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第5話 妖精の乙女たち(前編)

「そろそろ日も暮れるし、まずはボクたちの拠点(ベース)に行こう。お風呂に食事。詳しい話はそれからだ」


 先頭を歩くサラが振り返りながらそう言った。


 世界樹探索ギルド組合──通称組合(ユニオン)が設置した転移魔法陣に乗って、僕らは第六階層から第一階層の出口──拠点街(きょてんがい)にまで一気に下りて来た。

 

 拠点街。世界樹の遺跡に挑む探索冒険者を相手に、大陸中の商人たちが集って興された街だ。

 

 多くの人、物、金が集い、ちょっとした王都を軽く超える規模の街となっている。



   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



拠点(ベース)って……ここがですか!?」


 彼女たちに連れられて到着したそこは、豪邸といえるほどの高級宿だった。


 ギルドやパーティの懐事情によって、拠点(ベース)のグレードは多々様々だ。

 

 その日暮らしの安宿から、高級な集合住宅を買い上げるなど、この拠点街にはいろいろな物件がある。


 その中でも、ここは一級の物件──それこそ王侯貴族が、世界樹の遺跡を訪れるような時でもない限り使われなさそうな、超高価な物件だった。


「め、めちゃくちゃ高そうなんですけど!?」


「お金の心配はいらないから」


 僕の心配をよそに、手をヒラヒラさせてサラは豪邸の門を潜る。


 他の三人も、彼女の後に続いた。


 戸惑いを隠せず、僕もその後ろに続く。


「お風呂お風呂~♪」


 ノーネがはしゃぎながら先頭を歩くサラを追い抜いた。


「大浴場じゃなくて、いっそ貸切風呂の方でも手配するかい? ルクス君を交えてそっちで話する方が、いろいろ都合がいいし」


「不都合しかない! 大却下!」


「……少しは自重してください」


 とんでもない提案をしたサラを、エルフィとアクシアがたしなめた。

 

 僕はというと、普段は水桶で濡らした手ぬぐいで体を清める程度なので、大浴場の話をどこか絵空事のように聞いていた。



   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 建物の豪華な装いからある程度予測はしていたけど、浴場の絢爛(けんらん)な様子たるや、かなりのものだった。


「夜景が……綺麗だ……」


 この建物自体が拠点街の高地──丘の上に立っており、そこから拠点街の夜景が一望できる露天風呂となっていた。


 ちょっと前にギルドを追放され死にかけたことを考えると、今の状況はホント現実味がなかった。


 風水士──風水術──そして──

 

精霊神子(フェアリーテイル)……」


 サラとアクシアがかなり驚いていたけど、いったいどういう意味だろう?


 僕はお湯につかっていた右手を上げ、それを空へかざした。

 

 右の手首にはまだ、"獣の爪牙"の証である銀の腕輪が巻かれていた。

 

 この、"獣"から見捨てられた右手より放たれた、火の鳥。

 

 めったに成功しなかった、魔法を放つ時とはまったく違う、全身を満たした全能感。


 それを思い出し、全身を包む湯の気持ちよさもあって、僕は夢見心地のような感覚に身を包んでいた。


「ルクス君ひとりだよね? そっち他に誰かいる~?」


「い、いえ、僕だけです」


 そんな僕を現実に引き戻すように、命の恩人の声が浴場を仕切る壁の向こう側から聞こえてきた。


 そもそもこの宿──ここに来るまでに他の利用客を一切見ていない。


「お、ならここで色々話しちゃおうか。裸の付き合いというやつさ」


 壁で仕切られているので当然互いの姿は見えないが、なぜか僕はドキドキした。


「あの……」


 姿が見えない時にどうかと思うけど──まず最初に、改めて伝えるべきことがある。


「危ないところを助けていただき、本当にありがとうございました」


 姿が見えないのは分かった上で、僕は湯船から立ち上がって深々と頭を下げた。


「……ルクス君、まずその敬語をやめようか?」


「え?」


「それで助けたことはチャラにしようじゃないか」


 とても気さくに、サラが提案する。


「それはそれで、助けた命が軽く感じられるような気もするが……」


 サラ以外の声が聞こえてくる。この声はエルフィだろうか?


「どうしてあんな場所にひとりで? 第六階層の奥地なんて、ほとんど魔法が使えない魔法士が単独でいるところではないと思けど?」


「それ……は……」


 とてもみじめで情けない話だが、隠していてもしかたない。


「初級魔法も十分に使えない役立たずということで……ギルドにあの場で捨て置かれまして……」


「は? はあぁぁぁぁ!? 途中ですれ違った"獣"って、そういう事かい!?」


「ちょ、サラ、いきなり立ち上がらないでください!」


「ああ、ゴメンゴメン、つい……」


 アクシアの顔に飛沫でも飛んだのだろうか? 彼女の非難の声が聞こえて来た。


 "獣"とは、"獣の爪牙"の通称だ。ルート的に、当然サラたちとガウルはすれ違っていたのだろう。

 

 サラにエルフィ、アクシア──あれ、一番騒がしそうなあの子の声がしない。

 

「……ちょっとノーネ、何をしている!? どうも静かだと思ったら!」


「え?」


 エルフィの驚く声が、壁の向こうから聞こえてた。


「えへへへへ」


「え……えぇぇぇぇぇ!?」


 視線を上げると、壁の上からノーネが顔を覗かせていた。


「ルクスンみーっけ」


 人懐っこいドワーフの少女が、満面の笑みを浮かべる。


「あああ、あの子はもう!」


「ずるい、ボクは自重したんだぞ!」


「そういう問題じゃない! こらノーネ!」


「エルフィ、風ではたき落とせ!」


「了解!」


「馬鹿! だからいまは精霊力の制御が──」


 サラとエルフィを制止するようなアクシアの声が聞こえて来たかと思うと──

 

 轟音と共に壁が吹き飛んだ。

 


   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「いてて……」


 爆風に飛ばされた先が幸いにして湯船だったらしく、それほど体を打ち付けることはなかった。

 

 何が起きたのか確認しようと顔を起こして目を開けようとした瞬間──


 

(むにゅ?)



 柔らかい感触と、淡い小麦色が視界の全てを覆いつくした。

 

「ルクスンつかまーえた♪」


「うわぁぁぁぁ!」


 裸のノーネが、胸に僕を抱きかかえるようにして上に乗っかていた。

 

 身長は小柄だけど意外と、む──胸がある!

 

「こらノーネ!」


 目の前の光景を視界に納める罪悪感から逃れるように、僕は顔を逸らしてサラの声をした方を見た。

 

 それはそれで──失敗だった。


 壊れた壁を越えて来たサラと、その後ろには呆然としているエルフィ、頭を抱えているアクシアの姿を捕らえる。

 

 みんな──一糸まとわぬ、生まれたままの姿で──

 

 エルフらしいスレンダーな、それでいて肌は透き通るような琥珀色のエルフィ。

 

 魔法士のローブを着込んでいて気づかなかったけど、スタイルがすごくいいアクシア。

 

 「こらノーネ! 離れないか!」

 

 赤い髪を振りまいて、ノーネを引きはがそうとするサラ。

 

 お湯に浸かった影響か、ほのかに赤身のかかった肌を、隠そうとせずサラは振る舞う。その動きに合わせて、ノーネやアクシアに劣らない、魅惑的な実りが揺れた。


 そこで脳の処理能力(キャパシティ)を超えたのか、それともやはり打ちどころが悪かったのか──僕はそのままスーっと意識を失った。

ご覧いただき、ありがとうございました。


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本日は8話まで掲載する予定です。

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