第40話 仮加入
「あの……結局なにがどうなっているのでしょうか?」
ライラさんが当然の疑問を投げかけてくる。
死亡報告を受けて、組合から慶弔金まで支給された担当ギルドのメンバーが生きていたんだ。あたりまえの質問だと思う。
「あ……すいません。第六階層で"獣"のメンバーとはぐれてしまって、こちらのパーティの方々に助けてもらったんです。なので、行き違いが発生してしまった……のかも」
言い訳としては苦しい……かな? でもここでありのままを伝えると、これからの要望を通すどころではなくなるかもしれないので、一時的な言い訳としてもこれで通したい。
「そうですか……。本当に無事でよかった」
そう言ってライラさんは目尻に溜まった涙をぬぐった。
本気で心配させてしまったようで……。ごめんなさい。
「でもそれなら、もっと早くここ来て生存報告をして欲しかったのに、今まで何をやっていたんですか!」
涙を拭って落ち着いたのか、今度はごもっともな理由で怒り始めた。どうしよう……何て答えたものか……。
「大きな怪我を負っていたので、私たちの拠点にまで連れ帰って治療していました。幸い私たちには癒し手がいましたが、まともに動けるようになったのは昨日今日の話しになりますので」
アクシアからフォローが入る。
「怪我!? 大丈夫なのですか、ルクス君!?」
「は、はい。もう、すっかり完治しました」
アドニスから、第六階層で遭遇したイフリートの事は組合には報告不要との話だったけど、それで良かった。これであの時の話をしようものなら、さらに話がこじれる……。
ミノタウロスに吹き飛ばされた時のダメージよりも、天威無法の反動ダメージの方が酷かったけど、外傷、精神力ともにいまは全快している。
「そうですか……それは何よりです」
どうやら納得してくれたみたいだ。
ほっと息をついたところで、僕はあることに気が付いた。
「──ちょっと待ってください。ということは今、僕って"獣の爪牙"に所属している扱いですか?」
「当り前じゃないですか。手続き上のミスで死亡扱いになっただけなので、籍はちゃんと"獣の爪牙"に所属していることになります」
「ちょお──」
抗議の声を上げようとしたサラを、ボクは手を上げて制す。
「僕に登録されてた"加入顕現"も、そのままですか?」
ギルドマスターが持っているギルド運営に必要な権限のいくつかは、所属するメンバーに分割委譲することができる。ガウルは組合に足を運ぶ面倒な事務手続きを嫌がっていたので、ギルドメンバー登録など"加入顕現"を僕やティーゼに付与していた。
「はい。当然そのままです」
しめた! 僕はサラたちの方へ振り返る。
「一時的に、"獣の爪牙"に"妖精の旅団"のみんなが加入するってのは、あり?」
「──なるほど」
サラは僕の意図に気づいたようだった。
「待ってください」
ライラさんの声がして、僕は再び彼女の方へ向き直る。
「……先行独占期間中の第七階層へ、"獣の爪牙"のメンバーとしてその方たちをお連れしたい、という事ですか?」
神妙な顔をして、そう切り出した。
「そうです」
僕は即、それを肯定する。
「ご存じ……だったんですね……」
そのライラさんの表情から、やはり"獣の爪牙"はまだ第七階層から帰還していないのが分かった。
これで、彼らは第七階層に突入してから五日間、還ってきていないことになる。
「手続き、お願いできますか?」
「あ」
一瞬、ライラさんが何かを言いかけて、その言葉を飲み込んだ。
「少々──お待ちください」
そして僕たちに一礼をすると、組合のカウンターの方に下がっていった。
「ギルドの加入期間が短いメンバーは、先行独占期間の対象外とか言われるかと思ったが、そんなことはないんだな」
エルフィがライラさんの後ろ姿を見送りながら、そんな事を言う。
「先行期間中にだけメンバーを増員するメリットが、ギルド側に無いですからね。独占期間で得た報酬の分け前が減るだけで。──ただ、今後こういった傭兵まがいな事は、流行っていくのではないかと思います」
「期間中だけ、メンバーを他から雇うことがかい?」
アクシアの説明を、サラが聞き返した。
「ええ……。層が上がっていくにつれ、難易度も上がっています。今回の"獣"は弱体化の理由も含めて特殊ですが、先行独占期間の潜入は場合によっては斥候部隊のようにな位置づけになります。──いわば人柱ですね」
「つまり、十日間の先行独占期間が、メリットにはならなくなるってことかい?」
「そこまでは言いませんが、傭兵を雇って報酬の分け前を減らしてでも、安全面を考慮する必要性が出てくるだろう、と予測します」
少なくても、そのフロア内最強の番人を倒した報酬にメリットが少なくなると、いま以上に各階層の攻略スピードは鈍くなっていくのかもしれない。
この世界樹の遺跡の頂上は何階で、果たしていつ、僕らはそこへ辿りつけるのだろう。
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