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プラトン解説

 プラトンは、ソクラテスの弟子の一人。ソクラテスの死後、かの賢人の言葉や教え、さまざまなエピソードの多くを、書物にしてまとめた人物となります。それだけではありません。アカデメイア……プラトンが積極的に出資して作った、学院のような物をいくつも作り、自らの教えを広めたのです。

 その思想の代表が『イデア論』――専門用語でグダグダ並べ立ててもアレなので、これまた超ざっくり例えます。

 これね……『マトリックス』って映画の世界観が、かなり近いのです。あるいはあの作品が、イデア論を参考にした可能性もありますが……

 あの作品の世界観は未来ですが、ざっと解説するとこんな感じです。人類が『今この世界に生きている』と言うのは思い込みで、実は本当の現実がある。主人公が仮想現実から目覚めて真実を目にすると、地球はマシーンに支配されていた……こんな感じ。


 えー……一体どこが似ているのか? と思ったでしょう。SFと古代ギリシャでは、まるで世界観が違う……と。

 大事なのは機械云々ではなく――『今自分たちが生きている世界は、真実の世界ではない』この発想です。プラトンの『イデア論』によれば……上層世界こそが『イデア』であり、今私たちが生きているこの世界は、上の世界から降りて来ただけのまがい物だと。

 何故この発想に至ったのか? 一般的には『ソクラテスの知識を発展させたものだ』と言われています。ソクラテスの論によれば、現実の知識や知恵について、こう解釈をしていたと。


「この世の知識や知恵を突き詰めていくと、どこかで必ず『分からない』に行き着く。様々な知識や法則を見つけた所で、その根源は『分からない』のだ」と。

 ――この『根源』が存在する世界が『この世ではない』と、プラトンは考えたようです。上層世界たる『イデア世界』にこそ、すべてのきっかけや根源がある。この世は『イデア世界』をベースにした影のような物であり、この世界は偽りや虚ろなようなモノだと……

 この上層『イデア世界』は、善と美の世界だと仮説を立てているようです。そして真に善行と知恵を得る事で『哲学王』となり、上層に行き着く方法を発見し、すべての人を導くと……こうした思想を主張していたと。

 現代でさえ『マトリックス』の世界観『この世界は現実ではない』『本当の世界や現実は別にある』は『まぁ、そういう事もあるかもなぁ』ぐらいの説です。現代でも本気で信じて広めていたら、白い目で見られかねないでしょう。作り話としてなら良いのですが、少なくてもプラトンは本気だったと見られます。それも、古代ギリシャで。


 過激思想扱いも残念ながら当然。それでも知識や学園を運営した実績から、プラトンは病院や刑務所にブチ込まれたりは無かったようです。少なくても……学園に入った人々に対しては誠実だった。そしてプラトンの師であるソクラテスについても、熱心に記録を残し、無数の本を執筆しています。現代に『ソクラテス』の史跡が残っている最大の要因は、プラトンの活動が大きいでしょう。

 さて……ここから作者の考察に入ります。それことちょっと『トンデモ』なので、話半分に聞いて下さい。何故プラトンは、このような極端な思想を掲げたのか? そして作者から見たプラトンの心象風景はどうなのか……


 結論から申し上げましょう。プラトンの心象の底には『現実に対する途方もない憎悪と絶望がある』と考えます。だから……見るに値しない現実を否定して『一つ上の世界』を発見してしまった……作者はそう考えます。何故か? それはプラトン著作の一つ――『ソクラテス弁明』を読んで、凄まじい違和感を覚えたからです。

 この作品は『ソクラテスが裁判の際、どのように弁明したか?』を、プラトンが編纂した物です。前回の解説で『ソクラテスが不当な裁判で死刑を食らった』時の事ですね。

 当時の裁判と、現在の裁判の形式は色々と異なります。作者の理解ですが……どうもソクラテスは被告人であると同時に、弁護士でもあったようです。

 ですがこの本、読んでいて強い違和感を覚えたのです。その部分とは……『裁判中ソクラテスが永遠と喋っている』って所なのですよ。


 現代と法や形式が異なるので、裁判のやり方が全く同じではありません。が、順当に考えて『被告人・弁護士だけが永遠と話している』状況はおかしい。弁解の場であったとしても……しばらく本人が話した後、質疑応答があると思うのです。流れとしてはこんな感じ。


 ソクラテスがしばらく弁明し、一区切りつく→裁判官に該当する人間がソクラテスに質問(あるいは尋問や詰問)を行う→それに対してソクラテスが答える、弁明する→一通り終わったらまた、別の質問をする。


