第12話 強襲
火の怪鳥を生み出した時の感覚を思い出す。
内側から外側ではなく、外から内へ。
自分が世界で、世界が自分で。
『 悠久の風 自由なる翠 』
そして祝詞が、自然と僕の口から発せられた。
『 奔放なる大気の調べ 』
周囲の空気が荒ぶっていく。
『 飛び交う風の翼は旅人となり 古の舞踏を狂騒する 』
自然の指向性を定める。イメージしたのは極点。風の柱。
『 それは追憶と共鳴の詩 』
それを知覚した瞬間、眼前で風の渦が巻き起こった。
『 風の塔 』
出現した竜巻は一点から動かず、石の地面をえぐり続けた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「お見事。いや大したもんだ」
「風水術の行使はほぼ問題ないみたいですね」
竜巻が消えた後、サラとアクシアがそれぞれ感想を述べる。
攻撃範囲こそ狭く、対象としては敵単体になるのだろうが、削り取られた石の地面を見る限りその破壊力はなかなかのものだと思う。
「発動前に詠唱した祝詞って、しなくても威力は落ちないって話だよね?」
感覚を集中させた時に胸を突いてくる言葉、祝詞。
無詠唱魔法とは異なり、使用しなくても威力は落ちないというとんでもない話だった。
「そのとおり。ただ、慣れないうちはやっておいた方が良い」
僕の質問を肯定するサラ。ただし、祝詞の詠唱に関しては継続を促される。
「例えば体を動かす時、人は意識することなくそれを実行できます。ですがあなたは、今まで体の一切を動かさずにいました。体全体が、まだ一度も頭から体を動かす命令を受けたことがないのです。そのため今は『右手を上げるぞ』『左足から前に出るぞ』というのを意識的に言語化、命令を伝達させ慣らすように動かしている状態なのです」
「キミ自身が脳、世界が体だと思えばいい。その意識の伝達が、祝詞となって口に出る」
僕が脳で、世界が体──。それは、なんとなく理解できる。
自分が世界の一部であると自覚する、強烈な感覚。
「慣れてくれば体を動かすのと同様、祝詞の詠唱なしでも使えるようになります」
「そして──魔法の無詠唱のような威力低下や効果減退はなし?」
「はい。ありません」
改めて、そのアドバンデージに奮えが来る。
行使に制約はあれど、それに対する利点はとても大きい。地形の効果、蓄積されている外魔力次第では、極めて強力な後方火力となりえる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ん? 何だこの地響き?」
サラの呟きに意識を集中すると、微かに地面が揺れているのを感じた。
「……うちのトラブルメーカーの姿が見当たりませんね」
うん──ノーネの姿が見当たらない。
そして地響きに加え、何か巨大なものが歩く足音が聞こえて来た。
「探してくる!」
エルフィが音のする方に向かって飛び出していく。
「ルー君、領域を展開して警戒。対象をボクから後ろで指定できる?」
サラが前に出ながらそのような指示を出す。
「う、うん、やってみる」
まだ範囲指定は意識してできないけど、やれるだけやってみる。
「上々上々♪」
後ろを振り返らず前を見据えたまま、サラは杖を構えた。
その後ろに、アクシアが黙って控える。
普段よく悪ふざけをしたりアクシアにフォローされたりしている事が多いけど、こうしてみるとやはり、サラはこのパーティのリーダーであることが感じられた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
地響きと巨大な足音が近づいてくる。
「わ、わ、わ、わ、おー!」
「サラ、アクシア! 大物が来ます!」
音の主よりも早く、こちらに向かって駆けてくるノーネとエルフィが姿を現した。
そして間を置かず、轟音を上げ巨大なモンスターが出現する。
GURRRRRRRRRRRRRRRR……
地の底から響いてくるようなうなり声をあげて。
「大魔亀!? 第四階層"湿地帯"の番人がなぜ第五階層に!?」
人間の背丈の、ゆうに三倍はあるであろう巨大な亀のモンスターを見上げ、僕はそう絶叫した。
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