リンゴと少女
〔トルクアップル···暴乱樹になる実。魔法薬の材料となる。夜になると光を放ち、普通のリンゴと見分けがつく。強効力の回復ポーションの材料となり、新鮮であれば高値で売れる。ポーションにするよりも新鮮な果汁のほうが回復能力は高いが、あまりにも保存がきかないため携帯は難しい。その場でポーションにするのが一番だが、それができない場合急速冷凍して運ぶのが現実的である。〕
〔暴乱樹···メイトンとも言う。トルクアップルのなる木で、希少性が高くこの国ではジブラルタル周辺でのみ生息する。樹木としては特異で、感覚細胞と筋細胞、伸縮する樹皮を持ち、枝を切る、根を踏むなどの痛みを与えるとその長い枝を鞭のように使い、対象を攻撃する。植物にも関わらずこのように動物的な動きをすることから、神話や童話で神から罰を与えられた人間として取り扱われることがある〕
すっごい面倒くさい依頼だったぽいな、これ、、、辞典を閉じた俺は木陰にもたれる。とりあえず効率よく見つけるには夜まで待つか、、、その間に準備でもしていこう。
ナイフ一本と脚立一組、保冷バッグ。これはトルクアップルを取るためのもの。そしてサバイバルキットになりそうなもの一式をカード化してポケットに入れる。
ざっとこんな感じ。あと、森だとゴブリンがいるかもしれないので炎系統の魔法もカードに仕込んでおく。
冷凍できる魔法は習得していないので保冷バッグにした。どのくらい保存が効くかわからないが無いよりましだろう。
月がすっかり昇った夜に、出発した。森へはいっていったのだが、現れるのは小動物やフクロウなどで、驚くことにゴブリンはいない。
そして、トルクアップルも見つからない。どうしたものか。危険ではあるが木に登って確かめることにする。一度根を蹴って、暴乱樹でないことを確認し、上に登る。
「げっ、案外奥に行かないとないな」
森には光が点在しているが、そのどれも、森の奥のほうにある。とりあえず木の上で見た方向をもとに進むのだが、一向に光っている実は見つからない。
さらに奥に進もうと、道なき道に足を踏み入れた瞬間、木の根に足が引っかかった。そう思ったが、足に感じたのはもっと違う___沈みこんで行く感触だった。
まずい、、そう思うのと木がざわめくのが一緒だった。しなる枝が四方八方から俺を叩き潰しにかかる。
防御魔法を張り巡らすのはコスパが悪い。本体を叩くことに決めた俺はカードを2、3枚投げる。
「解放」
インフェルノが木を焼き、攻撃の手が一瞬止まる。だが、数秒ののち、木は動き始めた。その幹には、ひとつの焦げあともついていない。
「嘘だろ、、、」
しなる枝をかわし、次のカードを取り出そうとした俺は、横から風を切る音に目を向ける。何本もの枝を合わせ、棍棒のようになったものが迫ってくる。
防御魔法を展開する。ものすごい音と共に棍棒がぶつかったそれは、あっさりと打ち破られた。
宙に浮くなどと言う感覚なんてない。打たれた衝撃で、身体中の感覚が麻痺している。どこをどう転がったのかもわからない。突然視界が茶色でいっぱいになって、そこで何も分からなくなった。
木の幹にぶつかった俺は、柿のようなものが頭に落ちてきた衝撃で目を覚ました。血液とは違うものがあごをつたって服につく。少し光っている。
、、まさか? 頭から取りあげたそれは確かに光るリンゴのようだった。だが、木の上から見たような強い光ではない。しかも、ひび割れたそれはどんどん腐食して崩れていく。
こんなにも保存が効かないとは、そう驚くと同時に、俺は気づく。トルクアップルが上から落ちてくるってことはこの木、、、
だが、木は何かに堪えるように枝を震わせているだけだった。それの幹は、中が朽ちてもう永くないことを物語っている。
「ありがとう。こんななのに、俺を助けてくれて」
その木の痛々しさが、なんだかかわいそうになってきて、声をかけた後、俺は気を抜けば砕けそうな体を引きずって立ち上がった。
「、、、ねっねえ、だいじょうぶ?」
声をかけられるまで気づかなかった。霞む目をこらしてみると、声の主は怯えたように目をそらした。
ぼろきれの服をまとい、痩せ細った体。こっちが大丈夫かと聞きたくなるような少女が立っている。だがもっとも目を引くのはその頭。まだ小さいながらも角が見てとれる。
魔族だ。俺は目を見張る。なぜこんな所にいる。




