第33話 暴走と制御の指輪
今回33話書きましたが
翌日、僕は朝早く目を覚ました。時計を見ると、朝6時半を指している。
起き上がろうとしたけど、体が動かなかった。横を見ると——アンシャが僕に抱きついて寝ていた。
「……そっか。昨日、アンシャが『一緒に寝よう』って言ってたんだったな。」
思い出して、僕はそっとため息をついた。
もう一度布団に潜り込むと、すぐにまた眠気が襲ってきて……気づけば再び眠っていた。
――そして、次に目を開けたとき。
横を見るとアンシャの姿はもうなかった。
僕は部屋を出てリビングに向かうと、三人ともすでに起きていた。
「おはよー」
「おはよう、蓮」
いつも通りの朝の挨拶。みんなで朝ごはんを食べていると、エレナさんがふと口を開いた。
「ねえ、蓮。今、あなたってどのくらい強いの?」
「うーん……自分でもよくわからないですね」
「だったら、今日久しぶりに戦ってみない?」
「えっ!? 戦うんですか!?」
驚いていると、ライガが勢いよく手を挙げた。
「いや、蓮の兄貴! 俺ももう一回戦いたいっす!」
「わかりましたよ……確かに今の力を知っておくのも大事だしね。」
そう言って僕は準備を整え、リュシアさんのところへ向かった。
「おー、蓮くんやん。どないしたん?」
「いや、エレナさんとライガが僕と組み手したいって言い出したので、戦える場所がないかなって思いまして。」
リュシアさんは笑いながら立ち上がる。
「あー、そういうことか。ならついておいで。」
案内された先は——まるで闘技場のような広い空間だった。
ここなら遠慮なく戦えそうだ。僕は一度戻って、エレナさんとライガを連れてきた。
全員が武器を構える。リュシアさんが声を張った。
「始めっ!」
その瞬間、二人は同時に僕へ突進してきた。
砂煙が舞い上がり、激しい金属音が響く。
「……何!?」「こんなことができるのかよ!」
二人が驚いていた。
なぜなら、そこには——もう一人の僕がいたのだ。
「驚きました?」
「そんな魔法まで使えるの?」
「はい。《ダブル》っていうスキルです。この前手に入れました。」
リュシアさんの分身魔法とは少し違う。
僕の《ダブル》は、自分が想像した戦い方をする分身を作ることができる。
今回は「ダブルモード・素手」に設定してある。
分身は剣ではなく、ナックルで戦うのだ。
「そんなのありなのかよ!」
「では——いきます!」
僕と分身は同時に駆け出した。僕はライガ、分身はエレナさんへ。
ライガとの斬り合いは激しかった。互いに一歩も譲らない。
だが、ライガが不敵に笑った。
「これならどうだっ!」
剣先が赤く輝き、赤い斬撃が飛んでくる。
僕は身を翻して避けた。
「なるほど……あのモードの力を斬撃に乗せたのか。やるね。」
「まだまだ、こんなもんじゃないですよ!」
連続して飛んでくる斬撃を、僕はすべてかわしながらライガに近づく。
そして魔法を詠唱した。
「《フラッシュ×チェイン混合魔法・フラッシュチェイン》!!」
ライガの足元から鎖が出現し、彼の剣に巻きつく。
ライガが斬ろうとした瞬間、鎖が閃光を放った。
「うっ!」
眩しさに目を覆ったライガ。その隙に僕は背後へ回り込んで拘束した。
「勝負ありだ、ライガ。」
「……はぁ、今回はいけると思ったんですけど。参りました。」
その頃、分身とエレナさんの戦いも激化していた。
「……強い。一撃一撃が重い……!」
分身が詠唱する。
「《風付与・風破弾》!」
目にも止まらぬ風弾が飛ぶ。エレナさんは勘だけでそれを受け流していた。
だが、横合いに分身が出現——!
