の艦首に付いてるアレの如き威力が出てしまった。
·····というか、コレはマズい、なんか言い訳しないと大変な事になるヤツだ。
そうだ、踏ん張りすぎて全魔力消費しちゃったって、更にたまたまポケットに入ってた魔力結晶と杖が共鳴したせいって事にしよう。
「あれーっ!?ポケットに入れてたお父さんから貰ったすごい魔石が無くなってる!?もしかして魔法使ったときに使っちゃった!?うっ、アタマガイタイー、アタマガワレルヨウダー!キモチワルイー!イタイイタイー!!バタンキュー!!」
私は躊躇することなく後ろにぶっ倒れた。
後頭部が凄く痛いけど我慢しよう。
·····いややっぱりすごく痛いから治癒魔法かけとこ。
血出てないよね?
「·····はっ!?大丈夫か嬢ちゃん!おいっ!嬢ちゃん!嬢ちゃーーーん!!!」
「·····子供がこんな魔法撃てるなんて有り得ない、絶対に有り得ないわ、あの杖が原い」
『GyaOAAAAAAaaaaaglaaaaaa!!!!』
今度は私由来でない爆音が盆地中に響き渡った。
『千里眼』を使って目を閉じたまま外の様子をみると、遥か上空に赤い巨大な魔物が飛んでいた。
ドラゴンだ。
だが、ドラゴンはこちらに目もくれずどこかへ飛びさっていってしまった。
「·····もしかして、あの攻撃は嬢ちゃんのギリギリ手前掠めるように放ったあのドラゴンの攻撃か?」
「そうね、それしか有り得ないわ、そういえば私、ドラゴンは欠伸代わりに無属性のブレスを吐き出すと聞いたことがあるわ、たぶんそれかしらね」
「あぁ、だけど嬢ちゃんなんか叫んでなかったか?俺は耳がキーンッてしてて何言ってるか分からなかったが·····」
「私も何を言ってるか聞こえなかったわ、錯乱しているのわかったけど·····」
「そりゃそうだろう、ドラゴンのブレスが目の前に着弾したんだ、俺でも気絶する自信あるぞ?」
·····何とかごまかせたみたいだ。
見知らぬドラゴンさんありがとっ!!
その後、私は気絶したフリをしたまま杖ごと馬車に押し込まれて座席で寝かされ、爆音で混乱した馬が復帰するのをまってから魔法学校へと出発した。
◇
あれから3時間後、ようやく私たちがこれから9年間暮らす魔法学校のある街『魔法学園都市マグウェル』の入口に到着した。
あ、もちろん私は到着前に気絶から目覚めて、錯乱したフリをして、勝手にゴブリンと戦った事をしこたま怒られるハメになりました〠
結局あの件は、無謀な魔法学校の入学生がゴブリンと戦おうとしたところをドラゴンの攻撃が間一髪でゴブリンのみを薙ぎ払って私は奇跡的に助かった、という事になったようだ。
良かった、私の魔法はバレていないようだ。
ホッとしていると、受け付けが終わったのか門が開き、私たちを乗せた馬車が街の中に入っていった。
さあ!
魔法が飛び交う魔法学校が私を待っている!
青春は魔法学校にありっ!!
名前:ソフィ・シュテイン
年齢:6才
称号
『ラッキーガール』←New!!
ひと言コメント
「うーん····· 杖の出力調整ミスったかな、後でプログラム書き換えないと」




