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第47話 獣の魔人

「僕は彼女たちと一緒に、上へ行く!」


 ルー君の言葉が、胸を打つ。


 彼は、ボクたちを選んでくれた。


 正直不安もあっただろう、不信もあっただろう。


 それでも、彼はあの日握った手を、離さないと言ってくれた。


『いつかキミが、誰かを救ってやればいい。ボクがキミにそうしたように。そしてキミが誰かにそうした時、きっとその誰かも、いつか他の"誰か"を救うのだろう』


 レンファの言葉を、思い出す。


 ああ、きっと救われたのは……助けられたのはボクなのだろう。


 ボクはどうやって、彼に報いることができるだろうか?



   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「いやっはっはっはっは! 振られたなぁ、おいティーゼ」


 楽しそうなガウルの笑い声が響く。


「どうやらそのようだ。彼が再加入してくれればこれから先、いろいろ楽になったのだろうが……残念だ」


 本当に残念と思っているのか分からない面持ちで、ティーゼが嘆息する。


「それじゃぁ、再開といきますか!」


 そう言って、ガウルは再び大剣を構えた。

 

「ま、待ってくれ、マスター!」


 そんなガウルを、"獣"のメンバーが呼び止めた。


「あん?」


 ガウルは鋭い視線をギルドメンバーに向ける。


 その視線に再びたじろぐも、今度は意を決して反論を続けた。


「もう、あんたには付いていけない!」


「そ、そうだ! せっかく来てくれた救援に襲いかかるなんて……あんたの私怨なら他でやってくれ!」


「俺らの魔法はもうまともに使えないんだろう!? 前衛のあんた一人でどうするってんだ!」


 口々に、ガウルの行動に対しての不満があふれ出す。


「どうやらそちらも振られてしまったようだね。まあ、彼らの意見には同意するが。せめて転移魔法陣にたどり着いてからでもよかっただろうに」


「あーうるせぇうるせぇうるせぇ!」


 そう言ってガウルは頭を掻き毟る。

 

 絶対的な強権とその肉体的強さ、物事を運ぶ強引さでギルドを動かしてきたガウル。うまくいっている時はそれでいい。でも、それが原因で危機的状況になれば、その不満の矛先が一身に向かいうのは当然だった。


「あー……もう面倒くせぇ」


 頭を掻き毟る手を止め、空を仰ぐと、ガウルは気の抜けた声でそう言った。

 

 ──気は抜けていたけど、なぜか僕の全身は総毛だった。


 な……に? 何かが危険を告げる。彼は、何をしようとしている?


「ティーゼ、もういい。ここで一度使っちまおう」


「いいのかい? 私としては、また集めるのが少々面倒なのだが……」


「じゃぁおまえ、いまこの状況を手持ちのカードだけでどうにかできんのかよ? 手持ちの切り札、ここで切ンぞって話をしてんだろーが」


「やれやれ……」


 なんだ……なんの話をしている?


「グリードはいい! 先に長髪の男を抑えろ!」


 同じく、なにか不穏な気配を察知したのか、サラがティーゼを制圧するよう号令を出す。

 

「おっと、させるかよ!」


 その前に、ガウルが立ちはだかる。


『 血と肉を別つ 魂と心を別つ 淀みなき魔力(オド)を貢げ 』


 ティーゼが聞きなれない詠唱を開始する。

 

 なんだ? 彼が水の精霊魔法を使う事も知らなかったが、これも彼が得意とする火系統の詠唱じゃない。

 

 何か……おぞましい何かが……


「が!」


 その時、いきなり息苦しさを覚え、その場に、倒れ込んだ。

 

「ルー君!?」


 サラが僕の元へ駆け寄ってくる。

 

「ぐあ……」


「なに……これ」


 倒れ込むのは僕だけではなかった。


 次々と、"獣"のメンバーが倒れ込んでいく。


『 混沌の釜を満たせ 仁を廃し 得を廃し 肉を灰せ 冥国より這い出たもう 』


 倒れていくのは、僕と"獣"のメンバーだけだった。"妖精"のみんなが、苦しんでいる様子は見られない。


「おまえは多分大丈夫だと思うが、くたばんじゃねーぞ、ルクス! そしたら面白いもんが見られるからよぉぉぉ!」


 そう叫びながら、エルフィとノーネの攻撃を捌いていくガウル。捌きながら、隙あらばアクシアの元へ突撃しようとして、そこをエルフィやノーネに阻まれている。アクシアは度々襲い来るガウルのせいで、詠唱に集中できていない。


