第61話 新たなる王の誕生
今回60話書きました
「はぁー……」
カイルはひとり執務室で大きくため息を吐いた。
蓮とカケルの報告では、ベルディアの洗脳は解け、
居座っていた敵のボスも倒した──そのはずだった。
しかし今、王を失ったベルディアは混乱の渦中にある。
(良い案が……浮かばん……)
考え続けても、道は見えない。
気晴らしにと街へ出ると、新しい看板が目に入った。
〈一日限定バー〉
「……こんな所あったか?」
半ば吸い寄せられるように扉を開けた。
中は想像より広く、客で賑わっている。
カウンターに座ると──
「おや、誰かと思えばカイル王。お久しぶりです」
そこに立っていたのは、ノイルだった。
「お前、なにしてるんだ?」
「商売ですよ。情報屋だけじゃ食べていけませんので。
こうやって各地で一日限りのバーを開いてるんです」
「そうか……」
酒を飲み進めていくうちに、カイルはつい胸の内を漏らした。
「ベルディアは混乱中だ。なんとかしたいが……策がない」
ノイルは静かにカイルの目を見た。
「──3日、いただけませんか?」
「どうするつもりだ?」
「カケル様を、ベルディアの王として推薦いたします」
「ぶっ!? な、何を言い出すんだお前!」
「蓮さんを3日ほど借りられれば十分です。
ベルディアの混乱を鎮め、ヴァルセインとの友好も約束させます」
怪しい──だが蓮が共に行動するなら安全だろう。
「……わかった」
「ありがとうございます。今日は飲みましょう。王様」
酒を注ぎ足しながら、カイルの脳裏に疑問が浮かぶ。
「そういえば……お前、なぜ情報屋なんてやっているんだ?」
ノイルは少しだけ顔を伏せ、グラスを回した。
「気になりますか?
……まぁ、王にならお話ししてもいいでしょう」
◆ノイルの過去
「私はかつて、地位ある貴族の家に生まれました。
兄弟もおらず、父は私に過度な期待をしていました」
だが──
いつまで経っても魔力は芽生えない。
スキルも発現しない。
「父は狂いました。
母にも私にも暴力を振るうようになった」
ノイルの拳が僅かに震える。
「そしてある夜……
私は母を殺した父を見てしまった」
カイルは息を呑む。
「気づいたら、父は死んでいました。
その時、自分の能力を理解したんです」
その力──成り代わる力。
他者を殺し、その存在を完全に奪う。
「皮肉ですよね。
役に立つために、人を殺す能力だったんです」
苦笑が一瞬漏れるが、その瞳はどこか誇りを宿していた。
「でも──唯一拾ってくれた“おじさん”は違った」
ノイルの声に温度が戻る。
『救いようのないクズを殺し
そいつになりすまして善人にする。
そんなことができるのはお前だけだ』
「その言葉が、私を救ったんです。
俺の力は、命を救える力なのだと。
だから情報を集め、望む人へ届ける。
必要とされるなら、影にだってなる」
カイルは、言葉を失っていた。
(偽物……?
いや──こいつは誰より本物だ)
「これからも……俺は、お前を頼ってもいいか?」
「もちろんです。王には特別価格で」
軽口を叩きながら、ノイルは微笑んだ。
◆運命を動かす3日間
翌日。
カイルはノイルの提案を蓮に伝えた。蓮は迷わず答えた。
「わかりました。僕、ノイルさんと行きます」
二人はベルディアへ転移。
ノイルの仲間・イリカが待っていた。
「世間には、ヴァルセインが異変をいち早く察知し
カケルが敵王を倒したと流すぞ」
物事はノイルの掌の上で転がっていく。
そのまま城へ。王室の前には先代に仕えていた側近の老人。
「英雄が来る。国は救われる」
ノイルの言葉に老人は希望を見出した。
◆戴冠
翌日、カイルとカケルが王室へ訪れた。
「こちらが国を救ったヴァルセインの英雄・カケル様です」
老人は深く頭を下げた。
「この国の王に──あなたが就いてはいただけないか?」
カケルは一度、蓮を外へ連れ出す。
「本気か? 俺が王なんて」
蓮は、笑って背中を押す。
「君ならできるよ。
僕より頭もいいし、人を導ける人だから」
数秒の沈黙のあと。
「……わかった。任せろ。
この国を最高の国にしてみせる」
堂々と宣言し、戻ったカケルは国王就任を受け入れた。
歓声こそまだないが──
ベルディアに、確かな光が差し込んでいた。
そしてその背後。
静かに微笑む影の男。
その誇りは“偽物”なんかじゃない。
誰よりも優しい影だ。
これからもよろしくお願いします




