魔族と差別
それは広場の端にある花壇の縁に腰かけて揚げドーナツを食べていた時の出来事だった。
「あー美味しい····· やっぱり揚げドーナツはサイコーだぁ·····」
「ソフィちゃんほんとそれ好きだよね、まぁ僕も好きなんだけど」
「わかる?このサクサクしっとりな食感と優しい甘さが絶妙なバランスで美味しいんだよね!」
私は今日も今日とて、大好物の揚げドーナツを買ってもぐもぐと食べていた。
最近はフィーロ君もこの美味しさが分かってきたみたいで、よくシェアして食べたりしている。
やっぱり好きな人というか気になってる人が私の好きな物を好きって言ってくれると嬉しいなぁ·····
でへへ·····
おっと危ない、つい頬が緩んでダラしない顔になってた·····
「それにしても、みんな来るの遅いなぁ·····」
「まぁ仕方ないよ、アルムちゃんが先導してスイーツ巡りしてるんだもん」
「確かになぁ·····」
今私たちは別行動をしていて、私とフィーロ君、アルムちゃんとグラちゃんとウナちゃん、そしてエビちゃんの3チームに別れている。
私たちは揚げドーナツを買いに行く、アルムちゃんたちはスイーツ巡り、エビちゃんは1人でブラブラするという感じで意見が別れた結果、別行動という形で落ち着いたのだ。
そして私たちは目的の揚げドーナツをさっと買って、集合場所の噴水広場でドーナツを食べていた。
「·····ん?なんか騒がしくなってきてない?」
「ほんと?·····確かになんか騒ぎ声が聞こえる」
この噴水広場は町民たちの憩いの場なので常にザワザワはしているが、さっきからケンカみたいな怒鳴り声が聞こえ始めていた。
普段はあまり喧嘩とかは無い平和な街だから、こういうのは珍しいなぁ·····
『··········なのじゃ』
『ーーー!!』
「·····ん?」
「あれ?いま『〜のじゃ』って聞こえなかった?」
「あんな喋り方するのってエビちゃんくらいしかいないよね·····なんかあったのかな?」
喧騒に紛れて、エビちゃんらしき「〜のじゃ」が聞こえて来た。
なんか喧嘩に巻き込まれたのかな?
「ちょっくら野次馬してくる」
「はいはい行ってらっしゃい、あんまり騒ぎを大きくしないでねー、また説教部屋送りにされるよー」
「う、うるさいっ!最近は週3ペースになったからマシだよ!!」
「週3でも充分多いんだけどなぁ·····」
微妙に痛いところをつかれた私は、逃げるように騒ぎの中心へと向かった。
◇
ザワザワ·····
「おー、なんか人多いなぁ·····」
喧騒の発生源を探して広場をうろつくと、どうやら私たちが居た所の真逆で何やら言い合いの喧嘩が始まっていたようだ。
既に野次馬が結構集まってて、知り合いも割と沢山いた。
そして·····
『やはりお主らはアホなのじゃ』
『ふん、下等な亜人族、それも魔族如きが何を言っている』
やっぱり騒ぎを起こしていたのはエビちゃんだったようだ。
どうやら相手は複数で、統一された変な服を着て何かが書かれた看板やらなんやらを持っていたり、変な形のペンダントトップが着いたペンダントを首から下げていた。
「あーーー····· 亜人差別主義者共か·····」
エビちゃんが相手をしている男が言ってた発言から推測すると、どうやら亜人族を差別したい奴ららしい。
どっちかと言うと『人間至上主義』って奴かな?
この街は魔法の研究が盛んで世界各国から研究者がやって来たり、それの護衛で来たり魔物も割と多いから稼ぎに来る冒険者も多いので、亜人族がたまに居て差別が少ない町だ。
フシ町の鉱山では結構な人数のドヴェルグ達が働いてるし、町の工場や工房ではドワーフも働いてるから、異種族に関してはフシ町もマグウェル街も寛容だ。
それに、実はサークレット王国はすぐ上に魔族の国が今もあって、国交もあるからここマグウェル街なんかは特に魔族を見かける機会が多いのよね。
懐かしいな、6歳の頃エビちゃんが自分が魔王だって魔族の人に話しかけに行ったら、微笑ましい顔で頭撫でられてブチ切れてたの。
んふ、んっふ·····w
本人なのに、魔王を自称してる女の子って思われて·····!
