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Mission3:おじさん、新しい仲間ができる

「へえぇ、じゃあアリスはずっと1人で旅をしてるんだ。大したもんだな。」


手綱を持つ手に力を込めながら後ろに座るアリスに感心したように言う。

ゴブリン退治の後、同じくヘトの町を目指しているというアリスをお礼を兼ねて馬車に乗せてあげる事にした。

もちろん下心がない訳ではない。

1人で旅をしているよりこれだけ強い彼女が一緒ならどれほど心強いことか。戦闘能力が皆無な自分にとってこれ以上ない護衛である。


「そうだよ。まあ1人でも結構楽しいしね。何せ儲けた金は独り占め。」


そう言ってアリスは指で円を作りながら二ヒヒと笑う。


「でも冒険者なら1人よりパーティーを組んだ方が報酬の良い依頼を受けれるんじゃないのかい?」


冒険者は普段パーティーを組んで活動している。

その方が安全度も各段に違うしギルドもより高収入、つまり危険な依頼を任せてくれる。

冒険者をする時はパーティーを組むのはより大きな成功を掴むための基本であり必須であると言える。

デュナンが質問するとアリスの表情が難しくなる。


「...アタシは色々と理由があってね、仲間とは組まないでいるんだ。ちょっと探しているものがあって1人の方が都合がいいんだ...」


アリスの顔が見えないデュナンはその声色に含まれた何かに気づく事なく「そうなのかぁ」と呑気に答える。


「それよりさデュナン。」


今度はアリスが問いかける番だった。


「あんたこそなんで1人でこんな立派な馬車に乗って旅してるんだい? あんたカリオト商会の人間なんだろ? さっきの戦闘を見るにロクに戦闘もできないみたいなのに護衛もなしで。」


アリスに痛いところを突かれ「あはは......」と苦笑いをする。


「実はドナヘーラに新しくできる商会の支店に急遽飛ばされる事になってね。平たく言えば左遷ってやつなんだけどね。それで商会が用意してくれた馬車で1人旅をしながら向かっているところなんだ。」


ドナヘーラという言葉を聞いた瞬間、アリスの纏う空気が若干変わったのを今度は感じ取った。


「ドナヘーラ......なあデュナン、あんたドナヘーラについて何か噂を聞いた事があるかい? 例えば...人を殺めて逃げている男がいるとか。」


アリスの声は先ほどよりも低く真剣な響きを帯びていた。


「え、何それ!? そんな物騒なやつがドナヘーラにいるのか!?」


これから行くドナヘーラは辺境の地というイメージしかデュナンにはなかった。そんな物騒なやつがいるとなったら無事生きていけるのか、急に背筋が寒くなる。


「あはは、聞いた事がなければいいんだよ。ただの噂かもしれないしね。」

「噂とか言われてもなぁ......そんな話聞いたら怖くなっちまう。」


デュナンはまいったなぁと頭を搔く。

アリスはそんなデュナンを見てフフッと笑う。


しばらくすると馬車は森を抜け再び広大な草原地帯に出た。

地平線まで続く緑の絨毯の上を、街道が白いリボンのように伸びている。

このまま街道を進めば夕方にはヘトの街に着きそうだ。

とりあえず今日はそこで宿を取り、明日は次の町まで向かう。しかし、今回の件で1人で旅をするのは困難だと分かった。金はないけど護衛を雇った方がいいのか、デュナンの頭の中では悩みがぐるぐると回っていた。


「なあ、デュナン。」


少しの沈黙を破ったのはアリスだった。


「あんたドナヘーラに行くって言ってたよな。実はアタシも行先はドナヘーラなんだ。」

「そうなのか、奇遇だな。ドナヘーラまで行こうなんてアリスはハンターにでもなる気かい?」


ドナヘーラを囲む砂漠には強力なモンスターが出現する。

そんなモンスターを倒して賞金を稼ぐ事を生業としている者たちの事をハンターと呼ぶ。

確かにアリスほどの腕があればハンターになれるだろう。


「そんなんじゃないんだけどね、ちょっと探している人がいるのさ。」

「そっか。俺はドナヘーラについては辺境の地って事しか知らないんだけど、探している人が無事見つかればいいね。」

「ああ、それでよかったらあんたの馬車にドナヘーラまで乗せてくれないか?」


突然のアリスの提案に驚くデュナン。

確かにアリスほどの腕を持つ人間が一緒にいてくれれば旅の安全性は確保できるし有難い。

だが、アリスはさっき会ったばかりの人間だ。そんな人間を本当に信じていいのか。

咄嗟にデュナンはスキル-【五秒先の未来】(ゴールデンアイ)-を発動した。


デュナンの意識に5秒後の未来の光景が流れ込んでくる。

そこには表情を暗くして「乗り合いの話はなしだ。聞かなかったことにしてくれ。」と言うアリスの姿が見えた。


(なるほど、ここでアリスに理由を聞いたり躊躇ったら破談になるのか。ならばここは聞かない方がいいか。)


