禁じ手
「かなり耐えたな。どうする?これでも続けるか?」
いや、まだ終わらない。ソフィアは戦略をたてる時、常に裏の裏まで見ていた。俺も、剣士にただの弓で戦うほど無策ではない。
「解放」
朱雀の後ろに突き立っている矢、飛ばしたのは魔力だけではない。カード化したインフェルノも共に。
炎が朱雀、と俺に迫る。彼女は横に飛び退き、残った炎は俺に向かう。それに向かって手を伸ばし、スキルを使う。吸い込み終わった炎は一枚のカードに変わった。
「とんでもない能力だな」
と、思わず朱雀がぼやく。さらに彼女の圧が重くなった。
ヤバい、何か来る。そう直感した俺は防御魔法を全面展開する。
そのかいもなく、次の瞬間、防御魔法は粉々に砕けちり、俺は地面に膝をついていた。足が痺れていて、まともに動かない。たぶん刀の峰で叩かれたのだろう。
しかもこの状況下で魔力はほとんど残っていない。もう防御魔法は展開できない。カード化もできない。
視界の端で刀を構え直す朱雀が見えた。死の恐怖が、俺を正常な判断から遠ざける。
使ってはいけない。そう分かっていたはずなのに、気づいたらそのカードを投げていた。
「解放」
それは、膨大な量の水へと変わる。手のひらサイズのものから瞬時に戻ったことで発生した衝撃波が、俺を吹き飛ばし、少し遅れて水が迫ってくる。俺は目を閉じた。
だが、ゴオォォという音がするばかりで、俺まで水は流れてこない。
目を開けると、朱雀が俺をかばうように立っている。その両手から吹き出す豪炎が、水をせき止め、蒸発させてゆく。
「面倒なことをしてくれたな、バカが。だが、お前の一撃、確かに受けた。お前の勝ちだよ。私に魔法を使わせるとはな」
彼女の言葉にはっとする。その手の豪炎で乾いてきてはいるが、確かに彼女の服は水がついていた。
彼女の炎で、見る間に水の塊は小さくなり、最終的には一粒残らずなくなった。
俺の頭に、大粒の雨が振りかかる。
バケツをひっくり返したような雨のなか、朱雀がイラついたように言った、すまない、が聞こえるより前に、俺は疲れて寝てしまっていた。
「感心はできないが、面白いやつだな」
朱雀の口からそんな言葉がもれる。
自身の強さのために川をひとつ枯らすという暴挙に出るのはなかなかだ。
だが惜しい。罪人でなければ弟子にとったのに。けして異常に強いわけではない。
それでもこの若さで自分のスキルを理解し、荒削りと言えど策を用いて戦いに赴く。成長すればあいつと同じくらいになるかもしれない。
「少し刑を軽くしてもらうか」
エバンを担ぎ、歩きだした朱雀はそうひとりごつ。
「おい、待て朱雀。僕の報告を聞くつもりが無いのか」
かけられた声、彼女は嫌そうに振り返る。オーバーコートに真四角のメガネをかけた長身の男が無表情に立っていた。
「無視しようと思ったんだけどな。また何か面倒事を持ってきたんだろう。青龍シリウス」