異能
ニネヴェの拳をかわすため、シリウスはジャンプする。空中では自由が効かない。本来ならもっとも悪手だが、、、
こいつ空を、、、!とニネヴェが驚く。彼は何もない宙を足場にして二段三段と跳び上がると、
空に立った。
そうとしか言いようが無いのだ。シリウスの足は燃え上がっていた。ジェットのようにして浮いているわけでもなく、ただ足が燃えていて、空中に立っている。
こいつ最初の冷気でのカウンターといい、これといい、、、本当にニンゲンなのか?ニネヴェはもはやそこを疑っていた。特に初めのは下手をすれば自分が凍りつくため非常に高度な魔力操作が必要になる。
だが、彼の知っている社会的動物の中でーニンゲン、エルフ、ドワーフなどだ、の中でシリウスはニンゲン以外当てはめようがなかった。
「闘気<赤燐>、拳気<黒爪>」
ともかくこいつは放っておいたらどんどん強くなる。直感だがニネヴェはそう感じた。ここで殺る。なぶり殺しにする余裕はない。
「ターボアイスレイン」
シリウスの背後から魔方陣が現れ、細めの氷柱が雨のように降り注ぐ。だが高密度の闘気を身に纏ったニネヴェには傷ひとつ付けられず、付与された冷却も有って無いようなもの。
「仕留める。呪じゅ、、、」
「絶対零度」
ニネヴェが仕掛けようとした時、一陣の風と共に冷気が辺りに満ちた。彼の全身がたちまち凍りつく。
「ん?、、、バカな」
だがニネヴェは死んでいなかった。バキバキと自身を覆っている氷を割ると、肩で息をしながらも拳を構える。
「呪術、魔封じ、、、八艘跳びっ!」
魔力を足場に飛び上がり、彼は拳を遮るものの無いシリウスの頭に叩き込む。圧倒的威力のそれは頭半分を吹き飛ばし、肉塊となった残りを地に落とした。
地面に降り立ったニネヴェは堪えきれず膝をつく。口から血がこぼれた。今さらのように寒さが体に染みる、、、そこで彼は身震いした。寒さのためではない。言いようの無い恐怖が彼を捉えた。
なぜまだ寒いのだ。
「呪術は代償として身体へのダメージがある。君はもう何もできないはずだ」
シリウスが喋っている。頭はいつの間にか再生していた。目の前の情景が信じられずにいるニネヴェに彼は淡々と喋り続ける。
「条件を満たした。僕が今使うのは魔法ではない。僕は今とんでもなく不快だから。最高火力で殺してやるよ」
いつの間にか月は雲に陰り、雪も降り始めた。彼はもうシリウスを見つめることしかできなかった。
負けるのか、、、俺が。魔力も目に見えない、魔方式もろくに作れないから属性という小手先の技術を使う、ニンゲンに。寿命も短く、スキルなどという神からの寵愛だけを糧に発展してきた下等種族に。
「スキル<ーーーーーー>」
ニネヴェの知っているどの言語でもない。この世のものとは思えない発音がシリウスの口からもれる。
イタクァ、彼が聞き取れた単語はそれだけだった。
上空の吹雪く雲から深淵が開く。ニネヴェは見てしまった。そこから地を覗く深紅の瞳。
白き沈黙の大神は、その両腕を伸ばしシリウスの捧げた供物を掴んだ。
天に昇られていくニネヴェは、口まで凍りついてやっとさっきから聴こえていた雑音が、自分の叫び声であると知る。もはや指すら動かせないまま、彼は底無しの恐怖に飲み込まれていった。
----------
エバンとシェニー、ユキメが来たのは全てが終わった跡だった。
「あの魔族は?」
「捧げた」
エバンには何のことか分からないが、2人は了解したように頷いている。
「、、、お前、天秤の異能使ったろ。だいぶ苦戦したんじゃないか?」
「ああ、、、疲れたよ」
シェニーの問いにそう言ってシリウスは座り込んだ。
「大方天秤で魔力切れだろ。おぶってくか?」
と、シェニーが柄にもないことを言う。それを聞いてやっと、全てが片付いたことを悟った俺に疲れが降りかかる。
「シェニーさん、、、俺もおぶってくれません?」
「いいぞ」
「相変わらずとんでもない力だな」
「誰が筋肉ダルマだ、置いてくぞ」
「、、、言ってねえよそんなこと」
そのやり取りにユキメがくすくすと笑う。4人は、ギルドへ足を向けた。




