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第22話 炎の王

「ずいぶんと嫌われてしまったようだね。もちろんルクス君だけではなく、君たちのことも興味深々なんだがね」


 怯むことなくシアノが続ける。


「メーワクだ! 勧誘に関してはそこのアドニスにちゃんと断ったぞ! それともまだ水を浴びたりないのか!」


 一度鎮静化を見せたのだが、再びヒートアップするサラ。


「……怒らせてしまったとは聞いていたが、いったい何をやらかしたんだいアドニス?」


あんなモノ(・・・・・)を贈ってきておいて、どの口が……」


「サラ!」


 アクシアの制止の声に、サラがはっと手を口に当てる。

 

「あんなモノ? 最終的に許可を出したのは私だが、アドニスの選んだあの魔石はそんなにお気に召さなかったのだろうか?」


「──なんだって?」


「ギルドの宝物庫から、お礼の贈り物を見繕うようアドニスに指示を出した。──アドニス、あの魔石には何かいわく(・・・)でも付いていたのか?」


 シアノがアドニスの方に話を振る。


「さぁ? 事前にそちらのリーダーを調べさせて頂いた際に、赤い髪で火を得意とする精霊魔法士と伺っていたので。ブラッドルビーの魔石は、実用も兼ねて贈り物としては最適かなと思った次第ですが」


 感情を読み取らせない、事務的な笑顔を浮かべてそうアドニスが切り返す。


「との事だ。何か失礼があったのならそれは当方の意図したことではないが、不快にさせることがあったのなら申し訳ない。ギルドを代表して謝ろう。すまなかった」


 そう言うと、五大ギルドの一角であるギルドマスターは深々と頭を下げた。


「ちょ、や、やめてくれ。頭を上げてくれ」


 サラが戸惑った声を上げるが、シアノは頭を上げようとしない。


「ギルドメンバーを助けてくれた恩人に対して、感謝の意を伝えるどころか怒りを買ったままにしておくなど、ギルドの沽券にかかわる」


 さっき『改めて挨拶に伺う』とか言っていたけど、アドニスの一件の謝罪のためだったのか。

 

 あまりいい噂を聞かないので警戒してたけど、案外しっかりした人なのかもしれない。

 

「わかった、もういいから頭を上げてくれ」


「おお、そうか。感謝しよう」


 シアノはそう言って勢いよく顔を上げると、満面の笑みを浮かべサラの手を取った。

 

「これを機に互いに友好を深められれば幸いだ」


「わかった、わかったから手を放してくれたまえ!」

 

 ブンブンと手を振り回して振り切ろうとするサラと、満足そうに笑みを浮かべるシアノ。

 

 その間、アドニスに鋭い視線を投げかけるアクシアを僕は見逃さなかった。

 

 

   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 僕ら"妖精"の五人と"庭園"の四人、計九人で第六階層を共に歩いていた。

 

「こらノーネ、危ないからあまり崖側によるんじゃない」


「……ボコボコゆってるー!」


 崖の下を覗き込んだノーネが嬉しそうにはしゃぐ。

 

「落ちたらまる焼けだぞ」


 エルフィがノーネの元に寄って彼女を抱え起こす。


「ノーネ丸焼き好きー」


「丸焼きになったらもう丸焼きは食べられなくなるぞ」


 ノーネの手を引きながら、エルフィが一行に合流した。


「それで、かの"庭園"のギルマスがたった四人で"溶岩渓谷(こんなところ)"に何の用だい?」


 サラはシアノにそんな質問を投げかける。

 

 僕ら五人パーティも、このフロアの適正難易度からすれば本来は少ない(結構安定して狩れてたけど)。

 

 彼女たちはそれを下回る四人だ。このフロアではかなり危険を伴うはずだが……。

 

「狩りというよりは調査の方が目的でね。積極的にモンスターと交戦しなければさほど危険はないよ」


 第四階層を超えたあたりから、遭遇する魔獣はほぼ好戦的(アクティブ)なので、そんなことはないと思うのだけれど……。

 

「うちのメンバーが遭遇したグランドタートルもそうだけど、どうも番人級が雑魚沸きしてるみたいな報告がいくつも上がってきてね。第七階層が解放される前に、少し様子を把握しておこうと思ったわけさ」


 "獣の爪牙"の第七階層先行独占期間、確かあと六日ほどのはず。


 ていうか、他でも起きてるんだ──番人級の、門以外での出現。


「そんなに頻繁に起きてるのかい?」


「四階層と五階層で確認されてる。なので第六階層でもと思って──」



 そこでシアノが言葉を切った。


 

 彼女の言葉だけでなく、足が──九人全ての足が止まる。

 

「おいおいおいおいおい、ちょっと待っておくれよ……」


 サラの声が震えてる。

 

 この九人なら、多分第六階層の番人、グランドミノスですら苦戦せずに討伐できると思う。

 

 そのサラの声が、震えている。

 

「これは……さすがに予想してなかった……」


 感情の読み取れない声で、シアノが笑う。


 僕たちの眼前に突如現れた、巨大な人型の炎。大きさだけで言うなら、グランドミノスよりも一回り小さい。


 頭には二本の角。炎よりもなお輝く真紅の瞳。見るだけで目が焼かれそうな轟炎を纏う体躯。

 

「イフリート……」


 サラが呟いた。

 

 

 火の精霊王。それは竜種と並ぶ、神に次ぐ最強の存在。


ご覧いただき、ありがとうございました。


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