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ソクラテス解説

 ソクラテスの史跡には、不明瞭な点が多い。何故なら……ソクラテスは何一つ、著書を残していないからだ。そのためかの人物については……ソクラテスの弟子が書き残した物を、参照するしかない。現代に残るかの人物像は……一度第三者の目を通した物なのだ。

 その多くは……後の哲学者、プラトンによって書かれた物が多い。なので実は……かの人物の主観に偏った物ではないか? と疑問が残る点もある。しかし同時に、他の人物と完全に合致している部分もあるので、全く信憑性が無い訳でも無い。


 ソクラテスは神託を受け、最も賢い者だと巫女から宣告を受けた。

 ソクラテスはそれを反証するために、知識人や偉大とされる人物を回り……『ソクラテスより、かの賢者の方が賢い』と証明しようとした。

 しかし知識人に教えを請い、次々と質問をするうちに……最終的に『言葉に詰まり、答えられない』という場面が頻発した。

 これにより――『自分は物を知っている』と思い込んでいる無知な者と『自分は物を知らない』と考える無知な者の間には、後者の方が自覚のある分賢い。これを『無知の知』と呼んだ。

 そして手にした知識、検証を終えた知恵を、すべての人に分け与えた。

 だがこうした諸々の活動は……政治家、文化人、知識人とされる人間の恨みを買い、裁判によって処刑された。その裁判自体も不当な物であり、なおかつ、何度もソクラテスは回避する方法や時間があったにも関わらず、自ら裁判に赴き、その刑罰を受けた。


 ここまでは……すべての『ソクラテスについて示した書物』で合致している情報です。史実のソクラテスの言動として、確定できると考えます。

 さて……作者はソクラテスと言う人間が、どのような人物であるか? もう少し踏み込んで、作者個人の見解を述べたいと思います。

 作者が思うに……ソクラテスと言う人物は、精神への関心が極端に薄い人物ではないか? と考察します。要素はいくつかありますが……まず問答のやり方がマズい。最初の数回は仕方がないにしても、その後は配慮する事も出来たと思うのです。

 かなりざっくりとした例えですが……ソクラテスのやった事って、現代に例えるならこんな感じです。


『テレビ番組の生放送中に、一流大学の人間質疑応答中だったが……乱入してきた人物の質問に答えられず、その態度を全国に流してしまった』


 えー……言うまでもなく、有名人側は大恥です。乱入してきた側がソクラテスで、恥をかいた方が当時のギリシャ政治家や文化人と考えて下さい。

 で、何度も何度もソクラテスが、著名人の生放送番組に突撃しては、質問をぶつけまくって最終的に『論破』してしまう。このやり口にキレた著名人側が、政治的な力を使って、ソクラテスを処刑しにかかった……って感じです。ですがこの行動……ソクラテス側に全く問題が無かったか? と言われると、作者としては疑問符なのですよ。

 最初の数回は……相手側の心情を想像していなかった。何が起こるかを理解していなかった。好奇心を純粋に満たそうとした……で通ると思います。実際、新しい発見と試みだった以上、初期のころは仕方ない。

 ですが、数回実行した所で……方法を変える事は出来たと思うのです。例えば公共の場で質問するのではなく、個人宅に訪問するとかで。


 公の場で堂々と論破するから、恥をかかされたと報復を食らう事になった。だから公ではなく、個人間での対話……例えば家に訪問するような形にすれば、必要以上に恨みを買う事は無かったのでは?

 他にもこんな話がある。裁判所に出る時に、ソクラテスの妻は「無実の罪で死ぬなんて!」と叫んだらしい。けれどソクラテスの返答としては「なら、何か自分が罪を犯して死ねばよかったのか?」と返したらしい。


 ――こうした、僅かに残った『ソクラテスの史跡』を見ると、彼はあまり人の心に関心があったとは思えないのです。皮肉屋だったり、性格が極端に悪いだけ、とも解釈される方が多いですが、作者はそれだけが原因とは思えないのです。

 もう一つの史実――『ソクラテスは死刑を求刑されたが、彼はそれほどの罪を犯してはいない』と、当時の人々は感じていたようです。当時の裁判は『町の中で暮らす全員の多数決で、有罪か無罪か、罪状はどれほどかを決める』方針を取っていました。


 不正や組織票もあるとは思いますが、有罪か無罪かなら僅差でした。しかし求刑の重さについては、かなり多くの人が『死刑』を望む流れになったそうです。その場の空気と言うか、流れみたいなものがあったのかもしれません。刑の執行までの間に頭が冷えたのか、多くの人々がソクラテスに対し『何もそこまでしなくても』と、感じていたとかいないとか。牢番にも話が通っており、ソクラテスがその気なら簡単に脱走出来たとも言われています。

 ですが、いくつもの『生存のチャンス』を目にしても……処刑が迫るにつれ、周辺の人間がいくら説得しても、ソクラテスは死罪を受け入れる事を決めていた。自分に全くやましい事は無い。美しく、善く生きる事こそが重要だと……自ら毒の入った杯を飲み干して。


 普通の人間なら、泣き喚いて死にそうな物です。70歳ぐらいだったとは思いますが、それでもやはり、不当と考えそうな所です。が、ソクラテスは一貫して、自らの美しさは曲げなかった……と、語られる事が多いです。

 ――ここで、思い出してみて欲しいのです。ソクラテスは、人の感情にあまり関心が無かった、と作者が主張している事に。

 そもそも当時、神殿と巫女がいて、その神託は絶対的な者でした。疑う事さえ許されない……と言うより、疑う事さえ恐れ多い。そう……『感情的に』

 ソクラテスの最後は、感情的な者であれば耐えられないでしょう。知を愛していたから、純粋であろうとしたから? それも間違ってはいません。でも、作者はソクラテスに対し、特定の人種だったのではないか……そう思うのです。


 通常の人間とは異なる感情や感性を持ち、自分の持つルールに忠実な人種――ソクラテスが『サイコパス』である可能性を指摘したい。

『無知の知』の発見方法と、その後問題が浮き出ても繰り返し実行した事。最後の審判を大人しく受け止めた事。残された記録を漁っていくと……他人のものであれ自分のものであれ、彼は『感情』を極度に無視、あるいは感じていないような……ともかく『異質』な感触がある。もちろん、作者個人の主観でしかないのですが、しかしどうも……何らかの異常性が、見え隠れしているように思えてならない。

 が、この異常性が……人によっては『超人的』に見えたのでしょう。ソクラテスを最も尊敬し……いや、もはや『崇拝』に近い領域に達した人物もいたと考えられます。

 それが……恐らく、プラトンだった。


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