第15話 庭園
「それでぇ~? 大魔亀を引っ張ってきた元凶は誰だぁ~い?」
魔石となった大亀を手のひらで回しながら、サラは引きつった笑みを浮かべる。
「あい、ノーネ!」
「分かってるよこのトラブルメーカー!」
「サラ。ノーネはグランドタートルに襲われていたパーティを助けようとしたんだ。あまり責めないでやってくれ」
サラとノーネがいつもの微笑ましい(?)やりとりをしている間を、エルフィが言葉を差し込んできた。
「そうなのかい?」
「あい!」
いつものように元気よく手を挙げるノーネ。
「襲われていたパーティは無事なのかい?」
「かなりの負傷者がいた。グランドタートルの注意をこっちに引くのが精いっぱいで、その後どうなったかまでは……」
「案内してくれ」
「サラ」
エルフィとノーネを先導に駆け出そうとするサラを、アクシアが止める。
「ほうってはおけないだろう!」
振り替えるだけで足は止めようとせず、サラはそのまま走っていった。
「……ふぅ」
深くため息をつくと、アクシアもゆっくりと後に続く。
僕も、その後ろに付いて歩き出した。
「僕の時も……こんな感じだった?」
ミノタウロスに頭を叩き潰されそうになった時の事を思い出す。あの時も、最後にゆっくりと現れたのがアクシアだった。
「ああ、そうですね。こんな感じでした。もっともあの時は、声をかける間もなくすっ飛んでいきましたが」
そう言って苦笑するアクシア。
サラのあの瞬発力。身体能力。腕力に至ってはミノタウロスの棍棒すら片手で凌いでいた。そして、精霊魔法士でありながら癒しの奇跡──神聖魔法まで使いこなす。
きっと僕の時のように、今頃はグランドタートル相手に負傷したパーティの治療をしている事だろう。
「彼女は──サラは何者なの? あの脅威的な身体能力に──精霊魔法士でありながら、神聖魔法まで使う……」
妖精族であることだけは明かされたが、その種族までは知らされなかった。
妖精の中でも神聖魔法を使う種族は、稀にだがいる。だがその場合、彼らは以後精霊魔法を行使することはない。できないはずだ。
神は二信を赦さない。神ならざる精霊といえど、他に信仰を捧げることを是としない。
「神聖魔法ではありませんよ」
「え?」
「だからあまり……人目に触れさせたくはないのです」
「それってどういう?」
「…………」
それ以降、返答はなかった。
沈黙を保ったまま、僕たちはサラの後を追った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
僕とアクシアが到着した時には、あらかた治療を終えた後のようだった。
エルフィとノーネ、そしてサラに感謝の言葉を述べる三人の冒険者がいる。
「よりにもよって……"庭園"ですか……」
遠目からその三人の冒険者の姿を確認したアクシアの表情が曇る。
"庭園"──ギルド"幻想の華園"の通称。世界樹の遺跡を攻略しているギルドの中で、五大ギルドの一角に数えられる強力な集団だ。
団員数は五大ギルドの中でも一番少ないが、特徴的なのは"全員が女性である"ことと、"構成メンバーの大半が希少技持ちである"こと。
助けた三人は三人とも女性で、衣装や鎧には幻想の華園のメンバーであることを示す紋章が象られていた。
幻想の華園のギルドマスターは、"庭園"の通称にちなんで"庭師"などと呼ばれていいるが、これは一部の層からは蔑称的にも使われている。
ギルドマスターも女性なのだが……彼女は"女の子"と、"希少な能力を持った者"を極めて好む。
強引な勧誘の噂は後を絶たず、メンバーを引き抜かれた者の恨み節は時々聞こえてくる。
「ひょっとしたら……おそらく……いえ間違いなく……面倒なことになりますね」
そう言ってアクシアは、空の見えるはずもない石の迷宮の天を仰いだ。
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