デュナンは多少の不信感を持ちながらも


「アリスが一緒に行ってくれるなら俺としても有難いよ。何せさっきも見た通り戦闘はまったくの苦手だからさ。」


と笑いながら答えた。

アリスはそれを聞くと「助かるよ! 乗せてもらえる分しっかり護衛はさせてもらうよ。」と笑顔で答える。

その純粋な笑顔に少しでも不信感をもった自分が嫌になる。

今まで商会で頑張ってきた時も自分の直感を信じた。その直感がアリスは悪い人間ではないと言っている。

デュナンは今回もその直感を信じる事にした。


――――――


陽が傾き草原が緑から黄金色へと装いを変える頃、馬車は最初の目的地ヘトの町に到着した。

人口は2000人ほどの小さな町だが街道の要衝に位置するため多くの旅人や冒険者達で活気に満ちている。

デュナンは何度か仕事でこの町には来たことがある。

慣れた手つきで馬車を走らせると1軒の建物の前で止まった。


「今日はここで休もうか。ここ、俺がルナラムから来た時によく使う宿屋なんだ。」

「へえ、なかなかいい宿屋じゃないか。さすが商会ご用達の店ってか。」


アリスは外していた大剣を背負い直すと馬車を降りる。

デュナンは馬車を建物の裏に止めてくると2人は店の中に入った。


「あら、デュナンじゃないか。今日も仕事で来たのかい?」


中に入ると恰幅のいいおかみさんがデュナンに声をかける。


「ああ......まあそんな感じだけど今回はちょっと遠くまで行くんだ。部屋2つ借りたいんだけど空いてるかい?」

「あれま、大変だね。部屋ならいつものところとその隣が空いてるよ。ご飯も食べるんだろ?」

「ああ、部屋に行って荷物を降ろしたらすぐに食堂に行くよ。アリスもそれでいいかい?」

「アタシもそれで構わないよ。」


アリスの姿を見ておかみがデュナンの耳元で囁く。


「こんなきれいなお姉さん連れて、本当に2部屋でいいのかい?」

「そんなんじゃないよ、彼女は護衛だ。別にそんな関係じゃない。」


デュナンが小声で返すと、おかみは肩をすくめた。よっぽどデュナンが女を連れてきた事が嬉しかったのだろうか。

2人は部屋の鍵を貰うと2階に上がる。


「俺はこっち。アリスは隣の部屋を使ってくれ。」

「分かった。これちなみに部屋代っていくらなんだ?」

「気にしないでくれ。全部商会持ちだから。」


アリスはそれを聞くと「そうか」と嬉しそうに答える。旅を続けていると言っていたから、こんな普通の宿屋に泊まる事すら久しぶりなのだろうか。

デュナンは荷物を降ろして着替えをし少し休んだ後に部屋を出る。

ちょうどアリスも部屋を出てきたところだった。鎧を外し、その綺麗な赤髪を解いた彼女はとても美しい。あんな大剣を振り回しているのが嘘のようだ。

思わず見とれてしまったデュナンにアリスが声をかける。


「デュナン、どうした? アタシに何かついてるか?」

「い、いや......なんでもないんだ。」


慌ててデュナンは反対側を向くと「ご飯を食べに行こうか」と歩き出す。

2人は下に降りるといつもの豪勢な夕食に舌鼓を打った。

ここのおかみ特製の料理はいつ食べてもうまい。これがしばらく食べれなくなるのかと思うとデュナンは悲しくなる。

見るとアリスも目を輝かせて夢中になって料理を食べている。

知り合った人間に気に入ってもらえるとやはり嬉しいものはある。


夕食を食べ終えると2人はそれぞれの部屋へと戻った。

デュナンはベッドに横になると今日の事を色々考える。

旅の始まり、森で遭遇したゴブリンの群れ、格好よく助けてくれたアリス。

次第にデュナンの瞼は重くなり、いつしか眠りについてしまった。


―――――


ヘトの町の喧騒もすっかりと収まり、深い静寂が支配する深夜。

宿屋の二階の廊下で、一つの部屋の扉が、音もなくそっと開いた。

中から現れたのは、再び髪をきつく束ね、軽装鎧と大剣を身に着けたアリスだった。

彼女は猫のようなしなやかな足取りで階段を静かに降りると、誰にも気づかれることなく、宿の裏口から夜の闇の中へと姿を消したのだった。

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