第52話 ごめん、そしてこれからも
今回52話書きました
僕は今、街を歩いていた。
向かう先は――花屋。
なぜかと言うと、昨日アンシャにおそらく嫌われてしまったからだ。
けれど、どうしても仲直りがしたかった。
花を渡して、もう一度笑い合いたい。そう思ったからだった。
そうこうしているうちに花屋へ着いた。
中を見て回っていると、ひときわ綺麗な花が目に留まる。
「……これ、いいかも」
そう呟きながら一つ買ったが、なんだかそれだけでは足りない気がした。
もう少し気持ちを伝えられるものがほしい――そう思ってさらに探していると、
もう一つ、心惹かれる花を見つけた。
「よし、これも買おう」
そう決めて花屋を後にし、僕は家へと帰っていった。
――その少し前。アンシャもまた同じ花屋を訪れていた。
アンシャは静かに花々を見つめ、悩んでいた。
(何を渡せば、私の気持ちは伝わるだろう……)
しばらく悩んだ末に、ようやく一輪の花を選び取る。
紫色のヒヤシンス――その花言葉は「ごめんなさい」。
彼女はそれを抱きしめるように持ち、家へと帰っていった。
そして、家に着いた瞬間――アンシャは絶句した。
部屋の中は散乱しており、机にはいくつものビール瓶が転がっている。
「……とても心にショックを与えてしまったんだね」
胸が痛んだ。
アンシャは無言で片付けを始め、散らかった部屋を少しずつ元の姿へ戻していく。
そして掃除が終わると、静かにキッチンへ立ち、料理を作り始めた。
その時――扉が開く音がした。
ちょうど同じタイミングで、花を手にした僕が帰ってきたのだった。
「……え?」
目に映ったのは、すっかり綺麗になった部屋、そしてキッチンに立つアンシャの姿。
その瞬間、胸が熱くなり、気づけば涙が溢れていた。
僕の涙を見て、アンシャは驚いたように近寄り、抱きしめてくれた。
「本当にごめんなさい! 私、貴方がこんなに傷ついていたなんて思わなくて……!」
「いや、気にしないで。心配かけたのは僕もだから」
互いに謝り合い、しばらくの間、抱き合ったまま動けなかった。
やがて僕は、持っていた花を取り出した。
「これ、アンシャに渡したくて買ってきたんだ」
見せたのはジャスミンとアンガレカムの花だった。
「こんな綺麗な花、もらっていいの?」
「うん。渡したいって思ったんだ。
アンガレカムの花言葉は“いつまでも一緒にいたい”。
ジャスミンの花言葉は“あなたと一緒にいたい”。
だから、僕はね――これからもアンシャと一緒に、ずっといたいって思うんだけど……いいかな?」
アンシャは涙を浮かべながら、微笑んだ。
「こんな私で良かったら、喜んで……!」
そう言って花を受け取り、今度はアンシャの方から花を差し出してきた。
「これ、渡すの遅くなっちゃったけど……」
見せてきたのは、あの紫のヒヤシンス。
「この花言葉、“ごめんなさい”なの。
私、貴方のこと考えていたことも、何も知らずに言いすぎてしまったから……本当にごめんなさい」
アンシャが深く頭を下げる。
僕はその頭をそっと撫でて、優しく言った。
「いいよ。アンシャも僕のことを思ってのことだったんだろ? 仕方ないよ。
けど……こんなに綺麗な花、ありがとうね」
そう言うと、アンシャは再び僕に抱きついた。
その温もりに包まれながら、静かに頭を撫でていると――
扉の開く音が聞こえた。
振り返ると、そこにはライガとエレナさんが立っていた。
「あの、二人とも何してるんですか?」
「貴方が心配で、近くで見張ってたのよ。倒れないようにね」
「本当にありがとう」
そう言うと、エレナさんはホッと息をつき、微笑んだ。
「良かった……本当に心配したんだから」
「そうですよ、あの急に泣き出した時は本当に焦りましたよ」とライガ。
「その節は本当にありがとう。おかげで仲直りできました」
「それは良かった」
僕は微笑み、アンシャの方を見た。
「今、アンシャがご飯作ってくれてるんだ。このまま一緒に食べていこうよ」
「えっ、いいの?」
「うん。今日のお礼も兼ねて、ぜひ」
そうしてアンシャに声をかける。
「アンシャ、ライガとエレナさんもご飯食べるみたいだから、作れる?」
「はい、大丈夫! でも……手伝ってね?」
「もちろん!」
二人でキッチンに立ち、笑い合いながら料理を作った。
そしてその夜、四人は久しぶりに――心からの笑顔で食卓を囲んだのだった。
次回もお楽しみに