 対称的に、フリーとなったティーゼはどんどん詠唱を完成させていく。普段ずさんなくせに、こういう時の立ち回り方と周囲の気配りの良さは本当に腹が立つ。


『 ここに捧げられた血肉を謳う 』


 ティーゼへ手が回らない。


 多分これは……暗黒魔法……それも、死霊魔術(ネクロマンシー)……


「ルー君!」


「僕は……大丈夫……ティーゼを……」


『 魂喰らい(ソウルイーター) 』


 だが、間に合わなかった。

 

 ティーゼの詠唱が完成し、何か、魂が鷲掴みされたような強い嫌悪感が全身を包む。


「ああああああ」


「きゃああああああああ!」


 周囲から悲鳴が上がる。

 

 何を──した?


「何を……して……いる……ティーゼ……!」


 なんで僕だけじゃなく……"獣"のみんなが苦しんでいる。


魂喰らい(ソウルイーター)。他者の魔力を命ごと食らう、死霊魔術(ネクロマンシー)の奥義だよ。魔力を吸い上げる対象として、ギルドメンバーには事前に刻印を済ませておいた。無論、ルクス、君もだ。もっとも奪った魔力の還元先は、私ではないがね」


 そう言って、ティーゼはガウルの方へ視線を向ける。

 

「へっへっへ……。来たぜ来たぜ来たぜ!」


 膨大な魔力が、ガウルへ集中していくのがはた目にも分かる。

 

「最高の気分だ!」


 ガウルが高笑う。黒いオーラが、彼の全身からあふれ出ているのが分る。それは炎の魔神と対峙した時のアドニスを彷彿とさせた。


「マス……ター……なん……で?」


 倒れ伏していたギルドメンバーの一人が、ガウルに声をかけた。

 

「あん? しぶてーな。まだ生きてるのがいたのか」


 え? 生きて? じゃあ、倒れ伏している"獣"のみんなは……もう!?


「どうし……て」

 

「どうしてもこうしても、何のために魔法士主体のギルドにしたと思ってんだ」


 ガウルが、問いかけて来たメンバーの頭を踏みつける。


「こういう緊急時の魔力タンクのために決まってんだろーが!」


 そしてそのまま、足を踏み抜いた。まるで熟れた果実のように、頭が砕け散る。


「ガ……ウ、ルゥゥ!」


 サラに肩を支えられる状態で、僕は力を振り絞って立ち上がった。


「よぉルクス、やっぱお前は無事だったか。まぁ奪うべき魔力量が空っきしだもんな。この時にクソの役にも立ちそうになかったのといい加減うざかったんで、ギルドから追い出した訳だが」


「そのギルドをまた一から立て直さなくてはならないと思うと、いまから気が滅入るよ」


 何を言っている……まるで何事もない日常会話のような口調で……この二人は何の話をしているんだ!


 理解が追い付かない。

 

 このための……僕たちはこの時のために、集められたのか!


「戦士であるあんたが、魔力をため込んでどうするのさ、ガウル!」


 アドニスのように、魔力を純粋な力へと変換したり、強力な魔法の数々を操るのならわかる。だが、ガウルは純粋な戦士だ。膨大な魔力を抱え込む意味が、ない。


 そんな意味のないもののために、彼らは命を吸い上げられたのか!? 命を落としたのか!?


「だ、そうだか? どうなんだよシャーラ? アクシズ?」


 サラとアクシアに、ガウルが語り掛ける。


 二人はガウルを睨みつけたまま、何も答えなかった。だけど何かを、強く警戒しているのは、分る。


「テメーら相手にこの名を名乗るのもクソむかつくが、こういう時は名乗りを上げるのが様式美ってもんだよなぁ」


 そう言って、彼の体からより一層の魔力があふれ出す。


魔導兵器(カルヴァディス)試作ゼロ号機……ヌル・グリード。推して参るぜぇぇぇぇ!」



 それはまたアドイストは違う、純粋な"魔"。狂える獣の魔人だった。


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