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【完結】黒髪の騎士様の婚約解消はお断りです  作者: ましろゆきな


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第五話:秘密と真意の開示――平凡を壊す、黒髪の理由

 夜が更けた侯爵邸の庭園。月明かりは、リリアーナの金茶の髪を淡く照らしていた。


 レイヴンは、普段よりも長く沈黙した。リリアーナの問いかけが、彼の心の奥底に封印していた傷口を開いたのだ。


「……私の力のせいだ」


 その声は、騎士団長としてではなく、ただの傷ついた一人の男の声だった。


 リリアーナが息を飲む中、レイヴンは自分の手を見つめた。その指は常に剣を握り、血と影を扱ってきた冷たい手だ。


「私の唯一の光は、私の妹だった」


 レイヴンは、リリアーナが腰を下ろしていたベンチの傍に、片膝をついた。その仕草は、忠誠を誓う騎士ではなく、罪を告白する者めいたものだった。


「エレナ。彼女も君と同じで、貴族社会から離れ、静かに暮らすことを望んでいた。私は、彼女の兄であり、騎士団長として、彼女の安全を誓った」


 彼の瞳の奥が、激しく揺らぐ。リリアーナは、無言で彼の冷たい手に、自分の手を重ねた。


「私がまだ若く、特殊な力――『影の術』の制御が未熟だった頃、王命による非合法な任務中、エレナを連れていた。敵の追撃を受けた際、私は彼女を守ろうと力を暴走させた」


 レイヴンは、痛みに顔を歪めた。


「私は、彼女を『影』の中に隠し、守ろうとした。だが、制御を失った私の『黒き(かげ)』は、敵ではなく、彼女の命の光を奪った……。彼女は、私の愛と力によって、静かに生きる望みを、永遠に断たれた」


 彼の告白は、リリアーナの想像を超えていた。彼の独占欲は、彼女を所有するためではなく、「二度と愛するものを失わないため」の、狂気的な防衛本能だったのだ。


「君は、エレナとは違う。だが、君の、貴族社会を嫌い、ただ静かに生きることを望むその『光』は、私にとって、あまりにも、あまりにも眩しい」


 レイヴンは、リリアーナの手を、まるでガラス細工のように注意深く持ち上げると、額に押し当てた。


「私は、君を手放すことができない。君を王子の策略や、宮廷の毒、そして何より、私の制御不能な力から守るために、私の力の届く、この暗い箱庭に、君を閉じ込めるしかないのだ」


 レイヴンは苦しみを堪えながら続ける。


「私の愛は、君の平凡を壊す毒だろう。だが、君の命を奪うことはない。離れれば、君は、王子の歪んだ執着、あるいは私自身の暴力性に晒されるだろう」


 リリアーナは、彼の顔を包み込むように手を伸ばした。彼の冷たい頬と、彼女の温かい手のひらが触れ合う。


「レイヴン。あなたの愛が、毒であることは知っているわ」


 彼女は、静かに言った。彼の銀灰色の瞳が、驚きに見開かれる。


「でも、その毒が、私を狙う王子の策略から守る解毒剤でもあることも知った。あなたは、私に、あなたの心臓の音を聞かせてくれた。その音は、私の安寧への渇望と同じくらい、必死に私を繋ぎ止めようとしている」


 リリアーナは、彼の胸元に頭を寄せた。騎士服越しでも伝わる、激しい鼓動。


「あなたの独占欲は、あなたの生存本能ね。そして、私の生存本能は、あなたを失わないことだと、気づいたわ」


 彼女は、彼の愛の「重さ」を、完全に受け入れた。


「私は、ただ守られるだけの存在ではない。あなたの唯一の光として、あなたの傷を理解し、あなたの力を正しく導くわ」


 リリアーナは、顔を上げると、レイヴンの冷たい唇に、自らそっと口づけを落とした。それは、平凡な令嬢ではなく、愛する騎士と共に戦うことを決めた、戦友と恋人の決意のキスだった。


「エリオット王子の陰謀。今度は、あなたの力だけでなく、私の合理的な頭脳も使って、彼を打ち破りましょう。……ただし、あなたは無茶をしないと約束して」


 レイヴンは、その唇の温かさと、瞳の強さに、心の凍てついていた部分が溶け出すのを感じた。


「……君の命令だ。リリアーナ」


 彼は、初めて、心からの安堵の吐息と共に、リリアーナを抱きしめた。その抱擁は、力強く、そして、甘く重かった。

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