第37話 話をしよう
「実際、反対ではあります」
そういって、視線を逸らしたサラを無視してアクシアは続けた。
「そもそも現実的ではありません。第七階層が一般公開されてから救援に駆けつけても手遅れでしょう。かといって組合が管理する転移魔法陣以外で第七階層へは行けず、先行独占期間中は"獣"以外の探索冒険者を受け入れません」
「それは明日朝一で組合に行って交渉してみよう。組合だって、有力なギルドをみすみす全滅させたくはないはずだ」
そのサラの意見を聞いて、アクシアはため息を吐く。
「まぁいいでしょう。見方を変えれば、うまくいった場合は我々も先行独占の恩恵を受けられる可能性がある訳ですし」
「よぉし、そうと決まれば各自今夜は早々に就寝。今日の激戦の疲労をしっかり回復させて、明日朝一で組合に行くぞー」
「あいー!」
サラに釣られて、ノーネも拳を突き上げる。
「ゴメン、その前にちょっといいかな」
気勢を削ぐようで気が引けたが、僕は終わりそうな会話に待ったをかける。
──意図を察したのか、サラが真剣な面持ちで僕の方を向いた。
「話しておきたいんだ……。話してほしいんだ。僕のこと、みんなの事……」
ずっと、触れずに避けて来たこと。
「全てじゃなくていいんだ。僕も、全てが話せる訳じゃない。というか、話したくても分からない事のほうが多いと思う。それでも、話したいんだ。そして、話してほしいんだ」
僕がそこまで言うと、サラはそっと目を閉じた。そして何か思案したのち──
「うん──わかった。話そう。ボクも、話せることは限られているかもしれないけど──でも、できる限り」
「サラ」
「ごめんアクシア。でも、ここで話しておくべきだと思う。じゃないとボクたちは──」
サラが視線をアクシアから、僕の方へ向ける。
「ルー君が"自慢したくなる仲間"では、いられなくなると思うからね♪」
そう言って、彼女は太陽な笑みを浮かべて笑った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
まずは僕から話せることを話始めた。
孤児だった幼少期の事。同じ境遇の子供たちと徒党を組んで、スリや盗みで生活をつないでいた事。スリの腕はリーダーに一目置かれていた事を話した時、サラは「それで……」と何か納得したようだった。
組手をしている時、立ち回りや間合いの取り方が素人じゃないと言われたけど、思いがけずスリの技能が活きていたのだと思う。特に相手の懐に入る技術は、八極掌と相性がいいのだという。
そして仲間に売られ、捕縛されたことを話す。拷問を受け──そして
「多分その時……あのイフリートと対峙した時に降りて来た"何か"に選ばれたんだと思う」
その瞬間の記憶は曖昧で、詳しく話すことができない。何かの力が働いていたのか、瓦礫に押しつぶされた瞬間、そしてその後の記憶はほとんど残っていなかった。
「曖昧な言い方しかできないけど……この世界とは全く異なる別の"何か"だと思う。魔法とも、風水術とも違う、異質な力が流れ込んできて──」
そう、まるでこの世界を推し量る──そんな神の視点、思考に塗りつぶされ──
「ルー君、もういい!」
パチンと、頬をサラの両手が軽く叩く。
「あまりアレの事で、思考を巡らせない方がいいでしょう。そう簡単に繋がるとは思えませんが……念のためにも……」
アクシアが神妙な顔をして言う。
「アレは──何なの?」
二人は……そしてアドニスも、知っている風だった。そして、とても危険視していた。
「神──もしくはそれに準ずる何か、だと思っています」
神──それは、心のどこかでおおよそ覚悟していた気がする。
「それって、六大神?」
神話の大戦を生き抜いた六芒の神。
「もしくは、それ以上存在」
六大神の──上!?
「そ、そんなのが存在するの?」
「当然、私は見たこともなければ感じたこともありません。六大神の上位存在というのも、あくまである人の推測にすぎません」
ある人の──推測?
「その人って……誰?」
アクシアがサラを見る。そしてサラが頷く。
「ボクたちの恩師で先生──キミのおそらく一世代前にあたる、先代の精霊神子だよ」
初めて"妖精"のみんなに会ったあの日、天変魔法を撃った僕に向かって投げかけられた言葉を、この日再び耳にした。
──精霊神子
でもその単語……最初にあった時以外に……どこかで聞いた覚えが……どこで……
『──速やかに使命、星の裁定を実行してください。』
「あ」
唐突に思い出す。
僕の頭の中で、しきりに実行を呼び掛けていた言葉が──確かに星の裁定だった。
「イフリートと対峙してる時、頭の中で繰り返し言われていた気がする……星の裁定を実行しろって」
第六階層で魔神と交戦していた際──天威無法を降ろした時に、頭の中で響き渡っていた言葉があったことをみんなに告げた。
「彼女も、似たようなことを言っていたね」
彼女──先代というのは、女性?
「ボクたちの精霊神子に関する知識は、全てその人からの伝聞ということになる。全てを知っている訳じゃない」
「その先生って……どんな人だったの?」
「──この世界の人じゃなかった」
え? それってまさか……
「降臨英雄?」
僕の投げかけに、サラは黙ってうなずいた。
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