んっっふっふっw
まるで『わたし!まほーしょーじょ、ぷいきゅあ!』って言ってる子供に見られてるみたいでっ·····
「んぶぁっふぉっwww!!」
·····話は逸れたけど、やはりというかなんと言うか、悲しい事ではあるんだけどこの世界でも亜人族への差別が少なからず存在する。
特に3600年前に大戦争の引き金を引いた魔族なんかは今でも根強く差別が残っている。
·····この国は、校長先生の働きで亜人族への差別をかなり強めに禁止しているけど、海を挟んで向こうの国は国教で差別を推奨している所がある。
どうやら喧嘩相手はソイツららしい。
「エビちゃーん!アホどもを相手してないでこっちでドーナツ食べよー!」
「おっ!ソフィよ!今そっち行くのじゃ!」
『おい逃げるな下等生物』
「ふっ····· 見ず知らずの相手に、それも少女相手に罵声を浴びせるようなやつの方がヒトとして下なのじゃ、もうちょい礼儀を学ぶのじゃな」
おっとエビちゃんの鋭いカウンターが決まった。
·····なんかアイツら、怪しい気配を感じるな。
鑑定してみよ。
·····ふーん?
誘拐、殺人、奴隷売買、拷問、その他色々·····
こいつらアレか、亜人族を差別して奴隷として扱ってるんだな?
調べたら隣の国の宗教の信者と神父だったし、この国にも布教をしに来て亜人族に悪印象を与えにきてるな?
なーんか、ウナちゃんの話でおじいちゃんからキナ臭い噂をしてたって聞いたし·····
魔力通信開始。
『エビちゃん、そいつら隣の国の奴らで違法奴隷とかもやってるから気をつけてね、人間至上主義の奴らっぽいよ』
『知っておるのじゃ、校長から気をつけるよう言われていた団体のヤツらなのじゃ、さっき歩いてたら集会してたこやつらに絡まれたのじゃ』
『ふーん····· ちょっと私もそっち行くわ』
私は人混みをかき分け、エビちゃんの元へと向かった。
◇
なんとか人混みをかき分けてエビちゃんの元へやって来た私は、コートを脱いで天使の服を露出させて差別主義者共の前にエビちゃんと共に立ち塞がった。
「あー、お前ら、エビちゃんを差別しようとしてたっぽいけど何か言い訳したい事ある?」
「·····お嬢さん、そんな穢らわしい下等生物と一緒にいるとダメですよ、こちらへ来なさい」
「嫌だね『誘拐殺人犯』共の所になんぞ行きなくないよ、テメェらの所に行ったら『違法奴隷』にされて隣国で精奴隷にされるから」
「なっ!て、てめぇ····· お嬢さんは何か勘違いしているようだね、みなさんそんなの嘘ですよ」
「ふーん?神に誓ってそう言える?」
「もちろんですとも」
「じゃあひとつ聞くよ?」
『お前らの信じる『神』は何者なんだ?人か?お前らと同じ、ただの人間か?』
「·····は?」
コイツらの信じる宗教の神は確か人型のはずだ。
まぁ、たぶん神様じゃなくて人間だと思うけどね、自称神の変なやつが開いた宗教っぽいし。
「そうでしょ?何せ人ではないヒトを差別するんだから、神という亜人も差別するんでしょ?」
「違う!神は神だ!」
「へぇ····· じゃあ神を差別するんだ、ほら神様は『神』っていう種族だよ?『人間族』と違うヒトという生き物、つまり亜人族だよ?」
「神は神聖だ!魔族如きと違う!」
「へぇ?じゃあどこが違うの?魔族から見たら人間は『亜人』だよ?」
「神がそう仰ったのだ!」
「それただの人伝のウワサ話でしょ?」
「それはお前が間違っているのだ!神は人間こそが絶対至上の存在だと仰ったのだ!神が貴様の主張が間違っていると証明している!」
あっ、前々から言ってみたかったアレ言えるかも!
「そうか、私の主張が間違っていて、お前らの主張は正しいと神が保証してくれるという訳だ」
「そうだ、だからその魔族をこちらへ寄越せ、正しい立場を教えこませる必要があるからな」
「ところで」
「なんだ?」
「お前らの言う『神』の発言の正当性は一体何処の誰が保証してくれるんだい?誰がその発言が『正しい』と言ったのかい?」
「か、神に決まってるだろう!」
「ではその神の発言が正しいと誰が保証した?」
「くっ····· 人より格上の存在だ!」
「例えば?」
「神や天使だ!!」
よし来た!
