第30話 新たな地へフィルナ公国との出会い
フィルナ公国へ向かう日がやってきた。
馬車の中には、僕とアンシャ、それからエレナさんとライガ。
揺れる車輪の音を聞きながら、僕はふと気になっていたことを口にした。
「ねぇ、フィルナ公国ってどんな国なんですか?」
隣に座るエレナさんが微笑みながら答える。
「フィルナは農業がとても盛んな国よ。広大な農場があって、穀物の生産量はこの大陸でも上位ね」
「なるほど……もし外交を結べたら、食材の輸入とかもできそうですね」
「そうね。もしかしたら、今まで食べたことのない料理も味わえるかもよ?」
そんな話をしているうちに、馬車が止まった。
どうやら目的地に着いたようだ。
「着いたみたいね」
エレナさんの声にうながされ、僕たちは馬車を降りた。
目の前に広がるのは、整った街並みと、遠くまで続く黄金色の農地。
空気は澄み、どこか懐かしい香りがした。
「リュシア王はどこにいらっしゃるんですか?」
「案内するわ」
エレナさんの先導で進むと、立派なお城が見えてきた。
イリスさんの城ほどではないが、それでも十分に大きく威厳がある。
やがて大きな扉の前に着き、エレナさんがノックする。
「リュシアさん、エレナです。カイルさんからの使いで参りました」
「聞いてるよ。入っていいよ」
優しい声が中から響く。
扉を開けると、そこには金色の髪を持つ青年が椅子に腰かけていた。
柔らかな笑みを浮かべながら、僕たちを迎える。
「遠路はるばるありがとう。僕はリュシア。この国を治めてる者だよ。名前だけでも覚えて帰ってね」
物腰は柔らかく、どこか人懐っこい印象だった。
「いえ、こちらこそお招きありがとうございます。僕は蓮と申します」
「エレナです」
「ライガと申します」
「アンシャです。今日はよろしくお願いします」
僕たちは一斉に頭を下げた。
「いやいや、そんな堅苦しいのはなし。僕のことは気軽に“リュシア”って呼んでくれたらいいよ」
そう言って、彼はおどけたように笑う。
「実はね、外交の件は僕からもお願いしたいと思ってたんだ」
「えっ、そうなんですか?」
「うん。前の会議で君たちのことを見て、興味を持ったんだ。特にあの装置――君の魔法で動いてるんだろ? あれを見てね、すごく面白いと思った。だから、あの装置の量産化を手伝いたい」
「……! 本当ですか?」
「もちろん。うちの国でも新しい技術を取り入れたいしね」
その笑顔に、僕も自然と頷いた。
「わかりました。ぜひお願いします」
「それと、近いうちに僕も君たちの国に行くつもりだから、その時は案内してね」
「はい。しばらくはこの国に滞在していますので」
「了解。それじゃあ今日の話はそれくらいかな」
「はい。僕たちは外交の締結と、両国の交流を深めるよう言われています」
「なるほどね。だったら、君たちが滞在できる家を用意しておくよ」
そう言ってリュシアは、少し真剣な顔つきに変わった。
「……蓮くん、この後、君とライガくんだけ残ってくれないかな?」
「え? わかりました」
エレナさんとアンシャが部屋を出て行くと、リュシアが口を開いた。
「実はね、この国でも噂を聞いたんだ。君たちの国で、子どもを誘拐する連中が出たって」
「はい……アンシャが暮らしていた孤児院に、正体不明の男たちが押し入り、子どもたちを攫って火を放ったんです。まだ犯人は逃亡中で……」
「そっか。大変だったね」
リュシアの表情が、いつになく険しくなる。
「僕ね、子どもを傷つける奴だけは絶対に許せないんだ。――その調査、僕にも手伝わせてくれないかな?」
「えっ、いいんですか!?」
「もちろん。こっちでも警戒しておかないといけないしね。全力で協力するよ」
「ありがとうございます。本当に助かります!」
「じゃあまずは、この国でも何か手がかりがないか探ってみよう。明日、また来てくれる?」
「わかりました。明日また伺います」
「うん。それじゃあ次――ライガくん」
「はい?」
「君の力、見てみたいな。護衛として、どのくらい強いのか知っておきたい」
「……力を、見せる?」
「そう。僕と少し手合わせしよう」
その言葉にライガが頷く。
「わかりました。では、いきます!」
ライガが一気に距離を詰め、剣を振るう。
しかしリュシアは、まるで風のようにその全てを避けてみせた。
「ボディがお留守だよ、せいっ!」
軽く一撃を入れられ、ライガが後退する。
「この人……強い! 攻撃が全く当たらない……!」
「まだ終わりじゃないよね? 本気を見せてごらん」
「……わかりました。ヒートモード、発動!」
赤いオーラがライガの全身を包み、髪が燃えるような色に染まる。
「おお、すごいね。じゃあ僕も少し本気を出そうか」
構えをとる二人。
次の瞬間、ライガの姿がかき消えた。
目にも止まらぬ速さでリュシアへ斬りかかる。
「なかなかやるね……! なら、これでどうだ!」
リュシアが分身を生み出すが、ライガの一撃――
「レッドブラスト!!」
轟音とともに分身ごと吹き飛ばした。
「いてて……なるほど、よくわかった。もういいよ。――合格だ、ライガくん」
そう言って笑うリュシア。ライガは力を使い果たし、そのまま気を失った。
「ありがとうございました」
僕はライガを背負い、出口へ向かう。
「ありがとうね、蓮くん。また明日!」
リュシアの声に手を振って応え、僕たちは部屋を後にした。
その後、エレナさんとアンシャと合流し、用意された拠点へと向かう。
そこはのどかな自然に囲まれた一軒家だった。
「すごく良い場所だね」
「うん。しばらくはここを拠点にして、この国の人たちと交流していこう」
そう言うと、全員が頷いた。
こうして僕たちの新たな日々が、静かに始まったのだった。




