世話焼きな悪魔を召喚してしまった
面倒臭がりはだいたい実話。
「あなた、家事全般できます?」
至極真面目な顔をして、ラクルは悪魔に尋ねた。『世界を滅ぼしたい』とか、『力が欲しい』や『お金が欲しい』なんて大層なものではないのに、まるでそれが一番大きな事だと言わんばかりの顔をしている。
「――……は?」
一瞬何を言われたのか分からなかったと、悪魔は後にそう語った。
ラクルは極度の面倒臭がりだった。
片付けることは苦手だし、掃除も洗濯も苦手だ。料理なんてもってのほかで、いつも保存食をポリポリと食べているような、そんな生活。さすがに嫌気が差した。
けれど、だからと言って自ら家事をしてまで改善しようとは、思えなかった。だって面倒くさいし。
だからラクルは、悪魔召喚をすることにした。
『何がどうしてそうなったんだ』とか、『なぜ悪魔召喚なんて危険なことに行き着くのか』と、問いかけ諭してくれる人は残念ながらいなかった。
面倒臭がりで出不精のラクルには、深く話せる知り合いがほとんどいなかったので。
そういうわけで、まずは情報収集に奔走した。面倒臭がりなのに、面倒くさいことを回避するためには本気になれる、おかしな人種である。その労力を家事に使えばいいのに。けれど残念、それを言ってくれる人もいなかった。
根っからの引きこもりが何をしようと、外の人間たちは知る由もないので。
そして幸か不幸か、ラクルは天才だった。呼んだり教えて貰ったりして試してみれば案外できてしまう、なんてことが多かったのだ。魔法しかり、運動しかり。
まァ、そんなこんなで。
悪魔召喚は見事成功してしまったのである。
そして冒頭に戻る。
望みを問えば、返ってきたのは「家事ができるか」。悪魔の頭の中は真っ白になった。
なんとか頭を働かせて、現実に戻ってきた悪魔が目にしたのは、そこらかしこに散らばる本、本、本。足の踏み場もないほどの本が、決して狭くない床を埋め尽くしている。
「家事って……そういうこと?」
「そうです。片付けや掃除、炊事、あと洗濯とか。諸々やってくれる人を探してたんですよねえ」
そう言いながらラクルは、本が何冊も置かれているソファに座る。召喚早々に、悪魔は頭を抱えたくなった。
まずこの部屋の惨状は、家事ができないとかの問題ではない。それにソファは座るところであって、物を置くところではない。そもそも、家事がめんどくさいから悪魔召喚をするという思考回路おかしい。それなら家事代行サービスを雇え。
「なんで本がこんなに……」
「悪魔召喚の方法が書かれた本を片っ端から集めたら、いつの間にかこんなことに。全く、手間かけさせてくれやがりますね」
「いや、その労力を家事に使えば良かったんじゃないのかい?」
ごもっともである。
だがラクルからすれば、永遠に続く面倒くさいことより、一瞬だけの面倒くさいことの方がマシなのだ。
だって召喚すれば、対価を与え続ける限り願いを叶えてくれるんだもの。それって素敵。と、そういうことである。
「そういうことなので。これからよろしくお願いしますね、悪魔さん」
「……うん、よろしくね」
変なところに召喚されてしまったなァ、と悪魔は遠い目をして頷いた。
***
「もう、主! その服何日着てるんだい!? いい加減洗うから新しい服に着替えて!」
「うぇ〜〜、あとで着替えます〜〜」
「キミの『あとで』は何年後になるか分からないんだから、今すぐして!!」
――これは未来、あるかもしれないふたりの話。
ソファの話も実話。