その発言を待っていた。
「へぇ?じゃあ『神』に類する存在が言ったらなんでも認めちゃうって事だよね?んふふ、なら·····」
·····実はこの前死んだ時から気がついてたんだけどさ
私、一段階格が上がったっぽいのよね。
「·····ソフィの石、覚醒」
カチッ
その瞬間、魔力を蓄えるだけだったソフィの石の性質が変化した。
蓄えていた膨大な魔力が私の体に行き渡り、全身が超高密度の魔導エネルギー体へと置換され始めた。
·····私は1度死んで肉体を失った。
そして復活の際に、全身を魔力で構築し直して再びこの肉体が作り上げられた。
その影響で、私の身体は全身が魔導回路のように組み換えられ、自らをより魔導生物に近い、人間の上位種族に近い魔導エネルギー生命体へとシン化しかけていたのだ。
「·····魔力充填120パーセント、擬似!進化っ!!」
本来不可逆的な変化のはずの物質的な肉体は、ソフィの石による魔力制御能力によって一時的に魔力へと置き換わり、神や天使と同じ魔力で構築された存在へと変化した。
そして余剰魔力は背中から放出され光の翼のように噴出し、頭上には物理法則を揺るがす程の魔力から生じる魔力誘導循環現象により光の環が出現した。
更に今の私の魔力には、なんかヤバげないつもと違う、ソフィの石の奥底に蓄積し濃縮されたような、推定『神属性』の魔力が宿っている。
その魔力はまるで覇〇色の覇気のような威圧感を伴う圧倒的エネルギー純度を持ち、ただ含まれるだけで桁違いの迫力を持っている。
その魔力を背中から放出している私は、誰が見ても神の使いであるという説得力を有していた。
さぁ、反撃の時間だ。
「あぁ·····天使様、穢らわしき亜人共に裁きを·····」
『はぁ?あなた方の主義は完全に間違っています、裁かれるべきなのは貴方たちです』
「なぁ!?」
『確かに我々は『人間が最も優れている』と言ったかもしれません、しかし『他者を差別しろ』という意味ではありませんよ?しかもそれは(私の)意志に反しています』
「くっ····· だがこの魔族は!」
「なんじゃ?天使の意志、ひいては神の意志じゃぞ?それに反するのか?」
「貴様ァ!」
『止めなさい、それ以上他種族を貶すのであれば·····』
『私の手によって、天誅が下されるでしょう』
·····天誅ってか鉄柱だけどね!!
賢者の杖もすぐに動かせるよう待機中だし、こいつらの宗教の本部も特定できてるから、あとはポチッとすれば終わりだ。
「くっ·····」
『今すぐ国へ帰り、私の意志を伝えなさい、反省の兆しが無いのであれば天より罰が下されるでしょう』
ポチッとなっ☆
ってやっちゃうよ〜
「·····チッ」
『·····あなた方の国では今も多くの亜人族と呼ばれる人類が奴隷にされ辱めを受けたり強制労働を受けています、もちろん貴方が加担した事も私にはわかっています、天誅を受けたくないのであれば全ての奴隷を解放し、差別を無くしてから言いなさい』
「·····では失礼します」
『では今度会う時は他種族と友好を結んでいる事を私は望みます、死後の世界で再会することが無いよう祈っております』
そう言うと、差別宗教の信者たちは広場から去ってどこかへ言ってしまった。
はい論破っ☆
◇
『正座』
「はい·····」
えーと、ピンチっす。
あのあと天使が居ると大騒ぎになって揉みくちゃにされかけたから、なんとか野次馬たちの記憶を改ざんして『天使が居るのが普通』という認識にして騒ぎを終わらせた。
そして普通にみんなと街中をぶらぶらと歩き買い食いをして、おなかいっぱいになって寮に帰ってきて『秘密基地』に入り、私の部屋に入った瞬間とてつもない眠気に襲われ、ベッドに倒れ込んで寝てしまった。
そして気がつくと真っ白い空間に来ていて、私の前にクソ女神のガイアが居た。
くそこのやろう、この前『羊とアザラシどっちが好き?』って聞かれたから『アザラシ』って答えたら、見様見真似で適当に作ったキビヤック送り付けやがって!!!
あれ処分するのめっちゃ困ったんだからね!?!?
