第89話 終幕
今回89話書きました
お互いの出せる最強の技を出し尽くし、立っていたのは蓮だった。その下にレンは力無く倒れていた。
「俺の負けだ。殺せ!」と言うレンに、蓮は「それはできない」と答えた。
「なぜだ? 俺はお前に負けたんだ。敗者に生きる資格などない。殺してくれ」とレンが言う。
蓮は悲しそうな目で言った。
「なぁ、もう一人の僕──大人しく死なずにさ、罪を償ってくれないか? 俺はお前みたいな“被害者”を、殺したくない」
レンは笑いながら言い返す。
「俺が被害者? 笑わせるな。俺はこの世界を混沌の渦に巻き込んだ張本人だぞ!」
蓮は静かに答える。
「あぁ、わかっている。けど、それをやったのには理由があった。被害者と呼べるくらいなら、十分な理由がある」
レンは鼻で笑った。
「ふん、お前は相変わらずお人好しだな」
だが束の間の静寂の後、レンは残りの力を振り絞り、近くにあった刀を手に取り、自分の心臓を刺そうとした。
その刹那──僕よりも早く動いた影があった。
レンの持つ刀をレンから取り上げ、投げ捨てたのだ。
「何をする!おま!」と叫ぼうとしたレンの言葉は止まった。
止めたのは──紛れもなくアンシャだった。
「アンシャ!」と呼ぶ蓮に、アンシャは笑って言った。
「蓮、大丈夫。ちょっともう一人の蓮と話がしたいだけだから」
そう言って刀を突き返すでもなく受け取り、レンに呼びかけた。
「ねぇ……お願いだから大人しく捕まって!」
レンは震える声で言う。
「それはできない。もう負けた俺に生きる資格はない。だから死んで──あの世にいるアンシャに会うんだ」
その瞬間、空気が張りつめた。次の瞬間、すごい音が響き渡る。
アンシャがレンめがけてビンタをした。そのビンタを合図に、優しく抱きしめて言った。
「私はあなたが知っているアンシャじゃないけど、分かる。あなたの世界の私も、この世界の私も、大好きな人にすぐに死んで欲しくない。だからお願い、こんなこと、やめて!」
その姿に、レンはかつて共にいたアンシャの姿を重ね、震える声で「アン……シャ?」と呟いた。
アンシャはさらに言葉を続けた。
「私、知ってるよ。あなたがこんなことしたのは、この世界が許せなかったからでしょ?」
レンは力無く答えた。
「ああ、そうだ。俺はこの世界に来て……この世界の国際会議を見た。あの時、結果が覆ったのは嬉しかった。でもさっきまで、俺を殺そうとした奴らが、今度は手のひらを返して仲良くしようとしているのを見て、許せなかった。あの国達は、俺のいた世界のアンシャを殺した奴らだから」
アンシャは悲しい目で言った。
「うん、知ってるよ。あなたが私を攫ったとき、なぜだか憎しみと悲しさを感じたの。それで聞いた。大切な人を殺されたから、許せなかったんだね」
そして優しく微笑みながら言う。
「でも、そんなことしても……私もだけど、別の世界のアンシャも喜ばないよ!」
その言葉に、レンは震える声で返した。
「お前は、どうしてそんなに俺に諭そうとするんだ? お前の大切な人を殺しているんだぞ?」
アンシャは静かに答える。
「確かに、殺された。でも……生き返った。そして何より、どの世界でも私はあなたに恋すると思ってた。私のために動いてくれてたのが嬉しかった。でも、それと同じくらい、もっと真っ当なやり方で動いて欲しかったと思ったの。たとえ違う世界の人だとしても、道を踏み外して欲しくなかった。
罪は消えない。でも、これ以上大好きな人に罪を背負わせたくないの!」
その目は真剣だった。そしてその言葉を聞いたレンは、声にならない声で泣いた。涙を流しながら、アンシャにそっと抱きしめられた。
外は優しい朝日が差していた。
しばらくしてから、レンはゆっくり立ち上がった。
「おい、もう一人の俺。俺はお前の行く末を見守りたくなった。だから俺は、お前の中に“入る”とする」
そう言った瞬間、レンの体は丸っぽい球体になり、それが蓮の体の中に吸い込まれていった。
蓮の体の中から声が聞こえた。
「……あと、約束しやがれ。アンシャを泣かせるなよ! 泣かせたりしたら内側から特大の蹴りをお見舞いしてやる!」
蓮は苦笑しながら答えた。
「どの口が言ってんだ、お前こそアンシャを泣かしてるだろ! …あれは、仕方なかったんだ。」
そして──この戦いは完全に決着した。
蓮とアンシャは二人でカイルのところに向かい、みんなと抱き合った。そして勝利をかみしめたのだった。
次回も楽しみに




