魔法学校への旅路 2日目前半
建国1219年3月29日 6時30分
ドンドンドン
『おーい、ガキンチョ共起きろー、朝飯だぞー』
「んぅううううっ!っはぁ、よく寝た!!」
「·····ん?あれ?ここどこ? ·····あっ、馬車か」
「あぁ、やっと朝だ····· きゅうっ·····」バタッ
冒険者の男の方が馬車の扉をドンドンと叩き、その音で馬車で寝ていた私たちが目覚めた。
1人を除いて。
私はくたびれた抱き枕をポイッと捨て、馬車の中にある小さな鏡でアルムちゃんと一緒に身だしなみを整え、馬車の外に出ようとした。
が、若干1名、まだ起きずにだらけてる奴が居るな?
やれやれ、今日で魔法学校に着くというのにダラしない男だなぁ。
「ほら抱きま····· フィーロ君、朝だよ、寝てないで起きて!ご飯食べ逃すよ!」
「うぅ····· 眠い·····」
「あぁもう!アルムちゃん手伝って!」
「おっけー!」
流石に女の子1人の力では一応男の子であるフィーロ君を持てないので、私とアルムちゃんの2人がかりで馬車から引っ張り出し、引きずりながら焚き火の所まで進んで行った。
◇
「おう、やっときた····· か? 大丈夫か?ソレ」
「まぁ大丈夫だと思うよ?」
「水でも掛けとけば起きるでしょ?」
「いだっ!?」
とりあえずフィーロ君を地面にポイッと置き、私たちはそさくさと朝ごはんを食べ始めた。
「お前ら、容赦ねぇな·····」
「あれ?僕、なんで馬車の外に居るんだろ?」
向こうで男同士で何やら会話してるが、私たちはそんな事お構いなくムシャムシャと朝ごはんを食べる。
今日の朝ごはんはパンと干し肉と、昨日の魚から出汁を取ったスープだ。
うん、そこそこ美味しいかな?パンは硬いけど。
◇
なぜか何度起こしても寝てしまうフィーロ君はほっといて、私たちは馬車が出発するまでの間、朝っぱらから元気に遊んでいる。
「ソフィちゃん、杖の見せ合いっこしよ!」
「いいよー!んっふっふ·····あまりのかっこよさに驚かないでよ?」
「望むところよ!」
「じゃあ、まずは荷馬車に行こ?」
ふふふ····· 昨日の夜に作った世界に1つしか無い私の杖を見せて驚かせてやる!
と意気込んだは良いが、2人とも杖は手元に無い。
ロッド型は割と大きいので荷馬車に積んであるから、ということになっている。
どっちにせよ、インベントリから出す必要があるので荷馬車の中で隠れて出してしまおう。
◇
荷馬車の前に2人仲良く到着すると、まずはアルムちゃんが見張りをしてた人に許可を得て入っていった。
中からゴソゴソという音とアルムちゃんが唸る声が聞こえては来るが、中々出てこない。
どうやら荷物の下敷きになって取り出すのに苦戦しているようだ。
「アルムちゃーん、手伝おっかー?」
『いや、だいじょー、ぶえっ!?』
ゴンッ!
おっ?
無事に引っ張り出せたみたいだ。
たぶん引っ張り出した勢いで馬車の壁に頭を打って悶えているからから、馬車がユラユラガタガタ揺れている。
しばらくすると揺れが収まり、中からアルムちゃんの足音が聞こえて来て·····
「あっ、そうだ!ソフィちゃん目瞑ってて!いっせーのせで見せ合おっ!」
「はーい、通り抜けたら合図してね」
目を瞑ると、アルムちゃんが荷馬車から降りて、隣を通り抜ける足音が聞こえてから合図が出た。
よし、次は私の番だねっ!