「まずい、避けられない!」
「《風×サンダー付与混合スキル・風雷破》!」
ナックルに雷を帯びた一撃が放たれる。
だが、拳は空を切った。
次の瞬間、エレナさんの体から黄色いオーラが噴き上がる。
「お願い……成功して 能力解放――バーサーク!!」
咆哮とともに、エレナさんは超高速で分身を叩き伏せた。
そして僕と対峙する。
「くっ……速い!」
彼女の剣は風のようだった。防ぐのが精一杯で、反撃の隙がまったくない。
僕は焦りながらも、ひとつの案を思いついた。
「頼む、魔力もってくれよ……!」
「《チェイン×ステルス混合スキル・ステルスチェイン》!!」
見えない鎖がエレナさんの動きを止める。だが長くはもたない。
僕はすぐ背後に回り、彼女の頭に手を置いた。
「《スリープ》!」
エレナさんはその場に崩れ落ち、穏やかな寝息を立て始めた。
僕は息を切らしながら立ち尽くす。
リュシアさんが近づいてきて笑った。
「お疲れさん、蓮くん。……すごいな。ヴァルセインの騎士団長と、カイル直属の部下二人を相手にこの結果。僕でも勝てるかわからんわ。」
「ありがとうございます。ギリギリでした。あのエレナさん……本当に強かった。眠らせなかったら、確実に負けてました。」
「蓮くんの強さは、戦いながら次々と作戦を思いつく発想の広さや。誇ってええよ。」
そのあと、ライガのところへ行った。
「ライガ、大丈夫?」
「問題ないっすよ、蓮の兄貴。まさかリュシアさんみたいに分身まで出せるとは思わなかったっす。」
「最近使ってなかったけど、やっぱり便利な能力だね。」
「悪いけど、エレナさん運ぶの手伝ってくれる?」
「了解っす!」
二人で彼女を拠点に運び、寝室に寝かせた。
「ライガ……エレナさんの、あの状態って何?」
「あれはエレナの固有能力っす。身体能力を限界まで引き上げるんすけど……制御が効かねぇんす。理性が飲まれちまうんだ。」
彼の言葉に、胸が締めつけられた。
――どうにか、助けられないだろうか。
僕は考え、すぐに決めた。
「ライガ、ちょっと待ってて!」
テレポートの魔法陣を展開し、アルシエルへ飛んだ。
アンナさんの家に着き、ノックすると彼女が顔を出す。
「あら、蓮? どうしたの?」
「少し相談があって……」
事情を話すと、アンナさんは真剣な顔になった。
「エレナのスキルが暴走……大丈夫だったの?」
「はい。僕がなんとか押さえました。今は眠ってます。」
「なるほどね。……つまり、そのスキルを抑える道具を作ってほしいってことね?」
「はい! お願いします!」
「難しいけど、やってみるわ。蓮、相手の自由を奪うスキルって持ってる?」
「えっと……あります! これです!」
僕はチェインのバッジを見せた。
「この《チェイン》という魔法は、鎖で相手を縛るんです。」
「それだ! ちょっと待ってて。」
数時間後、アンナさんは指輪を手に戻ってきた。
「できたよ。暴走中にこれをはめられれば、能力を制御できるはず。」
「ありがとうございます! すぐ渡してきます!」
再びテレポートでフィルナ公国に戻ると、ライガが慌てていた。
「蓮の兄貴! エレナさんが起きたんすけど、どこかに走って行っちまいました!」
「……っ! 追ってくる!」
魔力を感知してテレポートを発動。
着いた先は洞窟の近くだった。中からすすり泣く声が聞こえる。
「エレナさん!」
中に入ると、彼女が膝を抱えていた。
「お願い、来ないで……! あなたまで殺してしまうから!」
「大丈夫です。僕は殺されません。もしそうなっても、全力で止めます。」
そう言って、そっと抱きしめた。
彼女は震えながら語り出す。
「昔ね……お姉ちゃんとアンシャと同じ孤児院にいたの。でもその前は家族がいたの。幸せだった……
でもある日、急に能力が暴走して……気づいたら家は壊れてて、両親は……死んでたの。私が殺したのよ……」
嗚咽をこらえながら彼女は続けた。
「だから、二度とこの力は使わないって決めたの。でも今日……また使ってしまったの……!」
僕はさらに強く抱きしめた。
「辛かったですね。でももう大丈夫。僕たちがいます。」
その瞬間、彼女の体が震えた。
「に……げて……お願い……!」
再びオーラが溢れ出す。
「くっ、暴走が始まった!」
僕は避けながら考える。どうやって指輪をつけるか。
そして閃いた。
「《チェイン×フラッシュ混合スキル・フラッシュチェイン》!」
鎖が輝き、エレナさんを拘束。
その瞬間、僕は彼女の手を取り、指に指輪をはめた。
「うああああああっ!!」
エレナさんが叫ぶ。
オーラが引き、光が消え……静寂が戻った。
「……あれ? 暴走、してたはずなのに……?」
「エレナさん、自分の手を見てください。」
彼女が手を見て、指輪に気づく。
「それはアンナさんが作ってくれた制御装置です。暴走時でも理性を保てるようになっています。」
「そう……もう怯えなくていいのね?」
「はい! アンナさんに見せて調整してもらえば、完全に安定します。」
僕は笑って手を差し出した。
「さ、帰りましょう。みんな心配してますよ。」
「……うん、帰ろう。」
二人は並んで洞窟を後にした。
エレナの過去が明らかになるぜひ読んでください次回もお楽しみに




