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第5話

 全ては夢だったのかもしれない。

 バッグに残っていた惚れ薬のパッケージと筒は駅のゴミ箱に捨てた。惚れ薬はまだ残っていたが、見直すと針が根本から折れ曲がっていて、もう使えそうにはなかった。電車に揺られて家に辿り着き、着替える頃には気持ちが少し落ち着いていた。

 どれだけ探してもあんな店はなかったし、怪しい薬も手元にない。今のところ何のリアクションもない。元々遠野との繋がりなんてないけど。少なくとも、入学の時に入ったクラスLINEには何も流れてこない。まあ、これも事務連絡くらいしか流れてこないけど。今日のアレが、自分が現実に行ったことだとは思えない。あんな──。

 サックスブルーのシャツから伸びた遠野の腕。白くて細くて、少し冷たかった。押さえ込んだ時のもがく力。階段の先を行く遠野の不安そうな顔。逃げた時の、怪我をした獣のような目。

 あれの全部が夢のわけがない。

 どんなに現実逃避しようとしても、何度も蘇る。あの時にぶつけたのか、膝に痣ができている。俺の体に刻まれた証拠。なんであんなことができたんだろう。何度も何度も、同じ問いを繰り返す。今までまともに喧嘩をしたこともない。誰かに暴力を振るうなんて初めてだ。それなのに、どこか冷静に、遠野を襲っている俺がいた。誘い出し、捕まえて、薬を打つ。振り返れば異常すぎる行動に自分でも恐怖しか感じられない。それこそ何か変な薬でも打たれてたんじゃないかというくらい、自分の行動が分からない。あんな怪しい女の、あんな得体の知れない薬を、なんで使う気になったんだろう。彼女が欲しいからなんていうしょうもない理由で、平気で遠野を傷付けた自分が気持ち悪い。店でサンプルを見せられた時、あの変な薬をちょっと吸ってたとか?それで俺もおかしくなってた?

 ……そもそもあれって、本当に惚れ薬なのか?

 惚れ薬だとあの女が言っていただけで、何かで効果を試したわけではない。パッケージに何か書いてあったけど、写真を撮って翻訳にかけても該当の言語がないとかで意味は分からなかった。どこにも惚れ薬だなんて証拠はない。むしろヤバい薬の可能性の方が高くないか?何か麻薬とか。

 毒、とか。

 すーっと血が引くのが自分でも分かった。もしもあれが、命を奪うような毒だったら。学校の人目につかない所で1人うずくまり冷たくなっている遠野を想像してしまい、慌てて頭を振る。視界がぐるぐるする。口の中がネバネバして気持ち悪い。震える指でニュースサイトを開くが、女子高校生が死亡、みたいな記事は見当たらない。何度も何度もリロードして、SNSも確認する。【女子高生】【行方不明】【不審死】。不穏なキーワードで検索を繰り返すが、遠野に該当しそうな情報は出てこない。クラスLINEグループの遠野のアイコン。友だち登録すらしていないそれに触れようとしては指を引っ込める。

 とっくに日付は変わっていたが、全く眠くなんてならなかった。ベッドの上でただひたすらスマホの画面を見つめているうちに、カーテンの向こうは白々しく明るくなっていった。

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