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第21話 庭師

 その日は、第六階層"溶岩の渓谷"へパーティーの皆でおもむいていた。


 現在独占期間中で入れない第七階層を除けば、最も難易度が高いフロア。そして、僕にとっては"獣"から追放された因縁のフロアでもある。


 本来五人で挑むには難易度の高いフロアだと最初は思ったけど、その心配はしばらくして杞憂だということが分かった。


「みんなすごいね……」


 おびただしい数の火蜥蜴(サラマンダー)を倒し切った後、僕はそう感嘆の声を上げた。


 前衛では撹乱、牽制を担当するエルフィ。その隙を見て重い一撃を撃ち込むノーネ。そして後衛からは適時高火力な魔法を撃ち込んでいくサラとアクシア。バランスが良く、極めて高い戦闘力を持つパーティだった。

 

 ここに神聖魔法の使い手が居れば申し分ないのだけれど、いざとなれば癒しの手段を持つサラがいる。強化支援(バフ)に関しては僕の領域(テリトリー)がそれを十分補っていた。


 それに溶岩渓谷(ここ)なら、僕はアレが使用できる。

 

 "絶消"の摂理干渉(オーバーライド)──火の箱(フューツァリート)が。


 ──うん。控えめに言って僕たち最強なのでは?


「あまり浮かれないように。あと戦闘が終了したら、領域を閉じておいてください。必要のない時に展開していると、奇襲を受けた時に相乗りされる危険があります」


 少し気が緩んでいた僕を戒めるかのように、アクシアの忠告が飛ぶ。


「まぁ実際すごいよねボクたち。控えめに言って最強なんじゃない?」


 ボクと同じ感想をサラも持っていたようだ。


「以前第六階層に来た時はここまで楽ではなかったな。やはりルクスの加入は大きい」


 細剣(レイピア)を鞘に納めながら、そんなことを言うエルフィ。


「ルクスンいるなら連続でドッコーンしていいかぁ?」


「フロアそのものが決壊しかねないのでダメです。緊急時なら一回だけは許可します」


「むー」


 アクシアのダメ出しに、口を膨らませるノーネ。

 

「崩れた足場の下が溶岩の海だった──とかになっても知りませんよ?」

 

 そんな調子で、僕たちは危なげなく第六階層の探索を進めていた。

 

 

   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「おや、これは奇遇ですね」


 見知った顔とその一団に遭遇したのは、それからしばらく経った後のことだった。

 

「うげぇ」


 僕たちより一人少ない四人組。その中の一人の顔を確認したサラは、露骨に表情をしかめた。


「あはっはっ、そうあからさまな態度をとられますと、さすがに傷つきますね」


 言葉とは裏腹に、平然としたその美しい(かお)は相変わらず歪みない。


 "庭園"──幻想の華園(ミドルミスト)軍師(ストラテジスト)、アドニスだった。

 

 他の三人も、当然というか全員女性だった。

 

 一人は神官。淡いピンク色の長い髪を後ろで結っている大人しそうな少女。

 

 もう一人は神官戦士。同じ髪の色で、こちらは短く刈り揃えられていた。

 

 姉妹だろうか? 髪の色が同じこともあるが、二人とも装備の意匠に、"戦神"を示す紋章が見られた。

 

 そしてその中でも、小柄なアドニスたち三人より頭一つ大きい長身な女性が前へ出た。

 

「アドニス、ひょっとしてこの子たちが例の"妖精"たちかい?」

 

 深い群青の瞳に長く青い髪。凛々しさ、格好良さを感じさせる、気持ちの良い女性だった。


 胸当てに小さめの円形盾(ラージシールド)片手剣(ハンドソード)を装備。比較的スピードを重視したオーソドックスな剣士スタイル。その容姿や凛としたたたずまいは、どこかの聖騎士と言われても信じてしまいそうな優美さがあった。


「ええ。こちらが"妖精の旅団"のリーダーの……」


「五大ギルドの一角を担うギルドのマスターが、こんなところでそんな少人数で何をやっているんだい?」


 アドニスの説明を遮るようにして、サラが青髪の女性に話しかける。

 

 噂でしか聞いたことがないけど、じゃあやはりこの女性が──

 

「知り置いてもらえていたと光栄だよ。私の方から改めて挨拶に伺おうとしていたのだが──」


「キミは有名人だからね、シアノ・プティラ」


 シアノ・プティラ。世界樹の遺跡を探索するギルドの中で、五大ギルドの一角に数えられる幻想の華園(ミドルミスト)のギルドマスター。通称、庭師(ガーデナー)


「しっかし本当に噂通りのようだね。女の子ばっかりはべらせて……」


「アドニスも含めて誤解があるようだけど、私は別に女の子が好きなのではなく、可愛く、珍しいものが好きなだけだよ」


 そう言うと、シアノは視線をサラから僕に向けた。

 

「なので君にも大変興味がある、ルクス君?」


 な、なぜ!?

 

「ちょぉぉぉっと待った!」


 サラが僕とシアノの間に割って入る。

 

「ボクの前で色目を使うとかいい度胸だね! "庭園"のギルマスと言えど、ケンカを売るなら買おうじゃないか!」


「サラ」


 熱くなったサラの肩に、アクシアが手を乗せる。

 

「それくらいに」


「あ、ああ」


 途端に大人しくなるサラ。

 

 ただその視線は警戒の色を強め、シアノから外されることはなかった。


ご覧いただき、ありがとうございました。


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