第43話 この世界を超えた法則や叡智
「行こう。エルフィ、先導を頼む」
「了解した」
サラがみんなに号令をかける。エルフィはパーティの先頭に立って歩きだした。
「ルー君、ここからは可能な限り領域を展開し続けてくれ」
「うん、分かった」
残った"獣"のメンバーのことを考えながら、サラの指示に返答する。
七人……。既に三人、脱落者が出ている。誰だろう……エルフィに、いま残っている何人かの特徴を聞いてみようか?
そこまで考えて、僕は頭を振った。
ダメだ。余計な事に力や意識を裂くのはよそう。そもそも僕たちだって、そこまで安全に辿りつける保証はないんだ。
僕は懐から白紙のマップを取り出し、方角とマーキングポイントを書き記していく。
この白紙のマップを半日で踏破する想定でマーキングしろ。ただ確実に、帰路を示す図面に作り上げることだけを考えろ。
領域を展開しながら、マッピングも同時に進めていく。
僕がマップを走らせるペンの乾いた音と、時折空から聞こえてくる雷鳴だけが、僕らの耳を慰めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
移動を始めて一時間も経過しないうちに、それは空から襲ってきた。
怪鳥ガルーダ。それも三匹!
「固まるな! 狙い撃ちにされるぞ!」
GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
サラの警告と同時に、ガルーダの一匹が嘶いた。
次の瞬間、曇天の空より落雷が落ちる。
幸い誰かの上に落ちることはなかったけど、その衝撃で僕とアクシアが後ろへ飛ばされた。
雷を司る空の怪鳥ガルーダ。かなり驚異のモンスターだ。それこそ、番人として配置されていてもおかしくないくらいの……。
GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!
最初に落雷を落としたガルーダとは、また別の怪鳥が吼える。
「そう何度も、やらせない!」
怪鳥の咆哮に張り合うように、空に向かって僕も吼えた。
吼えた怪鳥の周囲の"領域"を、限界まで閉じる。
その結果、落雷は発生しなかった。
いま、怪鳥の周囲には精霊力が一切ない。そんなもの、僕が許可しない!
『 天空の暴君 蒼穹の断絶者 その微睡みの終焉を告げる 起きよ 目覚めよ 覚醒せよ 』
祝詞の詠唱を開始する。
三匹の怪鳥が旋回する、その遥か上。曇天が、より唸りを上げて閃光を迸らせる。
杖は置いてきた。もう、いまの僕には必要ない。詠唱を続けながら、右手を天にかざす。
『 太古より大地を撃つ閃光 聖櫃を穿つ遠雷 天地を引き裂く断空の極光を以て 支配の錫杖を振るえ 』
いかに雷を得意とする怪鳥といえど──
『 ここ暁天の星を別つ 』
これを受けて耐えられるか!!
『 雷帝!! 』
空が、光った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
轟雷が天空に響き渡る。腹の底まで震わせる雷音が轟く。
空一面が光った。この第七階層、暴風の荒野がどれだけ広いか分からない。それでも、その全域にいき亘ったのではないかと思えるほど、その光は鮮烈だった。
三匹の怪鳥の姿はない。全て、消し飛んでいた。
「ふぅ……」
とりあえず脅威が去ったことに安堵し、一息つく。
「ルー君……いまのって……」
声がした方を見ると、驚いた表情で僕を見つめるサラがいた。
「いつの間にあんな……風水術かい?」
「うん。天変魔法じゃない。ただの風水術」
ただの自然現象。特に術式による指向性は持たせていない。──まぁ、規模はかなり大きかったのと、自分たちに被害が及ばないよう別の処置は施したけど。
「たぶんここなら、次は祝詞なし、同威力で発現可能だと思う」
「しかもこの規模の威力が、魔力消費なしなのかい……」
サラは一層その目を見開いた。
この階層に満ちている風の精霊力の純度、容量なら、あの規模の"雷製"もさほど難しくない。それに──
「風の風水術に触っていたのと、天威無法を降ろした影響で、雷に対する適性がかなりついたのかもしれません」
額に指を当てながら、少し目を回した様子でアクシアが言った。──多分彼女の耳には、あの雷音は辛かったかもしれない。
風の風水術を使ってからこっち、上位元素の"雷"を生成する訓練を独自にしてきた。そして、天威無法の体験……。
"雷"を操ることに関しては、大分理解できてきたと思う。
「それともう一つ。意図的に任意の座標にゼロ領域を展開できるようになりましたね?」
「ゼロ領域?」
「一切の精霊力を遮断した状態の事です。ガルーダの落雷を阻止した時。そして、自身の雷帝を発動させた時──あれほどの雷光が、私たちのいる地上には一切届いてきませんでした」
「ああ、うん。それならやった。感覚で余波がありそうなのは分かってたので、それがみんなに届かないようにはした……けど……」
自分で言っていて、ようやく、すごいことやってのけた自覚がでてきた。感覚的に疑問も抱かず、色々なことを実践しきった自分に、いまさらながら驚く。
「これって、天威無法を降ろした影響なのかい?」
「ほぼ間違いなく。天の扉を開かない限りは危険はないので大丈夫だとは思いますが、天威無法に繋がった事により、この世界を超えた法則や叡智を無意識で知覚している……ということろでしょうか? 確証がある訳ではありませんが……」
この世界を超えた法則や叡智……。
なぜだろう……なぜか、その言葉を素直に納得できた自分がいた。
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