私も見張りの人に許可を得て荷馬車の中に入ると、中は荷物がギュウギュウに詰まってて割と狭かった。
そして、私の荷物も他の人の荷物の下敷きになっていて、ちょっとやそっとでは取り出せそうに無い状況だった。
まぁ、でも私の杖はインベントリの中に入っているからわざわざ面倒な事をしなくても良い。
「『インベントリ:搬出:『星々の杖 ラズワルド・ロッド』』っと」
馬車の狭い隙間に真っ黒な空間の亀裂が生まれ、中から暗い紺碧色と金色の星空のような杖が出てきた。
宙に浮かぶ美しい杖をパシッと掴み、私は外に出ようとして踏みとどまった。
あたかも荷物の下から杖を引っ張り出したかのように、ギシギシとひとしきり暴れたあと私はアルムちゃんに声を掛け、アルムちゃんの方を見ないよう気をつけながら荷馬車を降りた。
「ん?んんん?そんな杖積んでたっけ·····?」
「やだなぁお兄さん、ちゃんと荷物は確認しないとダメだよ?」
「そ、そうだな、移動距離が少ないから気が抜けてたみたいだ、気を引きしめるよ」
なんかゴメンね?お兄さんはちゃんと仕事してるから安心してね☆
◇
2人とも自分の得物を持ち、荒野のガンマンのように背中を向け合った所で準備が整った。
「ソフィちゃん!準備おっけー!?」
「おっけー!!」
「「せーーのっ!」」
息を合わせて振り返ると、私の前に可愛らしい木と花と何かの結晶が組み合わされた杖をもったアルムちゃんが居た。
ふーん?
本体は魔力をもつ魔力樹の幹を加工したモノかな?
しかもちゃんとアルムちゃんに合った地属性の魔力が篭った魔力樹だ。
んで、天辺付近に飾り付けられた花は、これも保存処理が施された地属性の魔力樹の花のようだ。
そして、1番上にある結晶が私たちの町特産の魔石、これも地属性のようだ。
更に、魔力を見れる目で見てみると、杖内部に魔法の流路が形成されていて杖の大半を使って魔法発動を補助出来るようになっている。
「アルムちゃんの杖、かなりいい物だよね?」
「···············」
「アルムちゃん?」
よく見ると、アルムちゃんが口をポカンと開けたまま私の杖に釘付けになってピクリとも動かない。
·····
私の杖をフラフラと左右に動かすと、アルムちゃんの顔も追いかけてきて面白い。
でも遊ぶのはこれくらいにして、呆然としているアルムちゃんに声を掛ける。
「アルムちゃーん?だいじょーぶ?」
「はっ!?夢中になってた·····」
どうやら私の杖に見とれていたようだ。
「ふふん!私の杖凄いでしょ」
「うん····· ワタシの杖が霞むくらい····· でも、なんか形が杖っぽくない、というかどうやって手に入れたの?」
「これ?これは昨日····· は言ってなかったんだけど、ロッド型かどうか分からなかったからロッド型って言ったんだ」
「うん、なんかこう、カクカクして不思議な感じ·····」
「この杖ね、フシ町の近くの川あるでしょ?雪解け水の増水が終わった後に河原を歩いてたら見つけたんだ!凄いでしょっ!!」
「いいなぁ····· 私も河原散歩してたけど、そんなの見つけられなかったなぁ·····」
「これ結構重いから川底に埋まってたんだよ!」
まぁ、全部真っ赤なウソだけどね!!
でもこの杖を構成する金属は重いから、川に沈めたら底の方に溜まるのだけは合ってると思う。
「ワタシにも持たせて!」
「じゃあ交換しよ!私もアルムちゃんの杖見てみたいなっ!」
「うんっ!」
私たちは杖を交換するため、お互い近付き·····
おっと、杖を交換する前に、杖の先端についてる恒星の設定は·····
よし、熱は放射されないよう設定出来てるね、渡す前に忠告すれば大丈夫かな。
「あっ、アルムちゃん、これ渡す前に注意する事あるんだけど、上のコレね、もし触ると·····」
実演するため、足元にあった木の枝を拾って恒星にぶっ刺すと·····
シュボッ!
