第41話 オーナー
「お待たせしました」
今後の遺跡攻略に関して想いを巡らせていると、ライラさんが戻ってきた。両手に、四人分の銀の腕輪を持っている。
「ギルド"獣の爪牙"の認証腕輪になります。急なお話なので紋章を刻んではいませんが、腕輪にある認証番号を遺跡入口の衛兵に見せていただければ、転移魔法陣で第七階層へ向かえます」
本来であれば腕輪にはギルドの紋章を示す意匠も彫られるが、いま用意された腕輪には"獣の爪牙"を示す認証番号だけが彫られていた。
四人分──当然、今回新規加入となるサラたち"妖精"メンバー四人の物で、僕の分はない。
(ルー君、まさか自分のやつ……捨てた?)
(大丈夫。拠点の自室に置いてある)
心配して小声で尋ねて来たサラにそう返す。
未練がましいと思われるかもしれないが、心の中で決着を付けてなかったからだろう、アレを捨てる気にはまだなれなかった。
──いまは、まだ。
「いまは時間が惜しいでしょうから、ルクス君を信用して他のメンバー登録手続きは、無事帰還された後に行いますね」
確かに、僕はまだ妖精のみんなの登録証を提出していない。ライラさんに至っては、サラたちの名前すら知らないはず。
「なので……必ず無事に帰ってきてください。そうしないと、私のクビが飛びますから」
そう言って、彼女は笑った。
「良き巡り合わせがありますように。無事なお帰り、お待ちしております」
ギルド担当員の定型的なセリフを口にし、ライラさんは深々と頭を下げた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ずいぶんと、信頼されているようじゃないか」
組合を出て、一度僕の腕輪回収のため拠点に戻る道すがら、サラがそんな事を言ってきた。心なしか、機嫌が悪いように感じられる。
「ライラさんとはギルドの申請周りでいろいろお世話になって……」
主にガウルの無茶振りに関するゴタゴタが大半だったけど……。
「それでも、私たちの名前すら確認せずギルドの認証腕輪を渡すなんて、相当な信頼だぞ」
「本当に信頼だけなのかねぇ……」
エルフィの感想に、サラが含みを持たせた発言をする。
「意外と年上キラーなのかもね、ルー君は! いや、意外でもないか!」
? どいうい意味だろう?
「"オーナー"には会わせられないな」
「まったくだよ!」
おかしそうに言うエルフィに、サラがプンスコしながら同意する。
オーナー? 確か前にもチラっとその単語を聞いたことがある気が……。
「"オーナー"って、あの豪華な拠点の?」
「ああ、彼女は──」
そう言って僕の方を振り返ったサラの動きが止まった。
「やば……いや、ギリギリセーフか……?」
そして、そんな事を呟いた。
「──詳しく、聞かせてもらえます? 何がセーフなのか?」
サラのその呟きだけで看過できない何かを感じたのか、アクシアが鋭い声でサラを問いただした。
「いやぁ……そう言えば……"オーナー"から『ギルド登録はするな』──って言われていた気がしないでもないこともないこともない……」
「どっちですか?」
「……ギルド登録はするなって言われてました、はい」
怒られた子犬のように、しゅんと小さくなるサラ。
「なんでそう言う話を、私が同席していないところでするのですか……」
ため息をしながら、呆れた様子でアクシアが言った。
「いつです?」
「一番最初……」
「──ああ、エルフィでなく、私がノーネのお守をしていた時ですか」
「あい?」
自分の名前を呼ばれて、ノーネが可愛く小首をかしげる。
「一先ずこの話は保留にしましょう。サラの言葉でいうのなら、確かにギリギリセーフの状況です。無事帰還したあと、時間が許すならオーナーに理由を含めて伺ってみましょう」
そこまで言うと、アクシアは何か考えるような仕草をし──
「まぁ、理由に関しては──ある程度想像がつきますが」
「想像? どんな理由でだい?」
「王国も一枚岩ではない、という事でしょう」
王……国? 世界樹の遺跡を管理している、セフィアート王国?
「え? どうして王国なんて言葉が出てくるの?」
僕の当然と思われる疑問を受け、アクシアが僕の方を振り返った。
「この話も、無事帰還したらゆっくりするとしましょう。少なくとも、こんな往来でする話ではないでしょうから」
そう言ってアクシアは歩みを再開する。
珍しく先頭を歩くアクシアの後に、僕たちも続いた。
ここまでご覧いただき、ありがとうございました。
「面白い!」「続きが気になる」と思っていただけたなら幸いです。
ブックマーク登録や【☆☆☆☆☆】で評価ポイントを貰えると、より一層頑張れます!




