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第50話 精霊神子──フェアリーテイル

 詠唱の開始と共に、世界の外側への接続が開始される。


「うお!」


 僕から迸る電流を避けるように、ガウルは後方へ引いた。

 

 僕はそれを追い、間合いを詰める。

 

「てめ──」


 彼が何かを言い終わる前に背中を叩きつける。──鉄山靠(てつざんこう)。豪快に、ティーゼのいるところまでガウルは吹っ飛んでいった。



『 創世の回廊を征き 摩天楼より下れ 』



 間合いが離れたところを見計らって、二節目の詠唱を完了させる。


「なんだありゃ、おいティーゼ! なんであいつは精霊の力を使える!?」


 体を起こしたガウルが、ティーゼに問いかける。


「…………精霊神子(フェアリーテイル)? まさか、星の裁定者!?」


 ティーゼが、普段の無表情な様子からは想像もつかない恍惚とした顔を浮かべる。


「しかも自我を保ってる? ……素晴らしい! ルクス、やはりあなたは素晴らしい!」


 何がそんなに嬉しいのかわからない。何がそんなに素晴らしいのかわからない。


 自我を保っている? なぜそう言い切れる?


 最初に天威無法(これ)を使った時の記憶は曖昧だ。いくつかの単語が頭の中に響き渡った事、そして、そこから引き戻してくれたサラの声くらいしか、いまは覚えていない。



『 雷光の祖 開闢を告げる者 』



 三節目の詠唱が終わる


 僕はまた、還ってこられるのか?


 もう天威無法(シャングリラ)は使わないと、サラと交わした約束を破った。もし還ってこられなければ、それはきっとその報いだろう。


「おいティーゼ!」


 しびれを切らしたガウルが、再度ティーゼを問い詰める。


「あれは、この世界の外側の力……」


「外側だと?」


「精霊でもない、神でもない、その先にある存在……。だから、"影の国(ダン・スカイ)"の制約を受けない」



『 地を駆り 魔を狩り 天を借る 』



 四節目が終わる。僕の体から放出される電流は、その量を増していく。


 自我は……まだ保っている。自分が作り替えられていく感覚は……ない。


 それとも、もうとっくに作り替えられているのだろうか? ただ、その事実に自分が気ついていないだけで。


 例え、自分でなくなってしまったとしても……例え、ここで命を落とすことになっても……僕はこれを選ぶ(・・・・・)



 『 其は天威の代行者 』



 選択肢のなかった子供はもういない。


 運命に絶望するしかなかった無力な少年は、もういない。


 何を()っても、何と想われても、護りたいものがある。


 あの時、僕を守ってくれた背中。炎のように赤く、綺麗な髪を振りまいて助けてくれた、彼女のように。




「ルー君!」




 サラの声が、聞こえた気がした。




 ──────嫌だ……やっぱり嫌だ……!


 例え、自分でなくなってしまってもなんて考えるな……例え、ここで命を落とすなんて考えるな……!


 還るんだ、必ず! サラの所へ! みんなの所へ!


 みんなで還って、拠点(ベース)の食堂で、笑うんだ!


 だから一人も欠けちゃいけない。この、()ですらも!




 僕は、みんなのそろった未来を──みんなで笑う未来を選ぶ(・・)




『 天威無法(シャングリラ)ァァァァァァァァァ! 』




 天の威が落ちる。星の力が委ねられる。

 

 僕の体を、雷光が纏う。


「おお、おおお!」


 何が嬉しいのか、ティーゼが感極まった声を上げる。


精霊神子(フェアリーテイル)……! 星の裁定者よ!」


 僕は彼を無視して、ガウルに声をかけた。




「いくぞガウル。覚悟はいいか?」




 意識は保たれていた。

 

 僕は僕だ。


 必ず……必ず還ってみせるから!


 僕の心情に呼応するかのように、電流が全身に迸る。


「……カスが……随分と舐めた口、利くようになったじゃねぇか!」


 ガウルが剣を構えて突進してくる。


 でも僕は、その真横から彼を殴りつけた。


「がっ!」


 何が起こったのか把握できないまま、ガウルは吹き飛ばされる。


「何が──」


 即座に身を起こして体勢を整えようとするガウルの懐を、一瞬で取る。

 

「どわっ!」


 放たれた掌底を腹部にまともに浴び、再び吹き飛ばされるガウル。


「遅いよ」


 剣を杖代わりに体を起こそうとするガウルに向かってゆっくりと歩みながら、そんな事を僕は告げる。


「くそっ……たれがぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ガウルの叫び声に併せて、彼を取り巻いていた魔力が膨張するのが分った。



『 この世の全てを後塵に拝せ! 』



 ガウルが何かの詠唱を始める。伝承技(カルヴァ)というやつか。



『 技能顕現(カルヴァリア)韋駄天の踵グリゴロース・アキレウス! 』



 ガウルの足に、魔力が集中していくのが分った。


 と思った瞬間、彼の姿が搔き消えた。


 何かを感知して僕は後ろに跳ぶ。自分が立っていた場所に、ガウルの斬撃が通過したのはその直後だった。


「だいたい、これで同じスピードくらいか?」


「そうみたいだね」


 ただそれだけの言葉を交わした後──光と闇の流星が、暴風の荒野を縦横無尽に走り回った。

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