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イジュース・ファンタジー  作者: 辻 雄介
冬の戦士編
22/36

第22話 植物の人間!?

時は流れ現在

2021年10月の7日。

サンディルはもう21歳。

16 の時にジムナシエスコーラン(日本で言う高校のようなもの)を飛び級で卒業したが、

大学には通わずにそのままひとり立ちした。現在はファーゲシュタに一軒家で一人暮らしをしており、ネットデザイナーの仕事をしている。

「はぁ…さてとフィーカの時間にするか。」

フィーカとは、甘いものと共にコーヒーを飲むひと時の時間である。

サンディルはこの時間になるとテレビをつけ、最近起きたニュースなどをみている。

ここ最近では特に気になっているニュースがサンディルにはあった。

そのニュースはとても奇妙なものを感じさせるようなものであった。

事の始まりは大韓民国の釜山のとある農家に人型の植物が生えてきたという事からだった。

その人型の植物は時が経つにつれてどんどんと人の形へと変化していいった。

そしてそこから2、3週間たった頃、その人型の植物は動き出したと思えばそのまま立ち上がり走り出したというのだ。

この様な魔法のような奇妙な出来事に世界中のメディアは大盛り上がりをみせ、人型の植物が走った跡から分かる分析や、これからこの植物が走る予想経路の予想や、最終的にどこに行き着くかなどの予想がどうなるかという意見が次々に飛び交った。

サンディルは机に肘をつけながら毎日そのニュースをみていた。

もっと言うとこのニュースのせいでサンディルのフィーカの時間は伸びていた。

しかし、サンディルはこの様な魔法のような出来事が起きても大して驚いていなかった。

嘗て体験した左側頭部から出る魔法があったからだ。

「もしかしたら、このニュースもイジュースが関わっているのかもしれないわね…。

まぁ、知らないけど。」

その魔法はイジュースと言った。

左側頭部から不思議な光を放つ魔法で、ある時は黄色く光って身体に強大な力をおくり、ある時は赤く光って物を浮かせたり自在に操れたり、ある時は青く光って人の潜在意識に侵入して操れたりすることが出来る。

サンディルはそのうちの黄色い光を操ることが出来たのであった。

しかし、それはもう遠い過去の話。

あれから6年経った今ではもう使う機会も無かったので今すぐ使えと言われて使えるかどうかも分からないのである。

「さっ、仕事に戻ろっ。」

サンディルは甘いお菓子も苦いコーヒーも胃の中にしまい、テレビを消して仕事に戻ろうとした。

その時、1本の電話が鳴った。

「あれ、誰からだろう。もしもし~?」

「もしもし?私よ!シンディよ!」

「え!?シンディ!?久しぶりすぎる!!」

シンディとはサンディルの15歳の時の旧友である。

「どうしたの~!?急に電話くれるなんて嬉しい!!」

サンディルはウキウキだった。

「サンディルって今ファーゲシュタに住んでるんでしょ?植物人間くんが韓国から走っているのは知ってるよね??実はその植物人間くんが走るだろう予想経路の中にファーゲシュタが入っててさぁ!!その走ってる姿を肉眼で見たくてファーゲシュタに行こうと思ってるの!!それでさぁ!良ければ3日くらい泊まりがけでそっちに来てもいい??」

「いいわよ!!全然いつでもおいでよ!!」

「ホントに!?ありがとう~!それじゃ行くわね!!明日に」

「は?明日!?」

ガチャリ、ピーー…

サンディルはあまりに急な事に焦った。

「えっとえっと明日の何時頃にくるのかしら!!

もっかい電話しなきゃ!!

もしもし!!シンディ!!……」


次の日の夜…

サンディルとシンディは植物人間が現れると思われるファーゲシュタのとある通りに訪れた。

その通りには人がたくさん来ており、和気藹々と賑わっていた。

「わぁー凄い賑やかになってるわね。

この人たちも走る植物くんに興味を持って集まったのかしら…。」

シンディはワクワクしていた。

「そりゃそうよ。

理由もなしにこんな所に集まるはずないじゃない。

普段は人通りなんで全くない通りなんだから。」

サンディルはそう言った。

しかし、サンディルも興味を持っていなかったわけではなかった。

テレビで話題になっているものを目の前で見れるということはサンディルにとってワクワクすることだった。

「あと何分くらいでここを通る予定なの?

私依頼者の仕事をこの後済ませなきゃいけないんだけど…。」

サンディルは楽しみな反面仕事が残っているという楽しくない現実も見ていた。

「後30分くらいで来るんじゃないかしら。早く見てみたいなぁ!!」

シンディは完全に楽しみでいた。

サンディルは少しシンディが羨ましかった。

「ねぇ、シンディは今何の仕事をしているの?」

サンディルはおもむろにシンディに尋ねた。

「私?私は雑誌会社で情報収集の仕事をしているの。」

「情報収集?スキャンダルとか??」

「んー、それもあるけど私たちの担当はもっと刑事側に近い感じだわね。」

「へぇー。」

サンディルは何となく理解したようだったが、何となく理解してない感じだった。

それから2人の懐かしい会話が弾み、時間が流れていった。

そして、いよいよ走る植物が目の前を通り過ぎる時間になった。

周囲はざわつきはじめ、その場の高揚感は増していった。

「そろそろ来るんじゃない!?時間になったわよ!!」

サンディルは少し興奮気味だった。

「ちょっと待って!静かに耳をすましてみて。」

シンディはサンディルに耳をすませるように言い、サンディルはそれに従った。

すると、遠い方から「タンタンタンタン」と足音が聞こえてきたのであった。

そして、足音は徐々に大きくなり、やがて緑色の体をした人間がすぐ近くを通ってきた。

サンディルはその植物の人間が目の前を通って行った瞬間を見逃さなかった。

その顔は自分の走る道を見つめているようだったが、どこか悲しげな何かを感じる様な瞳をしていた。

サンディルはこの瞬間に何か自分と同じ境遇をこの植物人間は生きていると自然に感じ取ったのであった。

「サンディル!サンディル!」

肩を叩かれながらシンディに呼ばれてふと我に返ったサンディル。

「凄かったわね、まさかテレビでしかみれないと思っていた物がリアルで見られるなんて!」

シンディは余韻に浸っていた。

「えぇ…!そう…凄かったわね!!」

サンディルは適当にそう答えた。

「あの植物くん、最終的にどこへ向かうのでしょうね…。」

シンディはまだ余韻に浸っていた。

それから2人はサンディルの家へ戻って行く事にした。

「ねぇ、もしもさ、植物くんの向かう先が自分の家だったらどうする??」

シンディは訳の分からない質問をした。

「それ、どういう意味??家の前に植物の人間が立っているかもって話?」

「そう!だったらどうする??」

「シンディはお気楽でいいわね。

そんな訳の分からない空想のために頭の容量が空いてるなんて羨ましいわ。」

「こんな話するのサンディルにだけよ!」

「それなら少し嬉しいわ。

でもあまりにも有り得ない話しすぎて追いつけないわよ。

もうすぐ家に着くけどもしそれで本当に植物の人間がいたとしたら…。」

2人はサンディルの家の前に着くと言葉を失った。

「…え?」


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