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第3話 実は地形の影響を強く受ける風水士(前編)

「おっと、こんな可憐な女の子に力比べを挑むとか、紳士的じゃないなぁ」

 

 ミノタウロスが振り下ろした棍棒に、一層力がこめられる。

 

 しかし女の子は変わらずに片手で、それを容易く受け止めていた。

 

 「火球(ファイヤーボール)っと」

 

 空いている方の手に持っていた杖をミノタウロスに向けたかと思うと、突如呪文の詠唱もなしで魔法を発動させた!


 僕がさっき使ったもと同じ、火の初級魔法。

 

 だが、効果の差は歴然だった。

 

 僕の時とは比べものにならない程の爆音と爆炎を上げ、消し炭になったミノタウロスは吹き飛んでいた。

 

「げほっ……げほっ……」


 無詠唱での魔法は、その効果を著しく低下させる。


 それでこの威力──この女の子は、いったいどれほどの魔法士なんだ……。

 

「ま、魔力の調整を誤ったかな……新調したばかりのマントに炭がついてしまったよ」


「サラ、また勝手に先行して!」


 赤い髪の女の子が煙を払っているところに、別の誰かが風のように現れた。


「のんびりしている時間がなさそうだったのでね。エルフィ、前衛を頼めるかい?」


 サラというらしい赤い髪の女の子が、後から来た人物にそう声をかけた。


 僕はエルフィと呼ばれた、後からきた人物に視線を向ける。

 

 金色の長い髪と鋭利な耳。スレンダーな体系。腰には細剣(レイピア)を帯剣し、重そうな鎧は一切纏っていない。

 

 一目で、エルフと分かる容姿をしていた。

 

「了解した。ノーネ、前に出るぞ……って言ってるそばから!」


「いっくぞー!」


 エルフィが後ろに向かって声をかけた瞬間、何者かが僕たちの横をすごいスピードで通り過ぎた。

 

 小柄な女の子。僕と同じ栗色の髪で、自分の背丈とほぼ同じ大きさの大槌(ハンマー)を軽々抱え、ミノタウロスの群れに突進していく。

 

「ノーネ! ああ、もう!」


 エルフィはそう悪態付いて、ノーネと呼んだ女の子の後を追った。

 

「騒がしくてすまないね」


 そう言ってサラは僕の前へ膝を付いた。

 

 そして手をかざし、よく聞き取れない小さい声で何かを唱え始める。

 

(……え?)


 そして、体の痛みが引いていくことに驚愕した。


「どうだろう? 起き上がれるかい?」


 その彼女の言葉に従って、僕は難なく体を起こした。

 

「そんな……精霊魔法士……ですよね? どうして回復魔術を……?」


 彼女は精霊魔法士の筈だ。先ほど火球の魔法を使っていたので、間違いない。

 

「ボクほどの大魔法使いともなれば、これくらい造作もないさ」


 人体の損傷の回復――癒しの奇跡は神に仕える聖職者にのみ許された神聖魔法で、決して精霊魔法士では使えないはずなのに……。


「状況はどうですか?」


 また、新たな人物がサラの元へやって来た。


「遅いぞアクシア。ずいぶんとのんびりさんだな」


 アクシアと呼ばれた、同じく魔法士の格好をした女性だった。


「わたしをエルフィやノーネのような戦士系とは一緒にしないでもらえますか?」

 

 青く長い髪を後ろで編み、無造作に伸ばされた前髪から、微かに覗かれている右の瞳は深い藍色。


「ボクだって魔法士だぞ?」


「あなたは特別製でしょう?」

 

 サラとは対照的に、青髪の彼女はどこかのんびりとした印象を受けた。

 

 

 GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!


 

 突如、ミノタウロスの断末魔が響き渡った。それも一つや二つではなく、複数のミノタウロスが絶叫を上げ、次々と倒れていく。

 

 そこにはエルフィと呼ばれたエルフの少女が、細剣(レイピア)を抜いた状態で佇んでいた。

 

「……どういうことです、アレ? 彼女の風の付与魔法(エンチャント)、あそこまで威力ありましたっけ?」


 エルフィを見つめながら、アクシアがそう呟いた。


「本人も戸惑っているみたいだね」


 そう言ったサラの視線の先にいるエルフィはというと、自分の細剣と死屍累々のミノタウロスを交互に見比べ、オロオロしていた。


「ボクもさっき、火球の火力を誤ってひどい目にあったんだが……」


「……精霊魔法の威力が跳ね上がってる? 属性問わず?」


 サラの補足に、アクシアが何かを思案するかのように呟いた。


「よーし、次々いっくよー!」


 聞こえて来たその威勢の良い声に、アクシアがはっと顔を上げる。

 

 いまだに数の減らないミノタウロスの群れ。そこに向かって大槌を振り上げるノーネの姿があった。


「ノーネ、それちょっと待ってください!」


 アクシアが制止の声を上げるが、大槌を持った少女の手は止まらなかった。

 

「そーれ、ドッコーン!」


「全員飛んでください!」


 ノーネが大槌を地面に振り下ろすのと、アクシアがそう叫んだのは同時だった。


 その瞬間、サラが僕を脇に抱えるようにして飛び上がる。

 

「え、ええ!?」


 その跳躍に、驚きの声を上げるくらいしかできなかった。


 次の瞬間、地面が割れた。

 

 裂け目はミノタウロスたちを飲み込むだけでは飽き足らず、僕たちのところへも侵蝕してくる。


凍る大地(フリーズヴァース)!」


 水の上位元素――氷属性の魔法が聞こえた。同じく宙に飛んでいたアクシアが、詠唱もせずに上級魔法を発動させたのだ。


 次の瞬間、地面が凍り付いた。


「無詠唱で――一瞬で凍った……」


 サラに抱えられたまま着地する頃には、割れていた大地は氷の地面に変わっていた。

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本日は8話まで掲載する予定です。

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