魔族と計画
第11話 魔族と計画
魔族___成長するにつれ大きくなる角が特徴でヒトより長い年月を生きる亜人類。気性が荒く、長い間人類の国と戦争を続けていて、今は国境の接する西域を半分に共同統治し、休戦している。
教科書に書いてあった言葉が蘇る。なぜここにいるんだ?西域はおろかここは帝都の近くだ。
「とりひき、しない?」
少女が、怯えのなかにも意思を持った目で話しかける。彼女が懐から取り出したのは、トルクアップルだった。光の環で二重に封印し、新鮮な状態を保っている。
魔族の取引、信用はできない。だが、依頼ということでなく、怪我をした身にとって、それは喉から手が出るほどほしい。
「どんな取引だ?」
「このりんごをわたすから、たべものと水をちょうだい」
あまりにも普通すぎる取引。裏があると見た方がいいが、それを断れるほどの気力は残っていない。少し考えて、俺は取引を了承した。
「それで良いなら、取引しよう。俺もトルクアップルは欲しい。『解放』。でも、」
俺は携帯食料のクッキーと、水筒を顕現させる。
「1つ条件がある。同時に渡そう。」
「わかった」
思いの外すぐに了承してくれた彼女に驚きながらも、取引で、俺の手には解呪されたトルクアップルが、少女の手にはクラッカーと水がわたる。
躊躇せず、リンゴにかぶり付いた。甘く、少し涼やかな味が口に広がる。痛みが退いていく。疲れは取れないが気が楽になって、俺は少女に話しかけた。
「ごめんね、クラッカーみたいなのしかなくて。ほんとはもうちょっといいものを渡したかったんだけど、、、」
彼女は涙を流しながらクラッカーを食べていた。
どんな生活をしてきたのだろうか。その弱々しい姿は、気性が荒い、という言葉とは到底結び付かない。
「もう一個いるかい?」
「うん、、、っかくれて!」
少女の一言に、魔力を極限まで抑えて茂みに飛び込む。俺もすぐに気づいた。ひりついた気配が一帯を支配する。俺を助けてくれた老木が、身震いするように枝を揺らす。
一瞬の後、彼女の前にはひとりの魔族がいた。高貴な服を着た男。彼は躊躇無く、少女を蹴り飛ばした。その時はじめて俺は、彼女の首に魔法封じのリングがかかっていることに気づく。
「ユキメ、誰が勝手に外へ出ていいと言った?」
「だれも、、、おゆるしください、ニネヴェさま」
「お前らはただ、地下道を掘り続けていればいいのだ。それ以外のことは考えるな」
地下道、なんの話だ。助けるにも、逃げて報告するにも、動くことはできない。少しでも動けばあの魔族に見つかる。
「リンゴは腐るほどあるが、お前のような反抗的な奴がいると作業が進まん。どうせ使い捨てだ。ここで死ね」
倒れこんでいるユキメに拳が落ちる。俺は後先考えずに動いていた。炎をロケットブースターのように使い、彼女を間一髪で抱き寄せる。
「お前、ふざけるなよ。抵抗できない相手を一方的に痛め付けるな!」
男を睨み付ける。ニネヴェと呼ばれた彼はすましたように立っているだけ。少しして口を開いた。
「ニンゲンか。格好からして迷いこんできただけのようだが、死んで貰う。我らの計画、邪魔されるわけにはいかない。」
その時、俺のなかでひとつの考えが浮かぶ。計画、地下道、見つからないトルクアップル、トルクアップルとは違う光源、魔封じの首輪。
そして魔族の統治する西国と、この森、崩落した川底の地理的関係。ひとつの結論は俺をがく然とさせる。
西国からここまで、手作業でトンネルを作って帝都に攻めこむつもりなのだ。そのために、彼女のような者たちがろくに食事も与えられず回復のリンゴのみで働かされている。
「っ、そういうことか」
腕のなかでぐったりしている少女に目をやる。彼女をおいて逃げることはできない。そう思った。
「案外すぐ気づいたな。天上で見ているがいい。お前の故郷が朱に沈むのを。そしてユキメ。お前の穢れた血も、この穢れた土地に染み込むだろうよ」
「穢れた血、、、?」
一瞬の疑問。その隙をニネヴェは見逃さなかった。まっすぐに伸ばされた腕が俺を貫かんと迫ってくる。




