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第2話 ギルドを追放された魔法の上達しない魔法士(後編)

 殿(しんがり)として残されてから、ミノタウロスの群れと接敵を遂げるまでに、さほど時間はかからなかった。

  

   GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!

  

 牛の頭をした二足歩行の魔獣の群れが、束になって眼前に迫る。

 

『 内なる魔力(オド)よ 火の契約よ 』


 僕は魔法を発動させるための呪文の詠唱に入った。

 

『 火球となりて我が意を果たせ! 』


 呪文を元に術式を編み、精霊の力を行使する。

 

 僕が実行しようとしているのは初歩的な攻撃魔法。でも、まともに発動したのは数えるほどしかない……。

 

『 火球(ファイヤーボール)ッ! 』


 力ある言葉と共に、僕の右手から炎に包まれた火球が放たれる。

 

「やった!」


 成功した!

 

 だけど……

 

 

   GYAAAAAAAAAAAA!!

 

 

 眼前まで迫ったミノタウロスに直撃するも、まるで意に介することもなく、魔獣は突進を続ける。

 

 棍棒を持った丸太のような腕が振り下ろされ、僕は遥か後方へ吹き飛ばされた。

 

 飛ばされた距離も、バラバラになりそうな痛みも、さっきガウルに殴られた時の比じゃない。

 

 いや……ある意味"痛み"は……ガウルに殴られた時のほうが強かった。

 

 

 心が、痛かった。

 

 

 僕がギルドに貢献できてないのは解っていた。僕なりに役に立とうと、努力もした。

 

 勉強もした。魔法以外の知識も身に着けた。雑用もこなした……。

 

 でも……こんな捨てられ方をされるとは、思ってもみなかった。

 

 流れてくる涙は、痛みのためか――悲しみのためか――惨めさか――

 

 ふと、右手首に巻かれた腕輪が視界に入った。

 

 "獣の爪牙"のメンバーであることを示す紋章の入った、銀の腕輪。

 

 ガウルたちの()か笑う幻聴が、そこから聞こえてくるような気がした。

 

 こんなところで、終われない。終わりたくない……!

 

「ぐっ……あ……」


 起き上がろうとしても、激痛で体が動かない。

 

 せめて、顔だけは上げる。

 

 視界には、獲物に逃げられる心配はなくなったと思ったのか、ゆっくりと歩を進めてくるミノタウロスの群れが映るだけだった。

 

(僕は……死ぬのか……)


 死への実感と恐怖が、身を包んだ。

 

(いや……だ……)


 まだ、何も解き明かしてない。



 あの瓦礫(・・・・)から這い上がって……まだ何も成していない。



 ある日忽然と消えた世界樹の魔法士たちの事も……。

 

 百年前の"災厄"の事も……。

 

 こことは完全に異なるといわれる異界の事も……。

 

 この世の果て、空の彼方、あの果てしない(そら)の向こう側に何があるのかも……。



 まだ何一つ、解き明かしていない!


 

(死にたくない……!)


 何も知らず

 

(死にたくない……!)


 何も解き明かせず

 

(死にたくない……!)



 無になりたくない!


 

 死にたくない死にたくない死にたくない知りたい死にたくない知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい!

 

「こんな……ところで……終わり……たくない……ッ!」


 眼前に迫ったミノタウロスを睨みつける。

 

 振り上げられる棍棒を見据えたまま、それでも視線は外さない。

 

「終わって──たまるか!」


 声を発するだけで胸に激痛が走るもの構わず、僕は吼えた。

 

 そして死が、振り下ろされた……。

 

 

    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ……

 

 

 ………………

 

 

 …………………………

 

 

 一瞬、何が起こったのか、理解できなかった。

 

 避けられないと思われた死は、訪れなかった。


 

「そんな状態で目を逸らさないなんて、なかなか見上げた根性だね♪」



 この場に似合わない、可憐な女の子の声がした。

 

 眼前に広がるのは、燃えるような赤く、長い髪。


 小柄な背中。

 

 僕と同じか、下手をすると小さいであろう女の子が、片手で――ミノタウロスの棍棒を防いでいた。

 

 魔法士の装いをしている、僕よりも小さい女の子が、片手で……!


「そのまま目を逸らさず、ボクの勇姿を見ていてくれたまえ」

 

 この瞬間から、僕の──本当の遺跡探索が始まった。

 

 

 世界へと挑む――僕と、彼女たち(・・・・)との探索が。

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本日は8話まで掲載する予定です。

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