1話「Liveable city ~住み良い街~」
ねえ、そこのキミ?
「この出会いは運命だ」って、感じたことはある?
親友、恋人、師匠……世の中には色んな出会いがあるけど、「運命」とまで言えるのはそう多くないんじゃないかな?
私? 私はね……
実は2回あるんだよね。1回目が「ゴールド・ブレイズ」のみんなとの出会い。そして2回目がとあるクソッタレな場所で出会った、一人の竜族との出会い。
これから紹介するのは、2回目の方。全ての始まりは、ゴールド・ブレイズのみんなとアジトで「M○U一気観完徹50時間勝負」を終えて、全員萎びたきのこみたいになっている時にスマリトにかかってきた通信だった。
「『スマイリーズ』に誘拐された娘を救出してほしい」
その依頼を受けると決めた私が最初にしたのは、遺書を書くこと。
自慢のブロンドをベリーショートに切り揃え、前に仕立てたヒーロー気取りのコスチュームも、関節部分に装甲を取り付けて臨戦仕様に改造。
「一緒に行く」って食い下がる仲間たちをなんとか説得して、私はスマイリーズが支配する娼婦街、通称「毒婦の街」に潜入したの。
大げさだと思う? でもね、スマイリーズ絡みの案件に首を突っ込む気なら、それぐらいの覚悟は必要だってこと。
スマイリーズの悪辣さは、私自身骨身に染みるくらい理解しているつもり。
でもこの話は、私の予想外の方向へと転がっていったんだよね。
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ゴールド・ブレイド&ドラゴン
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「毒婦の街」。このいかがわしい空気に満ちた一角には、国家の正式な許可を得ていない違法な娼館が所狭しと並んでいる。
なぜそんなことが許されているのか。答えは単純だ。この娼婦外を仕切っているのは衛兵やギャングよりもずっと恐れられている組織。復讐、報復、革命を司る邪神、デルゴラスを辛抱する邪教集団ーー「スマイリーズ」だからだ。
「ねえ、ちょっと、離してよ!」
毒婦の街の路地裏の一角で一人の娼婦が、屈強な二人組の男に絡まれていた。
「大人しくしてろ! そうすりゃすぐ終わるって……おい、だれも見てないな?」
娼婦の手首を掴んだ男が、もう一人の男に確認する。
「ああ。誰もいねえよ。『三日月の守護者』とやらが出てくる前にとっとと済ませようぜ」
そう言って空の三日月を見上げた男の視界に、妙な物体が飛び込んできた。
「なんだありゃ……蝙蝠か?」
男がシルエットの正体に気がついたのは、滑空してきた少女の足の裏が顔面にめり込んだ後だった。
「何だ!?」
背後の異変に気がつき、娼婦の手首を離してナイフを構える男。その男の指を何かが掠めたと同時に、地面にナイフが落ちる音が響く。
「あああああっっ!? ゆび……俺の指が……!!」
男は指を落とされた痛みと恐怖で泣き叫び、鮮血を撒き散らしながら、娼婦を置いて路地裏から走り去っていった。
「っ!!」
「おっと」
少女は地面に座り込む娼婦の元へ近寄ろうとしたが、次の瞬間振り向きざまに、先程男の指を落とした鋭利な物体を放つ。
だが、彼女の背後にいた何者かは素早い動作で物体を捕まえると、少女に対してにっこりと笑いかけた。
「今の技、すごいね。鱗を高速で飛ばして、飛び道具にしたんでしょ」
キリエは手の中の鱗をしげしげと眺めながら言った。
「……誰だ?」
暗がりの中から少女が問いかける。
「こういうときは先に名乗るのがマナーでしょ? とりあえず通りに出てから話しーー」
「いや、やっぱりどうでもいい。アタシは忙しいから」
少女はそれだけ言うと人間離れした跳躍力で飛び上がり、建物の屋上へと姿を消してしまった。
「……気難しい子ダネありゃ」
キリエはそう言うと、少女が先程暴漢から救い出した娼婦に話しかけた。
「お姉さん、怪我はない?」
「平気だよ、ありがとう。この街であたしらのことを気にかけてくれる人が二人も出てくるなんて思わなかった」
娼婦はそう言うと、懐からキセルを取り出して紫煙をくゆらせる。
「時々ああゆう輩に絡まれるのさ。払うもんも払わずにあたしらの体をどうこうしようっていう不届きもんにね。今日は『三日月の守護者』が来てくれたから、運が良かった」
「別の場所では働けないの?」
「別の場所だって……? ははっ、無理に決まってるでしょ」
キリエの言葉に娼婦は吐き捨てるような笑い声を漏らす。
「この地域はスマイリーズの支配下にあるんだ。市民、役人、転生者……誰であろうと報復が怖くて、手出しなんか出来やしない。稼いだ金は最低限の生活費だけ残して、みんな奴らの活動の資金として搾取される。あたしたちゃスマイリーズの養分なんだよ」
「最低! あいつら、さも『虐げられる弱者の味方です』みたいなツラしといて、結局裏でやってるのは罪のない女の人から搾り取ることだってわけ!!」
「……あんた、『三日月の守護者』と話がしたいんだろ? だったら急いで後を追った方がいい。あの娘は神出鬼没だからね。早くしないと今晩は姿をくらしましちまう可能性がある」
「うん、分かった。お姉さんも気をつけて帰ってね!」
キリエは情報をくれた娼婦に礼を告げると、身体強化を発動してその場で跳躍し、「三日月の守護者」と呼ばれる少女の追跡を始めた。