 裁判の形態が違うとはいえ、こうした問答があったと考えられます。ましてやこの裁判は『ソクラテスを死刑にする事』を目的とした裁判です。ソクラテスから失言を引き出そうと悪意ある質問や、意地悪な問いかけがあった事も想像できます。

 が、プラトン著作の『ソクラテスの弁明』の内容はこうです。


 一定の事柄についてソクラテスが弁明する→一区切りついたかと思えば、ソクラテスが『諸君、しかし君たちはこう思わなかっただろうか?』と言い、疑問や質問を自ら提示する→それについてソクラテスが答える→話題に一区切りついたかと思えば『諸君、しかし君たちはこう思わなかっただろうか』……以下繰り返しと言った感じです。


 前提を考えると、この展開は明らかにおかしい。裁判である以上、ずっと一方的に弁解だけを続けるのは違和感があります。実際の裁判では、質疑応答の形だったのではないでしょうか? これがプラトン著作の事を考えると……プラトンによる改変が行われたのではないか? と感じるのです。

 この改変による印象の変化、プラトンの意図としては『ソクラテスをより超人として演出する』ではないでしょうか?『ソクラテスはまるで人々の疑問を、その優れた英知によってこど如く先読みした』ように演出したかった……そんなプラトンの意図を感じるのです。


 ではなぜ? ソクラテスへの敬愛が行き過ぎたのだろうか? それも一要素だと思いますが、一番の要素は『現実の人々に対する失望と絶望』ではないかと。

 何に絶望したのか? この裁判も一つの原因です。当時の裁判は、民衆全員の投票によって決められる物でした。僅差とはいえ有罪を言い渡されたソクラテスは……民衆によって殺害されたとも解釈できるでしょう。扇動者がいた事も事実ですが、最後に『ソクラテスの死』を望んだのは、間違いなく個々人の判断であり、清き一票です。

 ならば……プラトンが『ソクラテス死すべし』と票を投じた人に対し、憎しみを抱かずにいられるでしょうか? 後に『不正な裁判を決行した文化人たちは、裁判もなしに処刑される事が決まりました』が……恐らくプラトンは、それで満足しなかった。作者が想像する心象はこうです。


『後々に過ちに気づいて、不届き者を処刑するのはまぁいい。が、本当に正しさがあるのなら、人に知恵があるのなら、何故ソクラテスを殺してしまう前に、人々は気が付けなかったのか……何よりソクラテスは無償で、人々に知恵を授けていたのに、どうして誰も知恵を使えなかったのだ?』


 ソクラテスは無償で、自分の知について語り、より善く生きようとしていました。『無知の知』の発見方法や知恵を、貧富や立場の差も関係なく、教えていたと。

 恐らくこれがマズかった。

 ソクラテスは良くも悪くも、人の感情に疎かった。彼の論法は……ソクラテス自身は『より良い知恵と、より善い生き方の為』に発見し、用いていたのでしょう。少なくても彼が潔く死んだ事は、確定しています。ソクラテスの論法は『結果として』知識人の無知を暴いてしまったのであって、誹謗中傷の意図はなかった。

 ですが……ソクラテスに教えを乞う人間の中には、こういう人間がいたのでしょう。彼の『無知の知』についての問いかけや論法を……知恵を深める為に使うのではなく、著名人や学者から無知を引き出し、馬鹿にして、愉悦に浸る為に用いた人間が。


 愚者に知恵を授けても、愚者は知恵を凶器に用いてしまった。愚から脱するために与えた者を、自らの愉悦と娯楽、そして他者を中傷するために使ってしまった。

 ――ソクラテスが糾弾された罪状に『若者に悪しき教えを広めた』と言う項目があります。これが……『ソクラテスは若者に自分の論法を授けたが、若者は論法を誹謗中傷に使ってしまった』痕跡ではないでしょうか。

 そんな現実に、プラトンは絶望した。ソクラテスは人々を愛し、善かれと思い活動したが……その活動の意思と意図なんて、授かった側は全く考えない。ソクラテスが語るような、美しい生き方にこだわる人間なんて、この世界にはいなかった……


 その絶望が、この世界を現実であることを拒絶した。そのための理論を、プラトンは組み立ててしまった。

 ですが、すべての人間に絶望した訳では無かったのでしょう。『自分から愚を脱する気のある人間』は、学園に招いて知恵を深めようとはした。

 そんな中で、彼の学院で予想外の生徒が現れます。

 アリストテレス……プラトンの弟子にして、彼を否定するかのように、おおよそ真逆の理論を組み立て、何度もプラトンにぶつけた人物が。

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