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第18話 来訪者

「サラ、お客人です」


 バルコニーで再び(僕の主張としては)一方的にボコボコにされていたところ、アクシアの来訪によってそれは中断された。

 

「客? あ、オーナーが浴場の壁の件で文句でも言いに来たか?」


「わざわざそんなことで足を運べるほど、時間のある人ではないでしょう」


 自分が所有している──これほど高価な物件の器物破損は"そんなこと"では済ませられない気がするのだけど……。それとも、これだけ豪華な宿を運営している人ともなると、"そんなこと"で済ませられるのだろうか?

 

「……"庭園"からの客人です。昨日のお礼をしたいと」


 そう言ったアクシアの表情が、微かに曇った気がした。

 

「おお、その件か。昨日の今日だというのに、ずいぶん早いじゃないか。ルー君、今日はこれくらいにしておこうか」


 そう言うとサラはバルコニーを後にした。

 

 後に残されたアクシアと一瞬視線が合う。そしてすぐ逸らすようにして、彼女はサラの後を追った。

 

 解放されたことを喜び、その場で大の字になって寝ころびたかったけど、ふと"庭園"からの客人とやらの事が気になった。


 五大ギルドの一角、"幻想の華園(ミドルミスト)"からの使者。


 体のあちこちが痛むのを堪え、僕もアクシアの後を追った。

 

 

   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ちょうどの入り口のラウンジに差し掛かったところで、サラたちと合流できた。

 

 そんな僕たちの姿を確認したのか、ラウンジのソファーに腰かけていた人物が立ち上がった。

 

「庭園からの客人というのはキミかい?」


 その人物の美しさに、一瞬、呼吸が止まった。

 

 長い銀髪、宝石のような美しい青い瞳をした少女。幼い顔立ちをしながらも、どこか現実離れをした美を感じさせる、完璧な造形。

 

 そんな外見の美しさとは裏腹に、身にまとっているのは白のコートにショートパンツと、どちらかというと動きやすさ──機能性を重視しているような印象が僕の目には映った。

 

「初めまして。幻想の華園(ミドルミスト)のマスター名代(みょうだい)として参りました、アドニスと申します」


 そういって、少女は手を差し出した。

 

 姿だけではなく、声もどこか現実離れをした、蠱惑的な何かに包まれるような響きを感じさせた。

 

「"妖精の旅団"のリーダーを務めているサラだ」


 アドニスと名乗った少女の白い手に、サラが応じる。

 

「庭園のギルマスの名代を任せられるとはかなりの人物だと思うけど──すまないね、キミの名前に覚えがない」


 五大ギルドのメンバーでギルドマスターの代理を任せられる人物となると、ここ拠点街ではそれなりに名前の通った実力者が多い。

 

 僕も、アドニスという名前には憶えがなかった。

 

「加入自体はつい最近です。"軍師(ストラテジスト)"を任せられているのですが──まぁ名代と言えば聞こえはいいですが、雑用です」


 苦笑いを浮かべながら、彼女はそう言った。


 "軍師(ストラテジスト)"はギルド規模の大人数集団を、戦術的、戦略的にまとめ方向性を示していく重要な役どころだ。組織全体の戦力の把握、状況に応じた戦術の選択、遺跡潜入から帰還までの戦略の構築。どれも入ってすぐにの新人が簡単にできるものじゃない。

 

 ましてや幻想の華園(ミドルミスト)だ。希少技(レアスキル)持ちの巣窟。戦術の考案など、おそらくこの世界樹の遺跡に挑んでいるどの集団よりも難しい。

 

 ──ひょっとして彼女も、軍師(それ)を任せられるに足る、希少技(レアスキル)の持ち主なのだろうか?

 

「では改めまして。当ギルドメンバーの危機を救ってくださったこと。ギルドマスター、シアノ・プティラに代わり深くお礼申し上げます」


 そう言うとアドニスは胸に手を当て、深く頭を下げた。

 

「つきましてはそのお礼として、ギルドマスターよりこちらの品をお預かりしておりますので、どうかお納めください」


 そう言って、懐から手のひらサイズの鉱石を取り出した。

 

「「!」」


 一瞬、サラとアクシアが息を飲むのが分かった。

 

 アドニスが取り出した鉱石は、赤い魔石だった。

 

 一目で、一般流通されている物とは異なり、高純度の高級品であることが分かる輝きを放っている。

 

「ブラッドルビー……」


 その輝きを見つめながら、そうサラは呟いた。


ご覧いただき、ありがとうございました。


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