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第29話 開け、天の門

「来るぞ!」


 サラの声と、眼前を閃光が覆ったのは同時だった。

 

 アクシアが無い魔力を振り絞って魔法を唱えようと息を吸い込んだが、それすら間に合わない。

 

 破壊の権化。煉獄の化身。炎の魔神の異名を僕たちは身をもって思い知る。

 

 魔法に置き換えれば超級相当の、予備動作なしの瞬間発動。轟音を伴った轟炎が、僕たちを吹き飛ばす。

 

 

   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……さっきも思ったが……風で炎を逸らすとか……器用だな……」


「一歩間違えると逆効果だから……アクシアからは止められてるんだけどね……」


「はは……0か100かの博打で他に手段がないなら、そこは賭け(BET)一択だろう。アレを至近距離で食らって消し炭になってないのだから──」


「死ななければ安い……かい?」


「そう……それ」


 僕たちの所まで、まとめて吹き飛ばされてきたサラとシアノの軽口が聞こえてくる。

 

 ゆっくりと身を起こす。──起き上がれたのは、僕だけだった。

 

 サラのシアノの二人は、それぞれ仰向けになった状態で軽口を叩いていた。案外、この二人は相性がいいのかもしれない。

 

 後ろを振り返る。アクシアとエルフィ、ノーネ、そして庭園の二人が飛ばされているのが見えた。五人とも気を失って──いや──

 

「く……」


 アクシアが、身を起こすのが見えた。

 

 他の四人は、胸や肩が動いているのが分かった。息は、ある。

 

 前方を向き直る。

 

 立ち尽くす炎の柱。変わらぬ威圧。変わらない絶望。変わらない恐怖。

 

 直ぐさま、こちらに再度攻撃を仕掛けてきそうな様子はない。何かを見定めるかのように、こちらを見据えたまま立ち尽くしていた。

 

「く……あ……今度は流石に……癒しがいるだろう?」


「ああ……お願いしたいね」


 続いてサラが身を起こし、シアノに癒しを施す。

 

「聞いてはいたが、詠唱もなしで見事なものだな」

 

 シアノの体が一瞬淡い光に包まれたかと思うと、全身を焼いていたかのような跡は消えていた。

 

「ルー君も、大丈夫かい?」


「僕は──平気」


 強い衝撃を受け、一瞬意識を失いかけてたけど、炎によるダメージは何故かほとんど感じられなかった。

 

「それは……良かった」

 

 見れば、むしろサラの方が酷い有様だった。髪はあちこちが焼け焦げ、肌には火傷の後も見られる。

 

 サラは後ろを振り返り、いまだ倒れたままの四人の元へ向かおうとして──

 

「待って……ください」


 アクシアに腕を掴まれ、止められた。


「このまま、あなただけでも……離脱してください」


 そう、サラに言い放った。


「なに……バカなことを……そんな話、聞ける訳ないだろう。──離してくれ」


「…………」


 アクシアは離さない。開けた右目でサラをじっと見つめる。

 

「あなたが死ねば、全てが終わります(・・・・・・・・)。本当に私たちを助けたいのなら、逃げてください」


「──ホントにキミは……いつも卑怯だ」


 泣きそうな顔で、サラが言った。

 

 

 僕は──なにもできないのか?

 

 

 力が欲しい。

 

 あのアドニスのような超人的な力が。

 

 あの日、颯爽と僕を助けてくれたサラのような力が。

 

 僕を認め、迎え入れてくれた人たちを護る力が。

 

 全てを()るだけでは足りない。全知では足りない。

 

 力が欲しい。

 

 あらゆる暴力を跳ね返せる力が。

 

 あらゆる理不尽に屈しない力が。

 

 あらゆる事を可能にする力が!

 

 

 全知にして全能なる力が欲しい!

 

 

 そう切望した瞬間、何かが僕に舞い降りた。

 

 風水術を行使する時のような、世界と一体化していく感覚とはまた違う、異質な感覚。

 

 自分が、何か別のモノ(・・・・)に作り替えられていく感覚。

 

 自分の体の細部に至るまで分解され、再構成されていくようなおぞましい体感。

 

 だが、別物になる不快感も、恐怖心もなかった。

 

 その"置換"の先に、今まではにはない"力"を得られるという確信だけは、なぜか強く感じた。

 

 その確信が、何かの核心へと届いた時、言葉が──"宣誓"が自分の中に生まれた。

 

 それを、口に出す。"呪文"でも"祝詞"でもない──天へと繋がる"宣誓"を。

 

 

 

『 開け 天の門 』

 

 

 

「「!?」」


 僕の口から出たその言葉を聞いて、サラとアクシアは激しく僕の方を振り返った。

 

「嘘……待って!」


 サラの、酷く怯えた声が聞こえる。

 

「サラ」


 対して、冷静なアクシアの声が聞こえた。

 

「何をする、離してくれ! 止めないと! あれは!」


「誰も犠牲にせず現状を打破したいのなら、おそらくこれが最善手です」

 

「誰も犠牲に? ──その中に、()は入ってるのか!?」

 

 

 

  僕?

  

    僕……

    

      ぼくハ、ダれダ?

 

 

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