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エピローグ 災禍の炎

 

ドウセ殺スノナラ……ナンデ……心ナンテ……生ミツケタ……ノ?



   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「今日こそ勝負してもらうぞ、レンファ!」


「キミも懲りないねぇ、アルベルト。何度やっても結果同じなのに」


「何故そう決めつける! 我が人間ごときにそう何度も敗れるなど、あってはならん、ならんのだ!」


「キミは基本性能(スペック)に頼りすぎなんだよ。基本的な身体能力で言えば、ボクはキミの遥か下なんだぜ? 魔法なり体術なり、少しは工夫してみたらどうなんだい?」


「貴様ら矮小な人間が編み出した技術を、この我に扱えと言うのか!」


「その矮小な人間から白星が欲しくないなら、別に無理には薦めないけどね」


「ぐぬ……ぐぬぬ。──なにか今日は静かではないか? 他の門徒どもはどうした?」


「ああ、ブルーガーネット教室(クラスタ)の封印の儀式に駆り出されてる。そういった術式はボク苦手だからパスした」


「全員駆り出されたのか? 何を封印しようとしているのだ?」


「"災禍の炎"っていう、発動すると世界──最低でもこの大陸くらいは焼き尽くす大術式だって。エルフが人間を滅ぼすために、とあるエルフの娘に施して"森"から放り出したらしい。いやぁ、酷い事するねぇ……」


「……なにのんきに笑っているのだ貴様は! どこだ! どこでその封印はやっている!」



   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「まったく、貴様の楽天家ぶりは知ってはいたが、いささが度が過ぎる。世界の存続に影響する術式の封印中に、のんきにくつろいでいる奴があるか!」


「いや封印の工程を聞く限り大丈夫そうだったし、ちょっとボクとしてはその場に居合わせたくないというか……てか手をそんなに強く引っ張らないでくれたまえ。そんなに急いでも、もう終わってるかもしれないよ?」


「封印工程とはどんなだ? それだけの大術式、どうやって封印する?」


「封印というか、完全に消去する。それに失敗したら次善策でエルフの女の子ごと封印する」


「消去!? それに失敗したらって、失敗した時点で世界が終わりかねんだろうが!」


「二人の降臨英雄(カルヴァリー)伝承技(カルヴァ)を使う。一人はキミも知ってるだろう。世界樹(うち)に所属している"その悪逆、死を以て断(ジャッジメント)ず"の」


「ああ、あの小僧か。だがその伝承技(カルヴァ)は、奴の魂が"悪性と判断した命を絶対に絶つ"といった代物だっただろう。術式に対して効果があるのか? 最悪、そのエルフだけを殺してはしまわぬか?」

「彼が、そのエルフの少女を"悪"と認識することは絶対ないよ。だから、ここまで話がこじれてる」


「……………………」


「もうひとつ、外部から連れて来た降臨英雄(カルヴァリー)伝承技(カルヴァ)、"八百万(やおよろず)"を使って、術式に命を吹き込む。その命を、彼が"悪"と断じれば、"その悪逆、死を以て断(ジャッジメント)ず"の刃はエルフの少女を傷つけず、術式だけの命を絶てる」


「……前々から思っていた事ではあるが……人間(おまえ)たちは(おぞ)ましい」


「……知っているとも」



   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「もう終わった後……いや」


「なにか揉めている? トラブルかな。やぁ、サティラ。首尾はどうだった?」


「トラブル……そうですね……少々やっかいな事が起きました。"八百万(やおよろず)"を使って術式に命を吹き込み、"その悪逆、死を以て断(ジャッジメント)ず"でカトレアを傷つけず術式だけの命を斬る。そこまではうまくいきました」


「……じゃあ、あれは? あそこでユラヤラ揺れてる、火精のような子は、いったい何だい?」


「アレがその術式です。命を吹き込まれた"災禍の炎"。イツキに"その悪逆、死を以て断(ジャッジメント)ず"で斬られ、カトレアの体から分離して一度は四散したかに思われたのですが……その後再生しました」


「…………アルベルト、何か分わかるかい?」


「………………外の星の匂いがする。その"災禍の炎"という術式だが、根源や生成の過程はどれだけ把握できていた?」


「源となっている存在の名前は、"フェニクス"といいます」


「ああ、それだ。破壊を司る火属性の中において、唯一"再生"をも司る転生の炎。37番目の魔神。これ、完全に殺しきるのは難儀だぞ」



『ドウセ……』



「しっ、静かに。なにか話そうとしてる」



『ドウセ殺スノナラ……ナンデ……心ナンテ……生ミツケタ……ノ?』



「ああああああ、だから、居合わせたくなかったんだよ。責任をとっておくれよアルベルト。キミの責任でもあるのだからね」


「何故ゆえに!」


「サティラ。悪いけどこの子はボクが預かる」


「正気ですか? 扱いを間違えれば世界が滅びかねない存在なんですよ?」


「誤れば世界が滅びかねない選択肢が、この世界にはゴロゴロしているのはキミも知ってるだろう。何をいまさら」


「そういう問題では──」


「まだこうしてあの子が存在()るってことは、そちらのイツキ君はもう"悪"としてあの子を認定できていないんだろ?」


「………………」


「悪いようにはしない。最悪、何かあったらアルベルトにも協力してもらうさ」


「だからなんで!?」



   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「…………ア」


「おや、気が付いたかい? ああ、まだ動かない方がいい。妖精義骸(ぎがい)に定着してないうちは、安静に。どうだい、肉体を得た感想は? とはいっても、生まれたばかりで、精神体(アストラルボディ)であってた時のことなんて、ほとんど覚えてないか」


「殺サナ……イノ?」


「……ああ。殺さない」


「ドウシ……テ?」


「それを言われると答えに困るな……。まぁ人間なんて利己的で自分勝手だ。今日のご飯を美味しく食べるために、選択を選び続ける毎日なのさ。ボクは今日のご飯を美味しく食べるための選択をしたに過ぎないよ」


「私ハ……何モ……返セナイ……」


「返す必要なんてないさ。言っただろ? ボクはボクのために選択したんだ。……でもそうだな。そしたら、いつかキミが、誰かを救ってやればいい。ボクがキミにそうしたように。そしてキミが誰かにそうした時、きっとその誰かも、いつか他の"誰か"を救うのだろう」



   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 心地良い規則的な振動を感じながら、僕は目を覚ました。

 

「おや起きたかい? まだ眠ってていいよ。疲れただろう?」


 サラに背負われていた。どうやらあの後、気を失ってしまったらしい。

 

 天威無法(シャングリラ)で損傷した体は、いつの間にか治癒されたようだった。


「"獣"のメンバーの腕輪だけは回収しておいた……。あとで、組合(ユニオン)に届けておいてもらえるかい?」


「うん」


 サラがしゃべる度に、彼女の背中が細かく振動で震える。それが、心地よかった。

 

「もっと……大きくなりたい」


 簡単に女の子が背負えない程度には。

 

「まだまだこれからだろう。大丈夫大丈夫」


 これから。

 

 まだ、これから。

 

   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 僕の──

 

 ボクたちの──

 

 

 世界への挑戦は終わってない。

 

~世界樹の遺跡の精霊神子(フェアリーテイル)


第一部 了

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