「こんな感じで、一瞬で焼けて無くなっちゃうから気を付けてね?」
「ひっ、き、気をつけますっ」
◇
アルムちゃんの杖を受け取ると、私はちょーっとだけ魔力を流してみるが、魔力がうまく流れなかった。
どうやらこの杖、アルムちゃん専用にチューニングされており、私の魔力波ではこの中を上手く流れてくれないようだ。
たぶん無理やり流す事も出来るけど、魔法が出る前に魔力抵抗の影響でこの杖が爆発四散するだろう。
うん、でもやっぱりこの杖かなり良いモノだ。
「ねぇアルムちゃん、これってオーダーメイドの杖だよね?私の魔力がうまく通らないし、少しだけ流れた感覚だとちゃんと全部に魔力の流路が繋がってるね、私のに引けを取らないくらいいい物だと思う!しかもすごく可愛いね!!」
「あ、ありがと····· おもっ····· えっ、ソフィちゃん、これ、なんで片手で、持てたの?ふんっぬぬぬっ!!」
·····そういえば私の杖、私以外の人が持つと重力魔法が解除されてめちゃくちゃ重くなるんだった。
「うん?ちょっとかして?」
「うんぬぐぐぐぐぐぐっ!!!」
地面にめり込むラズワルドロッドを、上の恒星にビクビクしながら必死に持ち上げようとしているアルムちゃんのもとに行き、恒星の上にある部分をガシッと掴む。
そして魔力を流すと重力魔法が発生して質量が軽くなり、アルムちゃんが杖を持ち上げる事に成功した。
「もてたっ!!·····ってソフィちゃん!?そこ掴んでて熱くないのっ!?」
「あぁ、これ私には効かないみたいだから平気」
そう言うと恒星に腕を突っ込む。
うーん、暖かい!
「ほ、ほんとだ····· でも不思議な杖だねこれ!」
「うんうん、あっ、アルムちゃんの杖見させてもらったよ!すっごくいい杖だね!オーダーメイドで作ってもらったの?」
「そうよ!前に王都に行ったって言ったでしょ?そのとき、入学祝いで王都にある杖のお店で私専用に作ってもらったんだ!」
ほほう·····?
王都の職人よ、いいセンスだ。
「たぶん、私の杖が変なだけでアルムちゃんの杖は本当にいいものだと思うよっ!」
「やった、ソフィちゃんに褒められたっ!」
そしてお互いの杖をひと通り観察し終わったので、杖をお互いに返して自分の杖で魔法を····· まだ使えない(事になっている)ので、バットみたいに振り回して遊び始めた。
うん、やっぱり私好みに作ったというだけあって扱いやすいね、それに私以外には質量が変わらないから、鈍器としてもかなり優秀だ。
そんな質量兵器をブンブン振り回せるのだから、破壊力はとんでもない事になっている。
しかもこの杖を構成する『星核合金』はめちゃくちゃ硬いから、岩に叩きつけた程度じゃビクともしない。
あっ、やべっ、岩に恒星が掠った所が溶解してら。
魔法で直しとこ。
◇
しばらく杖をブンブン振り回して遊んでいると、辺りが騒がしくなってきた。
「おーい、そこの2人!そろそろ出発するから馬車に入っとけ!」
「「はーい!」」
置いていかれると面倒なので、私たちは遊ぶのをやめて大人しく馬車に戻ると、既にフィーロ君が眠そうな目を擦りながらウトウトしていた。
とりあえずフィーロ君の隣が空いていたので、私はそこに座るとしよう。
眠くなったらフィーロ君に出来るし。
「ただいまー」
「ひっ!もう抱き枕は嫌だ抱き枕は嫌だ抱き枕は嫌だ····· いや、寝れるなら意外と悪くないかも? ·····あぁっ!僕は何を言ってるんだっ!!」
何かフィーロ君が荒ぶり始めたがそんな事はお構いなく馬車が出発した。
いざ魔法学校へ!!
「しゅっぱーつ!!」
「しんこーーっ!!」
「あの、僕は寝てても良い?」
名前:ソフィ・シュテイン
年齢:6才
ひと言コメント
「杖を馬車に置いたら重すぎて床板がメキメキ鳴ったから、更に重力魔法を掛けて軽量化したよっ☆」




