第七話:結婚式――解き放たれた光と、騎士の公然たる溺愛
エリオット王子の一件が片付き、レイヴンとリリアーナは正式に結婚式を執り行うこととなった。
リリアーナは、自室で、鏡に映る自分を見つめた。今日、彼女は「平凡」と決別する。
「平凡な令嬢」を演じるために長年続けてきた、金茶の髪の地味な三つ編みは、もうない。
髪は柔らかく波打ち、肩から背中へと流れるように解放されていた。
今日の主役である花嫁が纏う純白のドレスは、美しい黄金の刺繍と繊細なレースで華やかに彩られており、彼女の肌の透明感と、アメジスト色の瞳の美しさを最大限に引き出していた。
「平凡ではない未来を選んだのだから、もう地味に装う必要はない」
彼女は、レイヴンの愛を受け入れた。その愛が、彼女に与えたのは、「目立つことへの恐怖」ではなく、「愛されることの自信」だった。
「リリアーナ」
部屋に入ってきたレイヴンは、ノアヴァルト家の紋章をモチーフにした、黒を基調に白銀をあしらった騎士の盛装を纏い、いつも以上の威厳を漂わせていた。
そして、彼女の姿を見て、一瞬、呼吸を忘れたように立ち尽くした。
「……私の光。美しすぎる」
レイヴンはそう呟くと、彼女に駆け寄り、その細い腰を力強く抱き寄せた。彼の銀灰色の瞳は、彼女の解放された美しさに、底なしの独占欲と、純粋な陶酔を映していた。
「今日一日、君の美しさが、王都中の視線を集めるだろう。だが、構わない。皆に知らしめてやる。彼女は、私のものだと」
挙式会場に足を踏み入れた瞬間、誰もが息を呑んだ。
「あの地味だった侯爵令嬢が……」「まるで、太陽の女神のようだ」
注目の的となったリリアーナは、以前ならパニックになっただろう。しかし、今はレイヴンという「最強の盾」が傍にある。
レイヴンは、リリアーナを自分の傍らに引き寄せる。二人の間には、これまで以上に親密すぎる空間が生まれていた。
「レイヴン、結婚式とはいえ、引き寄せ過ぎです。皆が見ているのですよ」リリアーナは、熱い頬を彼の耳元に寄せ、囁いた。
レイヴンは、一切の表情を変えず、冷酷な声で答えた。
「見せつけている。私の妻が、どれほど愛されているかを。そして、誰にも奪えないことを」
彼は、周囲の貴婦人たちの羨望と、男たちの嫉妬の視線を受ける中、リリアーナの頬に触れて、キスをするかのように顔を近づけた。
「この光は、私のものだ」
(誓いのキスは、この後だというのに……!)
レイヴンの公然たる溺愛に、リリアーナは観念し、抗うことをやめた。彼の重すぎる愛が、彼女の平凡ではない未来であり、彼女の愛なのだ。
(ああ、もういい。平凡は諦めたわ。この非日常こそが、私にとっての最高のロマンスなのだから)
厳かな讃美歌が流れる中、二人は大司祭の前に立ち、永遠の愛を誓う。
リリアーナは、心からの笑顔を浮かべ、レイヴンの胸に深く寄り添った。
愛を受け入れ、解き放たれた光は、漆黒の騎士の愛という名の檻の中で、永遠に輝き続けるのだった。




