第39話 組合──ユニオン
翌朝、僕らはそろって組合の施設を訪れていた。
「相変わらず人でごった返してるなー。まだ朝早いのに」
サラが人であふれている組合内部を見回す。
「ノーネまだ眠ぃ~」
「相変わらず朝が弱いな、ノーネは」
フラフラしているノーネの手をエルフィが引いて、一同は組合のフロアを進んでいく。
ここ、世界樹の遺跡では組合と呼ばれているが、その在り方としては大きな街などに設立されている冒険者組織に近い。
管理していた世界樹の遺跡を開放したセフィアート王国。そこが主体となって、有象無象の遺跡荒らしによる略奪を防ぐため、冒険者の登録とルールを遵守させるために設立した組織だ。現在では王国だけでなく、拠点街の商人たちも寄り合って共同で運営がされている。
「第七階層の一般開放も近いですからね。何か新しい情報が入ってないか、確認しに来ている人も多いのでしょう」
アクシアが、あたりを見回しながらそう言った。
この組合に探索冒険者として登録しておけば、基本的に世界樹の遺跡で獲得した遺産は獲得した冒険者に委ねられる。ただし、発見した遺産の内容に関する報告は絶対で、これを破って無断で横領すると一発で資格をはく奪、場合によっては王国に投獄される。
"基本的に獲得した遺産は獲得した冒険者の物"というのは、所属しているギルドによっては報酬の公平分配がギルドの規則だったり、遺産の内容によっては王国が高額で強制徴収するなどのルールが課せられている場合もあるからだ。
「ギルド登録が可能な人数って何人からだっけ?」
「確か六人だったはず。いま設立しようとすればできるんじゃないか?」
サラの質問に、エルフィが答える。
一定数の探索冒険者の集団となればギルド登録ができ、少数のパーティで活動するよりも保険やら資源の供給など、組合から各種支援が受けられる。
「それはまたの機会にしましょう。いまは当面の目的を最優先に」
そこにアクシアが釘を刺す。
「まずは"獣"の状況を知りたいな……。ルー君、"獣"の担当員って分かるかい?」
「うん。分かるよ」
ギルドにはそれぞれ組合から担当員と呼ばれる人員が割り振られる。ギルドに関する登録や申請ごとなどの窓口となる人だ。普通は複数のギルドを掛け持ちするが、五大ギルドくらいになると専属で完全に一人の担当員が付いていたりする。
「あ、ちょうどいた。ライラさーん」
僕はフロア内を移動する見知った女性を見つけ、彼女に声をかけた。
「はい、なにか……ルクス君!?」
僕の姿を見たライラさんが、なぜかものすごく驚いた。
「え? ど、どうかしましたか?」
「ほ、ほんとに、本当にルクス君ですか!?」
僕の元に駆け寄って、両手で頬を掴まれた。
「生きて……たんですね」
目に涙を溜め、今にも泣きだしそうになる。
「ちょーと待った! うちの子にお触りは厳禁だよ!」
その間にサラが割って入る。
「落ち着いてください」
アクシアがいつものようにサラを宥める。
「"生きていたんですね"ということは、獣の爪牙から死亡届けでも出されてましたか?」
「え?」
アクシアが冷静な声で確認を取る。
さすがに、僕は少なからず動揺した。
「はい。既に慶弔金も組合からギルドの方へ支払われています……」
「あー、アドニスが組合で確認しておけって言ったの……これか」
サラの声に強い険が含まれる。
慶弔金はギルド登録されたメンバーが遺跡探索中に亡くなった際に、組合からギルドへ送られる保険の一種だ。
これは……さすがに……キツいなぁ……。
「本当に、助けにいく価値があるのか?」
エルフィが珍しく、怒気をはらんだ声を出した。
「ふふ、ふふふふふ」
サラのくぐもった笑い声が聞こえてくる。
「おーもしろくなって来た! 助けにいく価値? あるさ、大ありだ! これは楽しみが増えたね! ルー君、キミが"ざまぁみろ"って言い終えたら、次はボクに言わせてくれ! ボクらに助けられ無様をさらす連中を前に、こう言ってやるのさ!」
そこまで一気にまくしたてると、サラは人差し指をビシっと前に突き出してこう言った。
「"ねぇ、いまどんな気持ち?"──てね!」
そんな彼女に最初唖然としていた僕だったが、だんだんと自分もおかしくなってきて──
「ふ、ふふ」
「あは、あははは」
『あはははははははは』
みんなして盛大に笑い出した。
ああ、あの第六階層の奥底で、あの絶望の溶岩渓谷で──このみんな出会えて本当に良かった。
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