第44話 二つの"再会"
移動中、何度となく怪鳥や他の魔石魔獣と遭遇した。
どれも他の階層に生息するモンスターとは、その脅威度において数段上を行く相手だったが、僕たちは危なげなくそれらを撃退した。
風の精霊力が満ちているこの"暴風の荒野"。雷を扱う感覚にもなれ、かつ"ゼロ領域"まで使えるようになった。
ここにきて、パーティ全体の強度がまた上がった気がする。
そして、移動を開始して六時間が経過しようとしたところ──再会の時は訪れた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
視界の先に、人の集団を捕らえた。一人が立って周囲を警戒している以外は、皆がその場に座り込んでいた。
その立っている一人が、こちらに気づく。
"獣"に所属する、見覚えのある風の精霊魔法士の女性。エルフィのシルフと交信したのも、おそらく彼女だろう。
「あ……ああ……ああ!」
言葉にならない声を上げ、彼女が賢明にこちらに向かって手を振る。遠目からでも、憔悴しきっているのがよく解った。
約五日間、この第七階層で過ごしたのだ。体力、気力、共に限界だろう。
そんな彼女の行動に気づき、座り込んでいた"獣"のメンバーが一人また一人と立ち上がって、こちらに向かって手を振る。
「おおーい、ここだぁぁぁ!」
「ああ、ありがとう! ありがとう!」
口々に歓喜の言葉を口にする。
「さぁて、救援隊の中にルー君がいると分かった時の連中の顔が今から楽しみだね♪」
楽しそうにサラが笑う。
とはいえ、僕は内心穏やかではなかった。別れ方が別れ方だ。何を言われるか──
いや、何を言われても関係ないか。
所詮ここへは、僕は僕のエゴを押し付けるために来たのだから。彼らの都合も、何を言われるかも、知ったことじゃない。
「え、ルクス?」
互いの表情が判別できるくらいまで近づいた時、メンバーの一人が僕に気が付いた。
「え?」
「うそだろ……」
「どうして」
獣の爪牙に動揺が走る。
「ルクスだぁ……?」
そして、最後まで座っていた男が二人、ゆっくりと立ち上がった。
無精ひげに獣のような相貌。街中でもめったに外さないフルフェイスの兜を珍しく脱いでいた。鋭い眼光は変わっていないが、心なしか少しやつれたようにも見える。
もう一人は長身長髪の黒髪の魔法士。こちらは普段通り、一切の疲労をも顔に出さないほどの無表情ぶりだった。
「やぁ、ガウル。それにティーゼ。あとで組合から慶弔金の返還要求がくると思うから、よろしくね」
僕は臆することなく、皮肉を込めてそう言った。
ガウルの目が怒りで血走る。そんな彼を宥めるように。ティーゼが彼の肩に手を置いた。
「……そうか……あの時、第六階層で帰り際にすれ違ったパーティに救われたか? 今度はそいつらに寄生して、ここままで連れてきてもらったって訳か! 相変わらず寄生するのだけは上手いなぁ、ルクスゥゥゥゥ?」
「寄生だって? あっはっはっ!」
ガウルのその言葉を聞いて、サラが大仰に声を出して笑った。
「寄生してたのはどっちの方だい? どうだった、彼を抜いたここ第七階層の旅は? さぞかし快適だっただろう? 特に精霊魔法士の方々の所感を聞きたいところだね?」
「──それは実に気になる発言ですね。詳細をお伺いしてもよろしいですか?」
サラの言葉に、ティーゼが反応する。
「彼は風水士だったのさ。彼が側にいるだけで、精霊魔法士にとっては強力な強化支援者になる。キミらはそんな恩恵を──」
「サ……ラ……」
「? 何だい、アクシア?」
気分良く高説しているサラを、アクシアが肩に手を当てて止める。
──アクシア?
「どうしたんだい、そんなに青ざめて?」
アクシアの顔色が悪い。悪いというか、何かに怯えるように、震えている。何かの一点に視線を釘付けにされ、細かく震えていた。
僕とサラはその視線に釣られ、アクシアが見つめるその方向へ目を向ける。
その視線の先には──ガウルがいた。
ガウルの表情は、さっきまでとは打って変わって無表情だった。僕は知っている。あれはガウルが、何か猛烈に思考を巡らせている時の表情だ。
「ああー…………、思い出した」
そして、無表情のまま、ガウルはそんな声を上げた。
「第六階層ですれ違った時も、何か既視感があったんだが……ああ、そうかそうか、思い出したぜ」
自分の頭をポンポンと叩きながら、間の抜けた声でガウルがしゃべり続ける。
「けど、二人ほどは完全な新顔だよな? どうだい、妖精義骸の入り心地は? エルフとドワーフのお嬢ちゃん?」
表情のなかったガウルが、いやらしい笑みが浮べる。
エルフィとノーネが、鋭い視線をガウル向けた。ノーネに関しては本当に珍しく──おそらく初めてと思えるくらい、険しい顔つきになる。
妖精義骸? 入り心地? 不穏な言葉の羅列とガウルのいやらしい笑みに、胸の動悸が早くなっていくのが分かった。
「それに──はっ、なんだそいつは、髪伸ばしたのか?」
ガウルは視線をサラの方に戻し、何やら彼女の髪型について言及し始める。
「レンファのお人形が、いっちょ前にご主人様の真似事でもしてるつもりか?」
レン……ファ?
人物名だろうか? 知らない単語がガウルの口から語られる。
僕はサラの方を見た。彼女の表情は今まで見たことがないくらい──アクシアと同じように凍り付いていた。
「おいおい、俺が誰だかまだ分からねーのか? まぁ、感じが変わったのはお互い様だから、しゃーねぇか」
サラやアクシアの張り詰めた空気とは対照的に、軽い口調でガウルは話し続ける。
「ヌ……」
そして、サラが震える唇を開き──
「ヌル・グリード……」
そう、一言だけ告げる。
その言葉を聞いて、今度はガウルも空気が変わった。
再び表情は消え失せ、空気は軋み、緊張感が高まっていく。
「最後の最後に言ったよな、俺……」
そして、背中に帯剣している剣の柄に手を掛ける。
「俺を……試作機と、呼ぶんじゃねぇってなぁぁぁぁぁぁ!」
そしてガウルは背中の大剣を抜き、サラに斬りかかった。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。
「面白い!」「続きが気になる」と思っていただけたなら嬉しいです。
ブックマーク登録や【☆☆☆☆☆】で評価ポイントを貰えると、より一層頑張れます!




