冒険者ギルド「天奏」
「え、、、」
「だから!全然そのスキルチートだって話!」
やはり信じられず、二回、は?と繰り返したのだが、ともかくこんな沈んだ気持ちのまま街を出る気力の無い俺は、一か月間ソフィアと一緒にスキルの研究をすることになった。
毎日毎日、山小屋にこもり、スキルに関しての魔力制御や概念の確認をする。スキルの詳細が解っていくのも楽しかったが、それよりもソフィアと過ごす時間が嬉しかった。
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籠手をはめ、ジャケットに袖を通す。親が餞別としてくれた着服系の魔道具は、サイズがピッタリだった。
「いってきます」
「はーい。暇あったら帰ってきなさいよ」
「はいはい。わかったよ」
いつもはおせっかいに感じていた母の言葉が、今日だけは何故か、心地よく思えた。
街馬車に乗り目指すのは、城塞都市ジブラルタル。首都に入るための主要な山道を管理する重要な都市だ。
なぜここなのか。それはここに、俺の初めて知ったギルドの拠点があるからだ。俺の父さんが所属していたギルドでもある。
仕事の都合でほとんど家に戻って来ない彼の部屋を掃除していたときに折れ曲がった名刺があり、そこに、ジブラルタルと、ギルドの名が書かれていた。
その名を「天奏」と言う。
はっきり言おう、ダッサい。けど、それよりも父さんについて知りたいという気持ちの方が勝った。それに、父さんと知り合いなら待遇も悪くないかも、という下心もある。
馬車に乗り続けること約半日。暮れかかってゆく陽に照らされたのは、急勾配な山並みの麓に建てられた長大な城壁と、山頂近くまで家の立ち並ぶ巨大な都市だった。
「すごい、、、街一周するの何時間かかるんだこれ、、、」
あれ、、、ていうか拠点ってどこにあるんだ?こんなに広いと思ってなかったからなぁ、、、門番に聞くか。
「あの、すいません」
「なんだ?」
「冒険者ギルド「天奏」の拠点ってどこですか?」
「あそこか、、あれは山頂にある」
、、、は?
「あとひとつ。これは衛兵ではなく一人の人間として忠告する。あのギルドはやめておけ」
「、、、何でですか?」
「いや、なんでもない。さあ、市民証の確認が取れた。さっきの言葉は忘れてくれ。入っていいぞ。諦めるなよ」
促されるまま、街に入る。衛兵の言葉が脳裏によぎり、不安になるが、そもそも今夜中につけるだろうか。
15分後、、、やはり俺は迷子になっていた。まだ開いている店に何度も道順を聞くのだが、いりくみ、複雑な迷路のようになった路地に俺は立ち尽くすしかなかった。
「おい。どこに行こうとしている?もしかして拠点か?」
「えっ、そうです」
唐突に声がかかり、振り返ると、そこにはエルフ耳の、誰が見ても綺麗な女性が立っていた。
だが、俺が驚いたのはそこではない。声をかけられるまで気付かなかったのに、目を合わせた瞬間、その圧倒的な威圧感に動けなくなった。
一体なんなんだ、この人は?
「ついてこい。案内する」
そう言うと彼女は消えた。
突然のことに、ただ辺りを見回す俺へ厳しい声がかかる。
「何をモタモタしてる、上だ」
屋根の上か!、、、6、7メートルはあるぞ。ひと飛びでそれだけの距離を、、、!
「早くしろウスノロ」
「でっでも、」
「上がれないならおいてくぞ」
「わかりましたよ。上がればいいんでしょう上がれば」
ポケットから一枚カードを取り出し、屋根に投げる。屋根にかさるか、かさらないかのところで、
「解放」
カードが鉤付きの縄ばしごに変化し、屋根に引っ掛かる。それを上るともう、彼女は屋根をつたって遠くにいる。
大きな不安を胸に抱えながらも俺は急いで後を追うのだった。