第77話 英雄に全てを託したんだ!
今回76話書きました
蓮は迷っていた。
目の前に立つのは、禍々しいオーラを纏う六体の人型の魔物。
一体だけでも空間が歪むほどの圧迫感。それが六体——呼吸すら苦しい。
(援軍の王たちが来るまで……もつのか?)
そう思いながら蓮は武器を構えた。
しかし、カイルが口を開く。
「蓮、お前は先へ行け。あの先に“主人”がいるはずだ」
「え!? できませんよ! みんなを置いていくなんて!」
「俺たちでやる!いいか、他人の心配より自分の心配をしろ!」
その言葉には一切の迷いがなかった。
蓮は拳を握りしめ、うつむき、そして顔を上げる。
「……わかりました。絶対生き残ってください!」
仲間たちに背中を任せ、蓮は駆け出した。
――――――
一方その頃。
アンシャは避難した情報部隊本部にいた。
蓮が「国の中は危険だから」とヴァルドリン王に頼み込んでそこへ移したのだ。
しかし、アンシャの顔は晴れない。
「蓮殿が心配か?」
隣のヴァルドリン王が声を掛ける。
「はい……」
「心配いらん。あの蓮殿だ。そう簡単には死なん」
それでもアンシャの不安は消えない。
「わかっているんです。でも……また無茶してないかなって。
蓮は……“自分を守ること”を守る対象に入れてないんです」
「どういう意味だ?」
「蓮はいつも誰かを守るためなら、自分はどうなってもいいって思っている。
だから、帰ってくるといつも傷だらけ。
理由を聞けば『目の前の人を見捨てるなんて無理だ』って……」
ヴァルドリンは目を細め、静かに語る。
「……それは私も思うところがある。
あの時、我が国を救ってくれた時も真っ先に駆けて行って敵将を打ち倒した。
だが戻ってきた姿はズタボロだった。最高病院でもなかなか目を覚まさんかった」
アンシャは俯き、呟く。
「……蓮はいつも誰かのために戦ってる」
「それこそが強さであり、敬意であり、そして——心配の種だな」
その言葉を噛み締め、アンシャは立ち上がる。
「……私、飲み物を買ってきます」
「うむ。気をつけてな」
アンシャは店で人数分の飲み物を買い、戻ろうとした——
その瞬間、身体から力が抜ける。
「え……なんで……?」
近くから低い声。
「やっと見つけた……さあ、来てもらいますよ」
アンシャは意識を闇に飲まれた。
――――――
同時刻、蓮たちはまだ六体に包囲されていた。
「くそっ、突っ込む隙がない!」
カケルとノイルは魔力が尽きかけていた。
「魔力が……もうねぇ……」
その瞬間、蓮が叫ぶ。
「そうだ! これを!」
懐から粒状の薬を二人へ差し出す。
「これは僕のスキルを媒介にした魔力回復薬!
前は副作用があったけど、今は疲労も回復できるように改良済み!」
二人はそれを飲み、一気に力が漲った。
「すげぇ……!」「これは助かる!」
他にも配ると、次々に仲間たちが集まり、手を伸ばす。
エレナも驚く。
「蓮……どうやってこんな数を?」
「粒状だから、一つだけ作ってアンナさんに複製してもらってたんです!」
「なるほどね。九日も寝てたのに準備してたのかと思ったわ」
皆の魔力が満ち、再び武器を構える。
蓮は前へ走り出す。
二体の幹部が襲いかかる——
だが、その刃は届かなかった。
「貴様の相手は俺たちだ!」
カイルが一体、ノイルとカケルがもう一体を止めてくれていた。
「蓮、行け! 主人を倒して来い!」
だがまだ四体いる。
四体が蓮へ突撃——
その瞬間。
「兄貴に指一本触れさせねぇ!」
ライガが道を塞ぎ、
「私たちが相手よ!」
ルビとエレナが並び立つ。
遅れて、血の滲むような笑みを浮かべた影が追いつく。
「……待たせたわ。ほな、僕が相手や」
リュシアが剣を構えて笑った。
「なんとか間に合ったわ。行ってこい蓮くん。こいつら、全部足止めしたる」
蓮は足を止めず叫ぶ。
「ありがとうございます!」
通路を抜けようとする蓮に、敵が嗤う。
「愚かだな。死に急ぎか?」
仲間たちは揃って叫ぶ。
「死にに行くんじゃねぇ!
——英雄に、全てを託したんだ!!」
蓮は振り返らない。ただ前だけを見る。
(この命、僕だけのもんじゃない……!)
蓮は闇の奥へ、仲間に背中を押されて走り続けた。
次回も楽しみに




