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第6話 妖精の乙女たち(後編)

「おや、気がついたかい?」


 寝台の柔らかい感触を感じながら(まぶた)を上げると、そこには僕の顔を覗き込むサラがいた。


「のぼせ上ったみたいだね。それとも、何か急激に興奮するようなものでの拝んだのかな?」


 悪戯っぽくサラが笑う。

 

 気を失う前の刺激的な光景を思い出し、自分の顔がまた火照っていくのが分かった。


「それくらいにしてあげてください」


 アクシアがサラを止める。


「あの……その……すまなかった……まさかあれほどの威力になるとは思いもよらず……」


「いえ、事前に説明をしていなかった私やサラに原因があります」


 傍らで申し訳なさそうに立っているエルフィの謝罪を、アクシアが止める。


「破壊された壁の件は、サラの方から宿のオーナーに謝っておいてもらいましょう」


「う……まぁしかたない」


 オーナー? この豪華な宿の支配人だろうか?

 

「おなかすいたー」


「こらノーネ、少しは反省したまえ」


「ちょうどいいですね。食事でもしながら、詳しい話をしましょう」


 アクシアが提案する。


「あなたのこと──私たちが精霊力の制御を誤ったこと──そして、今後の話を……」


 その話は、僕も望んでいたものだった。


 もう気分もすっかり良くなったので、身を起こして寝台から下り立った。

 

 そこで、はっと気づいく──


「あの……僕……服を着ているみたいなのだけど……」


「うん。着せたから」


「え?」


 ごく普通に、サラがそう返答する。


 さっきまで冷静に話していたアクシアやエルフィは、頬をほのかに赤くして視線を外した。


「なーなーおなかすいたー! はやくー!」


 扉の向こう側で、ノーネがせかす。


「では、食堂まで移動しましょうか」


 アクシアがこの話題を早く切り上げたそうに言うと、いそいそと部屋を出ていった。


「あ……あの! ちょっと!?」


 慌ててその後ろを追いかけた。



   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「あらためて自己紹介といこうじゃないか」


 豪華な食堂のテーブルを囲み、サラがそう切り出した。


 他の利用者の姿は見られない。ひょっとしたら、僕達しか泊まっていないのではなかろうか?


「じゃあ、一番手は当パーティきってのトラブルメーカーから!」


「あい! ノーネ!」


 そう言って元気よく立ち上がって手を上げるノーネ。トラブルメーカーという自覚はあるらしい……。

 

 ノーネは名前だけを元気よく名乗るとすぐにまた座り、テーブルに置いてあるメニュー表を手に取った。

 

 ──え? それだけ?


「とまぁ、こんな具合で本能に忠実なドワーフだ。一番頑丈で一番パワーはある」


 簡潔に自己紹介したノーネをサラが補足する。

 

 ノーネは気にする風もなく、目を輝かせながらメニューの一覧を眺めていた。


「続いては自分が」


 そういってエルフィが立ち上がる。金色の長い髪が揺れた。


「エルフィだ。見ての通りエルフだが、"森"とは長らく疎遠でな。ほぼ世俗に染まっているのであまり気にしないでもらいたい。肉も食べるし酒も飲むし──」


 そう言って隣に座っていた、ノーネの頭を撫でる。


「ドワーフとも……まぁ仲良しだ」


「えへへぇ」


 栗色の柔らかそうな髪を撫でられ、嬉しそうな声を上げるノーネ。


 たしかエルフとドワーフは犬猿の仲だったはずだけど、この二人はそんなものとは無関係のようだった。


 "森"と疎遠という言い方をしたことから、ハーフなどの混血ではなく、おそらく純血のエルフであることが伺い知れる。

 

 純血のエルフ族が"森"を抜け出し、人間の生活圏にここまで溶け込んでいることも珍しい。


「風の精霊魔法と剣を少々。付与魔術(エンチャント)の類も使えるので、魔法剣もよく使う。以上だ」


 そういってエルフィは着席した。


「それじゃお次はー」


 サラがアクシアの方に視線を向ける。


「……アクシアです。水の精霊魔法士です」


 先の二人のように立ち上がろうとはせず、簡単に呟いた。


「種族はマーメイドです。もっとも、"森"と疎遠なエルフィ同様、わたしも"海"には久しく戻ってません」


 マーメイドという種族名には少し驚いた。妖精族としてはエルフやドワーフと違って、基本的に人間の生活圏に入ってくることはほとんどない(人間の生活圏にいるエルフの大半はハーフなどの混血だけど)。


 半身が魚の、半人半漁の海の妖精族。

 

変態(メタモルフォーゼ)の魔法を使って二足歩行ができるようにしています。ここら辺(・・・・)とかは……そのままの方がいろいろ都合がよいので変えてませんが……」


 そう言って、アクシアは耳周りの髪を指ですくってみせる。


 耳を見せようとした行為なのは分かっているけど、その下に見えた白いうなじと素肌に、先ほどの記憶が一瞬蘇る。

 

 髪の下には、魚類のエラを思い起こさせるような形をした耳があった。魚人族の亜人などにもよく見られる、特徴的な耳だ。


「そしてお次はこのボク、サラ! このパーティのリーダーさ!」


 赤く長い髪を振りまいて、サラが立ち上がる。


「特技は火の精霊魔法。他にも風と地も少々。水は苦手なのでアクシアに完全に任せている」


 複数属性持ち!? それも三つ!?

 

 少々という言い方をしていたけど、反属性である風と地を同時に習得していることは十分驚愕に値した。

 

 水が苦手という事から、その反属性である火が主属性なのだろう。

 

 僕を助けた時に見せた火球(ファイヤーボール)。効果が減少するはずの無詠唱であの威力は、それだけで精霊魔法士としての技量が分かる。


 ここでふと、ある疑問を思いついた。

 

 ここまで、このパーティメンバーはみんな妖精族だった。

 

 じゃあ彼女も──

 

「ふっふっふ、ボクの種族が気になるかい? でも、ソコに関しては秘密☆」


 見透かされたかのように先手を打たれる。


 でも、そんな言い方をするということはやはり──


「みんなと同じく、妖精族であることは間違いないけどね」


 そう言って髪をすくってみせたその下には、妖精族を象徴する鋭利な耳があった。


 エルフほどは尖っていない、どちらかというとドワーフやホビットのような大地の妖精族に近い。


(火の──妖精族?)


 彼女が操る主属性からそんなことを考えたが、僕の知識の範囲ではその記憶がない。

 

 風や水、大地に属する妖精は多い。半面、精霊の数に反して火の"妖精"となると、少なくとも僕の記憶にはない。

 

(得意な属性が火というだけで、種族自体は他に属するもの?)


 そんな風に思考を巡らせていたけど、僕はこの時は気づいてはいなかった。

 

 

 そもそも根本的に、彼女に対する──いや彼女たち四人(・・・・・・)に対する認識が、完全に間違っていたことに──

ご覧いただき、ありがとうございました。


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本日は8話まで掲載する予定です。

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