第26話 もう貴方は僕のことを覚えていない
26話書きました
アンシャと花屋に行ってから数日後、僕は何でも屋の仕事を再開した。
この五日間でとんでもない数の依頼が溜まっていて、思わず頭を抱える。
「ごめん、ライガ。五日間も休んだせいで依頼が山ほどある。手伝ってくれないか?」
「もちろんっすよ。兄貴の頼みですからね。ただし全部終わったら、飯奢ってくださいよ?」
ライガが笑いながら言うので、僕も笑い返した。
「任せろ。この前イリスさんに紹介してもらった店に行こう。」
「了解です! で、俺はどの依頼から?」
「この人の犬の散歩から頼む。終わったら次の紙を取っていって。」
そう言ってライガに数枚の依頼書を渡し、僕も外へ出た。
まずは草むしり、それからおばあちゃんの買い物代行……。
一つひとつ丁寧に片づけていくうちに、気づけば昼になっていた。
そして、ライガのおかげで全ての依頼を終えることができた。
「よし、約束どおり飯食べに行くか!」
そう言った瞬間――。
バタバタと足音を立てて、エレナさんが駆けてきた。
その顔は、明らかに焦りでいっぱいだった。
「どうしたんですか、エレナさん?」
「蓮……アンシャが……誰かに襲われたの。今、病院にいるわ!」
その言葉に、僕とライガは一瞬顔を見合わせ、全速力で病院へ向かった。
病室に入ると、ベッドの上で眠るアンシャの姿があった。
僕は彼女の手を握り、そっと声をかけた。
「アンシャ、起きてください……僕です、蓮です。」
すると、ゆっくりとまぶたが開く。
ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間――。
「あの……あなた、誰ですか?」
その一言で、心臓が締めつけられた。
昨日まで隣で笑っていた人が、僕のことを覚えていないなんて――。
「アンシャ……僕ですよ、蓮です!」
必死に呼びかけても、彼女の瞳は怯えたままだった。
現実を受け入れられず、膝から崩れ落ちる。
そこへアンナさんが入ってきた。
「蓮、久しぶりだね。ちょうど検査結果が出たところだよ。」
「アンシャの記憶は……どうなってるんですか?」
アンナさんは静かに答えた。
「何らかの“封印魔法”がかけられている。解くには――術者を気絶させるしかない。」
その言葉を聞いた瞬間、僕は立ち上がった。
「……やります。必ず取り戻します。」
病室に戻り、そっとアンシャに声をかけた。
「アンシャさん、自分の名前はわかりますか?」
「……アンシャ。私の名前はアンシャ。でも、どうして私の名前を……?」
怯えながら、僕を警戒するように後ずさる。
「来ないで! お願い、来ないで……!」
後ろで見ていたライガもエレナさんも、悲しい表情を浮かべていた。
それでも僕は、無理に笑ってみせた。
「僕は、孤児院の友達の代わりにお見舞いに来たんです。元気そうでよかった。」
するとアンシャは、少しだけ安心したように見えた。
その隙に魔力感知を使うと、頭のあたりから微かな魔力の反応を感じ取った。
(やっぱり……魔法の影響だ。)
「じゃあ、友達には元気にしてるって伝えておきますね。」
そう言って病室を出る。
ライガが心配そうに聞いてきた。
「大丈夫ですか、兄貴……?」
「……大丈夫って言ったら嘘になる。でも今は、それよりも魔力を追う方が先だ。」
感知した魔力は――アルシエル方面へ伸びていた。
僕はすぐにアイルさんへ報告した。
「了解だ。何人か兵を向かわせる。合流して捕まえてこい!」
その指示を受け、僕はライガとエレナさんに手を差し出した。
「二人とも、手を握って。」
不思議そうにしながらも、二人が手を取ったのを確認し、テレポートを発動した。
一瞬で景色が切り替わる。そこは――アルシエルの街。
「蓮……こんなことまでできるのね。」
「はい。瞬間移動の応用です。」
魔力を辿ると、行き着いたのは古びた研究所。
そこで感じた魔力は、確かにアンシャのものだった。
「ここだ……!」
拠点を突き止め、僕たちはイリスさんに頼んで数日泊まれる宿を確保した。
夜、作戦を立てていると、エレナさんが心配そうに話しかけてきた。
「蓮、本当に大丈夫? 無理はしないで。」
「……大丈夫じゃないですよ。」
気づけば、涙が一粒、床に落ちていた。
「昨日まで笑ってたのに……。ただそれだけなのに。
名前を呼んでも、もう覚えてもらえない。……悲しいですよ。」
エレナさんは何も言わず、そっと僕を抱きしめた。
そしてライガは黙って、夜通し見張りをしてくれた。
二人の優しさに包まれながら、僕は静かに目を閉じた――。
アンシャの記憶が取られましたさあアンシャの記憶はいかに次回もお楽しみに