本物はまぁ、うん、本物もヤバかったけどそれ以上にヤバかった。
素人が作っちゃダメだよあれは·····
結局ゴブリンに食わせたけど、ガチで悶えてたから相当なヤバさだよあれ。
そのあとスライムにあげたら喜んで食べてたからいいけど。
·····いや、マジで許さないからなこのクソ女神。
それはそうと、前にもこういうことがあった。
うん、前に賢者の杖で爆撃した時の事だ。
あの時何があったかっていうと、説教の時間だ。
もちろんここでは思考も筒抜けなので、余計なことは考えないでおく。
·····キビヤックの件、ガチで許してないから。
『そうよ余計な事は考えないでおきなさい、·····キビヤックの事は謝るから、ゴブリンを魔法で無理やり踊らせてるイメージを送り付けるのはやめて、悪趣味だから』
ほらね?考えてたことがバレてるよ。
だから逆手にとって、前に人体操作魔法でゴブリンを12時間ぶっ通しで踊らせた時のイメージを送り付けてやったわ。
「で?今日何の説教·····まぁわかってるけど」
『わかってるなら止めなさい、貴女ね、擬似進化の後処理が悪くて肉体が崩壊して死んだのよ?』
「·····そんなところだと思った」
どうやら、魔力に置き換えてた体が時間経過で戻る時に、適切に解除しなかった·····
というか、大雑把に放置してたせいで魔力になってた部分が消えて身体がボロボロになって崩壊したらしい。
·····確かに現世を見てみたら、ベッドの上が大変な事になってた。
はぁめんどくさ·····
あれ掃除するのめっちゃ大変じゃん、どう掃除しよっかな·····
『掃除は自分で何とかしなさい、それよりも貴女』
「チッうるせぇな····· 反省してまーす、はいはいわかりましたよー、勝手に天使のフリして神託したのがダメだったんでしょ?」
『貴女ねぇ·····!!それはどうでもいいのよ!!アイツらはムカつくから好きになさい!!』
「えっいいの!?ポチッとな☆しても!!」
『そっちがダメなのよ!!気軽に人を虐殺しようとして····· 天使とか以前に、ソフィちゃんの倫理観を今一度徹底的に勉強させ直して説教するわ!!!』
「エ゛ッ!!?!!!!?」
『叫んでも泣いてもダメよ』
「·····どこあたりがダメなんだ、いや鉄柱落としてあたりは私でもダメってわかってるけど、他は良くない?」
『·····お尻出しなさい、ケツ引っぱたきながら一つ一つ教えてあげるわ』
「ひ、ひぇーっー!?!?!」
そのあとネチネチと説教をされて、ガチの神罰としておしりペンペンの刑を執行されてしまった。
ちなみにガイア様、神様とか無関係なただの人間が神を名乗ってメチャクチャやってる例の宗教に相当ご立腹のようで、そのうち私に神罰代行を頼むつもりらしくてかなりビビった。
掘りごたつに入ろうとして布団を捲ったら中からウナちゃんがにゅっと出てきた時くらいビビった。
名前:ソフィ・シュティン
年齢:12歳
ひと言コメント
「うぅ····· お尻が痛い····· もうゴブリンを無理やり踊らせたり、ゴブリンの巣におおきい麻を燃やして投げ込んだり、オークの巣にフシ町の屋台から出た腐った生ゴミを搬入しまくってバイオテロ起こすのはやめます····· 私が悪かったです·····」
名前:アルム
年齢:12歳
ひと言コメント
「たまにソフィちゃんのお尻が真っ赤になって腫れてるんだけど、そういうの好きなのかな····· うへへ·····」
名前:フィーロ
年齢:12歳
ひと言コメント
「ソフィちゃんが好きな揚げドーナツを真似して食べてたら僕も好きになっちゃった、ちなみに僕の推しはシナモンシュガー味だよ!」
名前:グラちゃん
年齢:11歳
ひと言コメント
「ソフィが天使に?いつもの事よね?」
名前:ウナちゃん
年齢:12歳
ひと言コメント
「私たちって人間なのかな?ウェアはどう思う?」
「人間だと思うよー?スキルの効果だから種族は変わんないとおもう!」
「そっかー」「そうだねー」
名前:エビちゃん
年齢:12歳
ひと言コメント
「·····向こうが手を出してきたらボコボコにしようかと思ってたのじゃ、久しぶりに対人戦がやりたかったのにソフィに邪魔されたのじゃ」




